春の景色を食べる | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

「光る足」

1999年2月から2000年12月まで百回にわたって毎週火曜日 熊本日日新聞のコラム「ワラブギ談義」の原本を10年ぶりに開きました。当時53才~55才。当時から伝えていることは変わりなく その心を読み返したく連載します。


2000・5・16 no68


春を食べようと近くの筑後川源流の奥にある草原を歩いた。五月の連休の後で人影はなかった。なだらかなうねりの丘陵は淡い緑に光っていた。クヌギ林は新芽に覆われて青空と気持ちのよさを競い合っている。足元は春の新芽で 柔らかく歩きやすい。


大きな松が幾本も 松くい虫のせいで立ち枯れしていた。緑の光の中を歩き巡る適度に広いくぼ地で 清流が中心を走りクヌギの木々が木陰をつくる穏やかな草原に出合う。春のリンドウが点在し なんとも美しい景色だ。


人の声もせず コジュケイのチッチッというさえずりと それを遮るようにウグイスのケキョケキョキョと甲高く鳴く声が谷間に響いて心地よい。ウグイスの谷渡りの鳴き声は始まると途切れず いつまでも鳴いていて舞台の女王のようだ。感激してしまった。私もいつまでも拍手を惜しまなかった。


こんな山野の奥までも車の入る道路が整備され開発されてしまっていた。歩けどもワラビは採られており 数年前に見つけていたダラの芽の林はバサバサと切られていた。今年はフジの花が美しい。大きな木にフジが頂上まで上り紫の花をいっぱいに飾り付け 甘い匂いを風にのせてくる。


フジの香りに酔いつつ丘を下ると黄色の小さな花が一面に咲いている原に出た。名も知らない小さな黄色い花が淡い新芽の草の波の上で輝き 風に揺らいでいてなんとも優しい気持ちにしてくれた。こんなに美しい国は世界にそう多くはないのに 道路だらけの国になった。経済が日本を壊してゆく。