DIZ and GETZ | 風景の音楽

風景の音楽

“のすたるジジイ”が30~50年代を中心にいいかげんなタワゴトを書いております。ノスタルジ万歳、好き勝手道を邁進します。

 
DIZ and GETZ(★★★★☆)

Side 1 
1.It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing)    
2.I Let A Song Go Out Of My Heart    
3.Exactly Like You    
4.It's The Talk Of The Town    

Side 2
1.Impromptu    
2.One Alone    
3.Girl Of My Dreams    
4.Siboney (Parts 1 And 2)    

Stan Getz(ts), Dizzy Gillespie(tp), Oscar Peterson(p), Herb Ellis(g), Ray Brown(b), Max Roach(ds)
B2 : Stan Getz(ts), Hank Mobley(ts), Dizzy Gillespie(tp), Wade Legge(p), Lue Huckny(b), Charlie Pership(ds)

Recorded Dec. 9, 1953 in Los Angeles、B2 : May 25, 1954 in New York.
Released by Verve Records ‎– MGV 8141 / ポリドール株式会社 MV-2517

朝の底冷えで目が覚めた。
外の気温は0度近い。
橙色に染まった東の空の下、
大気が凍てついて動かぬ。

今年もあと一日を残すのみとなった。
毎年、この時期になるとなぜか気忙しい。
別段、何をせねばならぬこともないのに
正月準備にそわそわしてしまうのが可笑しい。

スタン・ゲッツとディジ・ガレスピィの53年録音。
裏面の2曲目だけは54年録音だ。
ポリドールの“ヴァーブ不滅のジャズ・シリーズ”である。
70年代初めから80年代にかけて発売された。

これは素晴らしい企画で毎月4~5枚のVINYLが発売されていた。
どの社も次々とVINYLを出していた黄金時代である。
給料は低くVINYLは高価だったのに
よくも次々と出せたものだ。

アタシは勤め始めたばかりの頃で
給料をもらうと日曜日に京都のVINYL店へ行って
輸入盤を一枚か二枚買ったものだ。
ジャケットの角を切り落とした輸入盤は国内盤より安かった。

ポリドールのシリーズを集め始めたのは50歳を過ぎてからだ。
オリジナル盤がべらぼうな値段がするのに
国内盤の中古だと珈琲一杯で買えることが多かった。
オリジナル盤にはとても手が出ぬから国内盤で充分である。

ゲッツがガレスピィと共演した録音は
このアルバムが最初である。
1曲目の“It Don't Mean A Thing”が怖ろしいハイスピードだ。
ガレスピィが火花の出るようなペットで煽る。

ピータースンがこれまた機関銃のようだ。
こういうハイテンポのクールはたまに聴くと新鮮だ。
退職してからはスロウ・バラードばかり聴いている。
宮仕え時とちがって何も急いだり焦ったりする必要がない。

仕事のテンポとVINYLのテンポは妙に同期している。
アタマを最高速で働かせて決断するのと
ハイテンポの火の玉JAZZはしっくりくるものだ。
宮仕えを離れるとどんどん生活テンポがゆっくりになる。

のんびり過ごせるようになると時の進み方は速い。
ゆったりまったり新聞を読み、
VINYLを聴きながら朝の珈琲を味わっているともう昼だ。
ジャケットをすみずみまで眺めているうちに陽が傾いて来る。

月日の過ぎるのも俊足である。
こないだまで熱暑にやられていたはずだったのに
もう年末だよ。
このアルバム、1曲目から弾丸列車で目が醒める。

2曲目からはおだやかなバラードなのが面白い。
“It's The Talk Of The Town”はホーキンスをおもわせるゲッツの
バラード演奏が絶妙である。
やはりゲッツは弾丸列車ではなくオリエント急行のほうがよい。

ピータースンのアルバム“Night Train”のジャケットは
アムトラックみたいな流線型の機関車の写真が魅惑的だ。
大陸横断鉄道は長い連結の列車が悠然と走る。
新幹線やTGVみたいに超特急で駆け抜けるのは無粋だ。

ジャワの鉄道は巨大なディーゼル機関車が
まるで汽船のエンジンのような轟音を立てて客車を牽引する。
単線を走る鉄道の時刻表は目安でしかなく、
すれちがいのため長時間停車したりするのが愉しかった。

ゲッツのスロウ・バラードはゆるゆると時間の過ぎていく気分があり、
やはりこれはオリエント急行の優雅さである。
ピータースンがNight Trainで弾くのは強大な馬力の
弾丸列車だから優雅さは微塵もない。

強引な弾丸演奏の強烈なビートはガレスピィにはよく似合う。
年も押し詰まり正月準備にとりかからなくてはと
煽られる気分もこれまた元気がでてくるものだ。
だが、ゲッツ君のバラードについ腰を落ち着けてしまうんだな。