芸能界のちょっとだけ、知っていることについて -3ページ目

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第十七回
「この土饅頭が何で出来ているかわかる」井川はるら先生が葉巻で空中に追い払った、そしてまだ空中に浮遊したままの土饅頭を見ながら葉巻のさきでそれを指さした。
「この土饅頭は生まれてから五日目に死んだシーズ犬を焼いた灰を混ぜて作ったのよ。ふふふふ。黒魔術の力を使えば守り神を作ることは自由なのよ」
「さっき、先生があの内庭の中は白魔術で守られていると言いましたよね。ではこのハロハロ学園の中に白魔術を使う人間がいるということですか」
探偵高橋愛の疑問はもっともなことである。その質問に井川はるら先生はコーヒーカップを胸元まで持ち上げながら、魔女のようににやにやとした。
「ハロハロ学園の理事長よ」
「ええっ」
「ええっ」
「ええっ」
三人の生徒たちが同時に変な声を出す。自分たちの学園の理事長が白魔術の使い手だったなんて。
「じゃあ、理事長に頼んで、内庭の中を見せてもらうか。内庭の中に何があるか、教えて貰えばいいじゃない」
石川りかがそう言って首をこきこきと右左に動かした。
「この馬鹿。尻軽女が」
井川はるら先生はそう言うとそばにあった今度のハロハロ学園の学園祭でやる芝居の台本を石川りかに投げつけた。
「きゃー」
「理事長は白魔術の使い手だよ。黒魔術の使い手のわたしがそんなことを出来るわけがないじゃないか。それに誰も理事長の姿を見たものはないんだよ。誰もだよ。白魔術の力で誰の目にも見えないように姿を隠しているからだよ。ほら、そこに理事長が立っているかも知れないんだよ」
「じゃあ、誰も内庭の中を見ることは出来ないなり。でも、あの中に侵入したものはいたなり」
「まみりちゃん、白魔術、黒魔術にかかわらず霊力の強いものはその中に入ることが出来るのよ」
井川はるら先生は言葉の調子を変えてまみりに言った。
「まみりちゃん、黒魔術の力をあなどるのではないのよ。理事長のつむじの毛を持って来て黒魔術の秘法を使えば人間でも守り神に姿を変えて白魔術の結界に入ることは出来るのよ。まみりちゃん、先生はその魔術を使えるのよ」
「でも、理事長の姿も見えず、どこにいるかもわからないなら、その魔術を使うことは出来ないのではないでしょうか」
「ふふふふふふ」
また井川はるら先生は不気味に笑った。こんなこともあるかと思ってよりしろを用意しておいたのよ。
 そのとき生物準備室の古ぼけた柱時計が夜中の十二時の時を刻んだ。
「時間もちょうど良い頃ね」
矢口まみりは今まで気づかなかったが部屋の隅の人の内臓とか、ねずみの死体とかがホルマリン漬けになったガラス容器の横に彫像が置かれていることに気づいた。
「キャー」
いつもなら冷静なはずの探偵高橋愛が大きな声を上げる。そこには目をつぶった教頭の蛭子がほこりにまみれて立っている。
「先生、蛭子教頭を殺してしまったかなり」
「ふふふふ、眠らせてあるだけよ。欲望にまみれている人間ほど黒魔術のよりわらにはふさわしいのよ。わたしが黒魔術で教頭をよみがえらせるわ。しかし、彼は生きていながら死後の世界の架け橋ともなるのよ。彼の見たものがわたしたちの瞳にも映るのよ。ククチュルチルル、クチュクラククク」
井川はるら先生が呪文を唱えると生きているのか、死んでいるのかわからない蛭子教頭が静かに目を開けた。
「キャー」
石川りかがハンケチを出して顔を覆いながら、おそるおそる、生き返った蛭子の顔を見ている。
「まみり、まみり、あれ、あれ」
まみりも気味が悪かった。生き返った蛭子の目はゆであがった卵の白身のように瞳がなかったからである。やがてゆっくりと水死人のような蛭子が動きはじめた。
「まみり、変なものが見えるわ」
石川りかの目にはさっきの土饅頭の下に道が出来ているのがたしかに見えた。まみりの目にも探偵高橋愛の目にもその道はたしかに見えている。
「三人とも何をしているの。すぐ、理事長の姿を探すのよ」
四人がハロハロ学園の校庭に出ると夜中の静けさしか、そこにはなかった。水死体の蛭子が自動人形のように歩いて行く。ところどころにそれぞれの守り神が歩いて行く道といものが見えるが、それをのぞけば夜中のハロハロ学園の校庭でしかない。これが死後の世界というものだろうかとまみりは思った。
「あれを見て、まみり」
石川りかが校庭の片隅を指さした。まみりも探偵高橋愛も黒魔術をかけられた蛭子教頭の目を通してそれを見ていた。百姓の隠居の離れのような藁葺きの家が一軒ぽつりと建っているではないか。
「見つけたわよ」
井川はるら先生が血のしたたるビフテキでも噛んでいるように不気味に言った。
「あの中に理事長が住んでいるんですか」
「住んでいるばかりではないわよ。この時間だったら寝ているはずよ」
四人、(五人という表現をとってもいいが、今は彼の目を道具とされて生きているとい表現は当たらないかも知れない)
四人はそのぼろい農家みたいな中に入った。家の中には一部屋しかない。入ったとたんに貧乏石川が歓声をあげた。
「クストー博士が、クストー博士が寝ていらっしゃるわ」
そこには海洋学者、今は死んでこの世にはいなJacques-Yves Cousteau博士がせんべいぶとんに寝ていらっしゃったのである。
貧乏石川にとってクストー博士は神と同じ響きを持っていた。
「クストー博士がハロハロ学園の理事長でいらっしゃったのだったわ」
貧乏石川の瞳は感動の涙があふれ出た。いつの日か、この方に会いたい。貧乏石川はそう思い続けて生きて来た。
貧乏石川は地中海の青い海が好きだった。それは正確なことではない。石川りかはその地中海の海に集まってくる大型クルーザーの住人が好きだったのだ。石川は鼻を垂らした弟とどんぶりの中にチキンラーメンを入れ、お湯を注いで麺がほぐれるとそれを啜りながら、ゴミ捨て場から拾ってきたもうすでにこの時代には死滅していた真空管式の白黒テレビで地中海の富豪たちの寄り集まる姿を見ることが崩壊寸前にある貧乏石川一家の生きる支えだった。
綺羅星のごとき富豪たち、オナシス、ロックフェラー、ケネディ、カーネギー、歴史に名を残す富豪たち、畳の破れた部屋の中で石川はそれらの人たちの姿に瞳を洗われるような気持がした。もしそれらの人たちがこの世に存在しなければ貧乏石川はその悲惨な生活のために自殺していたに違いない。
飛び交うシャンパンの杯、きらきらと輝く、金銀の装飾品、ダイヤの指輪、自分自身の空虚で絶望的な日々の中でそれだけが神の恩寵を現しているように石川には思えた。そして過ぎ去った日々の中で富豪の中で少し毛色の変わった富豪を発見した。その男は銀髪で地中海に浮かべたボートの上で独特の潜水用具を開発して青い地中海の海の中に潜ることを仕事にしていた。その神秘の海を記録映画にすることを仕事にしていたのだ。世間一般の人たちにはこれがアクアラングという潜水用具を開発して深海潜水艇を開発し、沈黙の世界を著した海洋学者であることを知っていたが、少し頭の弱い石川は地中海の上で船を浮かべている人間ならたとえ漁師であっても大富豪だと信じ切っていたから、この海洋冒険家を大富豪だと信じ切っていた。そしてその誤った認識が現在まで続いているのだった。
「クストーさま」
貧乏石川はせんべいぶとんで寝ているハロハロ学園の理事長、白魔術の使い手、クストー博士の枕頭で手も身もよじりながら感動に身をよじっていた。
「なにをぐずぐすしているんだい。あと、五分で理事長は目を覚ますよ。理事長のつむじの毛を三本引き抜くんだよ」
「そんなひどーいこと、やるの」
石川りかが悲鳴をあげている最中に探偵高橋愛はもうすでに身をかがめて理事長の頭のつむじから三本、髪の毛を引き抜いて、その手の中には銀色の髪が三本入っていた。名残をおしむ貧乏石川を無理矢理、連れ戻して生物準備室に戻ると蛭子教頭もリモコンの電気が切れたように壁に戻った。
「やっと、白魔術の結界を破るための材料が手に入ったよ。今夜のうちにその薬を作っておくからね。あの内庭の秘密を知りたかったら、明日の同じ時間にここに来るのよ」
そして三人は闇夜の中をハロハロ学園を出て自宅にもどった。探偵高橋愛は墓場を通って家に帰ったのは言うまでもない。
 次の日ハロハロ学園に登校した矢口まみりはあの内庭の秘密がわかると思うとそわそわした。教室の中には憧れの人のゴジラ松井くんがいる。あのカラオケ屋で失恋の痛みを知ったまみりだったが、まだゴジラ松井くんのことを愛していた。たとえ相手から嫌われていたとしてもゴジラ松井くんに恋している気持は少しも変わらない。消すことは出来ない。まみりは自分の座っている席から振り向いてゴジラ松井くんの姿を見ると、腹が減っているのか、クリームパンを囓っている。しかし、ゴジラ松井くんのことをなんでも知っている矢口まみりはゴジラ松井くんの顔色が少し悪いと思った。明日は亀有老人クラブとの野球親善試合があるというのにどうするつもりだろうか。矢口まみりがゴジラ松井くんのことを心配していると、吉沢ひとみが瓦版やの格好をして入ってきた。
「いいアルバイトがあるよ。いいアルバイトがね。交通量調査だよ。一晩で五千円もらえるよ」
教室の中の生徒たちが集まって行く。貧乏石川が駆け寄って行くのはわかるが探偵高橋愛までもがその人だかりの中に入って行った。
 あの薄気味悪い生物準備室に入って行くと井川はるら先生が地獄から来た猫のようににやにやと笑っていた。
「まみりちゃん、ひとりが、来たのね。これで石川りかや探偵高橋愛の黒魔術に対する不遜の念がはっきりしたわね。ここに白魔術の結界を破るための薬が出来ているわよ」
井川はるら先生の立っている後ろの席には薬瓶の中に入ったカレー粉の粉のようなものが置いてある。
「それが、その薬なりか、昨日、引っこ抜いてきたクストー博士のつむじの毛も入っているなりか」
「もちろんよ。まみりちゃん。でも、まみりちゃんが気持悪くなると困るからこの薬の材料については全部言うことは出来ないわよ。でもこの薬を飲めば、白魔術の結界の境界を見ることが出来るだけではないわ。その結界の上を自由に動くことが出来るのよ」
「すごいなり」
矢口まみりは驚嘆の声をあげた。
そのとき昨日と同じように生物準備室の中の古時計が薄気味悪く夜中の十二時の時を刻んだ。
「この薬は歴代の王たちも使ったものよ。でも、この薬の効用が現れているあいだはもとの姿のままでいることは出来ないわよ。まみりちゃん」
「じゃあ、何の姿になるのかなり」
「生まれ変わる前の姿よ」
井川はるら先生はさらりと言った。
「飲んで見る。そして、あの内庭に何があるのか、知ってみる」
「先生はもう、知っているのかなり」
「三十分前にもう試してみたわよ。あの内庭に何があるのかも知っているわ」
「教えてくれなくていいなり。自分で見てくるなり」
矢口まみりははっきりと断言した。
「まみりちゃん、じゃあ、この薬を飲んでみるだけね」
井川はるら先生が前を向いたまま薬瓶をとると矢口まみりに瓶の口をあけながら手渡した。矢口まみりがその薬のにおいを嗅ぐとやはりカレー粉のにおいがする。やっぱりこれはカレー粉なんだなり。矢口まりはうなづいた。瓶の口を口に当てて一気に口の中に流し込んでみる。するとまみりは薬の味を感じる前に身体がむずがゆいような感じがした。
「ふほほほほほほ」
井川はるら先生の薄気味悪い笑い声が聞こえる。
「まみりちゃん、可愛いわよ。これがまみりちゃんの生まれる前の姿よ」
そう言って井川はるら先生が持っている鏡には自分の姿が写っている。まみりは自分の目を疑った。自分の腕が素焼きのかけらで出来ている。そして鏡の中に写っているのは昔、子供番組で見たはにまるくんではないか。自分の本当の姿ははにわだったなりか。
矢口まみりは絶句した。
「この部屋の中にあの内庭の塀の上に続く結界の境の道が続いているわよ。まみりちゃんが知りたいなら、この道を進むのよ」
まみりは埴輪の格好でその道を歩き始めた。その道は生物準備室の窓の外に続いている。まみり、こと、はに丸くんはその道を歩いて行く。外には中天に丸い月がかかっている。魔術の力を持っていない人間が見れば空中を月の光を浴びながら埴輪が粛々と空中を進んで行くのが見えるだろう。まみりの目からは例の墓場も見える。そしてあの中庭にも達した。はに丸となったまみりは中庭の塀の上に立つと眼下には中庭の全貌が見渡すことが出来る。
 その中庭の中には
青黒いぬねぬねしたものが数え切れないくらいうごめいていたのである。
 中庭はプールのようになっていてうなぎのお化けのようなものとか、変なえらのあるものだとか、気味の悪い魚が無数にうごめいていた。まみりは知っていた。これは昔、見たことがある。地球上の深海魚をすべて集めたように深海魚がうごめいていたのである。そのときはに丸くんの背後を飛び越えて何か巨大なものが空中を飛来した。そしてプールの中に降りると醜悪な深海魚を鷲掴みにしてむしゃむしゃと食い始めた。その怪物は長い尾を持ち、口は爬虫類のように裂けていた。しかし、エメラルド色の皮膚を持っていた。月の光を受けてその鱗がきらきらと輝いた。はに丸くんこと、まみりはその鱗が探偵高橋愛が現場で拾ったものと同じことに気づいていた。太古の時代の肉食獣が深海魚を食っている姿にまみりはすっかりと心奪われていた。と同時にこの怪物がゴジラ松井くんに違いないと心の中で直感した。そう思いながら、月の光に照らされエメラルド色にうろこを輝かしている怪物を見つめた。
 するとこの肉食獣も塀の上に置かれた埴輪に気づいたようだった。両手にとげとげのたくさんついた大うなぎを両手に持ちながら、怪物は振り返った。月の光に照らされながら見詰め合う両雄ふたり。そしてまみりの心の中に誰かが話しかけてきた。
「矢口くん、見たな。君は僕が松井だと気づいているな、そうさ。ハロハロ学園のヒーローである、これが僕の本当の姿なのさ。深海魚が僕の命をつないでいるのさ」
この怪物の目に一瞬悲しい光がよぎったような気がまみりにはした。そしてプールの中に仁王立ちになっている怪物は飛び上がるとまみりの頭の上を越えた。まみりの頭の上に深海水が降り注いだ。ちぎれた深海魚たちが頭の上に降り注いできた。ばらばらになった深海魚の肉片と血ではに丸くんになったまみりの頭はずぶずぶになり、怪物は川の中に落下するとその姿は見えなくなった。
 なぜハロハロ学園のヒーロー、ゴジラ松井くんがこんな姿をしているのか、まみりには理解できなかった。ハロハロ学園に入ったのはこの深海魚を食べるためだったかも知れない。
ゴジラ松井くんのこの本当の姿を見て、矢口まみりがゴジラ松井くんのことが嫌いになったかというと、まったくその逆だった。矢口まみりは薄気味悪いもの、妖怪じみたもの、怪物のようなものが昔から大好きだった。「呪いの猫屋敷」「よみがえったミイラ男」「へび女の逆襲」「夜飛びにまわるまさかり」「直径三メートルもある死んだ大首」これらのものがまみりの幼児期の精神を形作っていたのである。
「ゴジラ松井くん、まみりは、まみりは、・・・・・・・・・・・・。ますます、ますます。・・・・・・・・・・。ゴジラ松井くんのことを好きになったなり。好きよ松井くん」
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南海トラフとは?
南海トラフは、駿河湾から日向灘沖にかけての海底の溝状の地形を指します。この地域では、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでおり、その境界で大きなひずみが蓄積されています。
なぜ南海トラフが注目されるのか?
巨大地震の発生源: 南海トラフでは、過去に何度も大規模な地震が発生しており、今後も同様の地震が起きる可能性が非常に高いと考えられています。
広範囲への影響: 南海トラフ地震が発生すると、静岡県から宮崎県にかけての太平洋沿岸を中心に、大規模な地震動や津波による甚大な被害が予想されます。
社会への影響: 大規模なインフラの損壊、経済活動の停滞、そして多くの人的被害が想定されており、日本社会全体に大きな影響を与える可能性があります。
南海トラフ地震の特徴
周期性: 南海トラフ地震は、ある程度の周期で繰り返し発生していると考えられています。
連動性: 本震だけでなく、周辺地域で余震や誘発地震が発生する可能性も高いです。
津波: 大規模な津波を伴うことが特徴です。
なぜ地震が発生するのか?
プレートの動き: フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込む際に、境界部分がひずんでいきます。
ひずみの蓄積: ひずみは徐々に蓄積され、ある限界を超えると一気に解放されます。
地震の発生: ひずみが解放される際に地震が発生し、プレートが跳ね上がります。
南海トラフ地震への備え
ハザードマップの確認: ご自身の住んでいる地域が、津波や地震動に対してどの程度の危険性があるのか、ハザードマップで確認しましょう。
避難経路の確認: 避難場所や避難経路を事前に確認し、家族と共有しておきましょう。
防災グッズの備蓄: 非常食、飲料水、懐中電灯など、必要な防災グッズを備えておきましょう。
地震保険への加入: 住宅や家財への保険加入を検討しましょう。
情報収集: 最新の地震情報や防災情報をこまめに確認しましょう。
まとめ
南海トラフ地震は、いつ発生してもおかしくない非常に大きな脅威です。しかし、事前にしっかりと準備をすることで、被害を最小限に抑えることができます。
より詳しい情報を知りたい場合は、以下のサイトをご参照ください。
気象庁 南海トラフ地震特設ページ: https://www.jma-net.go.jp/osaka/jishinkazan/nankai/QandAmenu/kiso.html
もし、何か質問があればお気軽にご質問ください。
キーワード: 南海トラフ, 地震, 津波, フィリピン海プレート, ユーラシアプレート, 防災
補足:
この情報は一般的なものであり、専門家の意見と異なる場合があります。
最新の情報は、気象庁などの公的機関の発表をご確認ください。
この説明は役に立ちましたでしょうか?
もし、他にも知りたいことがあれば、お気軽にご質問ください。例えば、
南海トラフ地震が起きた場合、どのようなことが起こるのか?
私の住んでいる地域は、南海トラフ地震の影響を受けるのか?
地震に備えて、どのような準備をすればいいのか?
など、具体的な質問でも構いません。

第十六回
井川はるら先生は薄気味悪い目をして土饅頭のようなものを両手に取ってなでながらまみりの方をいやらしい目をして話しかけた。目の中に床屋のくるくるまわるあの誰でもが知っている看板が入っているような気がする。
「沖縄ではシーサーという屋根の上に載っている守神があるわ。本州では狛犬というものがある。それはみなその家を災厄から守る守神だと思っている人が多いわ。でも、本当は違うの。家を建てた人は自分の敷地の境界に境界石を埋める。あれはその境界石なのよ。つまりここが自分の家の中だと示している。つまり自分の陣地ということね。そもそもそれらは黒魔術から起こったものなのよ」
「きゃー」
井川先生から無視されているチャーミー石川が叫び声をあげ、そのそばでは探偵高橋愛が机の上に置かれたビニール袋の中に入った採取した鱗をじっと見つめている。
「あなたたち、わたしがまみりちゃんと話しているのに、どうしたの」
井川はるら先生も悲鳴を上げた石川の方にやってきた。古びた実験机の上に置いてある採取した鱗がエメラルド色に輝いている。接している木の机の表面もエメラルド色に染まっている。
「先生、鱗が光っています」
探偵高橋愛が冷静に言うと、井川はるら先生は棚の上に置いてある薬瓶を指さした。
「月の光の粒の集まりが原因じゃないの。その鱗は月の光を浴びているから光っているのよ。あの瓶の中の月の光がガラス瓶の中からガラスを突き破って鱗に当たっているんだわよ」
井川はるら先生はなにごともないように棚の上に置いてあるその薬瓶に白山羊の皮を被せるとその鱗も光を失った。
「月の光の粒ってなんですの」
探偵高橋愛が当然の疑問を口に出した。
「月の光の粒と言ったら月の光の粒よ。海の中にいる生き物は月の光を浴びるときらきらと輝くでしょう。それで光ったのよ。きっと」
「じゃあ、あの鱗というのも海の中に住む生き物のものなんですか」
「そんなことはわからないわ。わたしはまみりちゃんと話しているんですからね」
井川はるか先生はまみりの前にやって来てまた座った。
「あのふたりがうるさいから話を中断してごめんなさいね。さっきまでなんの話をしていたかしら」
「境界石のはなしなり」
「まみりちゃん、そうね。守り神の話ね。あの内庭の中は守り神に守られているのよ。こんな話をしてもよくわからないでしょうが。みんな人にはそれぞれの守り神がついているの。もし、まみりちゃんが休みの日にどこかに遊びに行くとする。まみりちゃんが自分の自由意思で道を歩いていたとしてもそれはまみりちゃんの守神が見ている道を歩いているだけなの。そしてその守神はまみりちゃんの陣地の境界の塀の上あたりでいつもまみりちゃんを見つめているのよ。よその家の塀を御覧なさい。霊感のある人ならその塀の上にその家の守神が腰掛けているのがわかるから。そしてにやにやしたり、怒ったり、守神が表情を動かすのがわかるから。そしてあの内庭の中はある守神が見つめているのよ。この学校の職員があの内庭の中に入ることが出来ないといのは守神があの内庭の塀の上で見張っているからなのよ。それもただの守神ではない。白魔術の庇護を受けた守神なのよ。だから黒魔術の使い手のわたしにもあの結界の中に入って行くことは出来ない。白魔術と黒魔術は敵対関係にあるからね。そこでは術の力の闘いとなる。その白魔術は私の黒魔術よりも力が強い。わたしの黒魔術を使ってもその結界を破ることは出来ない。しかし、白魔術の力を逆に使うことは出来る。さっきまみりちゃんが自由に行動出来るわけではなく、いつも守り神が守っている境界の中で行動していると言ったけど、この世界にはそれぞれの守り神が歩く道がわたしたちの目には見えないけどあるのよ。そしてこの土饅頭のような人形もその守神が姿を変えた姿なの。そしてこの守神でもある土人形はその境界線の上を自由に動けるのよ。黒魔術を勉強しているわたしには空中にあるその境界線がはっきりと見えるのよ」
「信じられませんわ」
「信じられないわ」
人の話にすぐ不和雷同する石川りかが探偵高橋愛に同意して言った。ふたりもまみりのそばに来て井川はるら先生の話に耳を傾けていたが、石川りかの侮蔑したようなせりふを聞くと井川はるら先生は目尻を青くして怒りを表した。
「このあまっこめが」
井川はるら先生は怒鳴り声をあげたがすぐ自分の姿に気づいてもとの表情に戻った。
「いつもなら、黒魔術の力を借りてふたりとも身体をばらばらに引き裂くところよ。でもまみりちゃんの悲しむ顔を見たくないからそんなことをしないの」
怒りの表情をまだ浮かべている井川はるら先生は立ち上がると蛙や鶏の骨格標本のたくさんのっている机のところに行くと引き出しを開け、その引き出しの中から何かを持って来た。まみりはそれがちょっと高級な紅茶の木製の箱だと思っていたが石川りか達の前に置かれたものは違うものだった。おもむろにその木製の箱のふたをとったはるら先生は枯れた木の葉色のものを取り出した。
「一本いただくわ。火をつけてちょうだい」
井川先生がかたち良い指にその挟んだものを探偵高橋愛の前に差し出すと机の上にぱっと小さな炎が上がり、探偵高橋愛の机の前には銀色のライターがあらわれた。
「火を点けてちょうだい」
アンニュイな雰囲気を漂わせて井川はるら先生が葉巻をさしだした。
石川りかは目をぱちくりさせて何が起こったのかわからない様子だった。
「これが黒魔術の力よ」
そしてはるら先生は探偵高橋愛がつけたライターの火にハバナ産の葉巻を差し出した。
「別にわたしが葉巻を吸いたいということじゃないのよ」
はるら先生は火のついた葉巻を土饅頭のほうに近づいた。するとどういうことだろう。土饅頭が動き始めたのだ。はるら先生がさらに葉巻を近づけると不思議なことに土饅頭は空中に浮遊している。
「この土饅頭が空中に浮いていると思う、違うのよ、まみりちゃん。この土饅頭は葉巻の臭いが嫌いなの。そしてこの部屋の中にある境界の上の道を歩いて逃げているの。あなたたちにはその塀が見えないかも知れないけどわたしには確かに見えるのよ」
はるら先生は薄気味悪くにたにたと笑った。
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第十五回
「まみり、わたし、こんな文字、見たことないわ。古代エジプト文字でもないし、インカ文字でもないし」
「お前が理解出来ないのは当たり前なり。でも、似たようなものなら教室の机の上に彫られていたのを見たことがあるなり」
「まみり、あれでしょう。あれ」
「矢口さん、言わないで、わたしも知っているんだから」
三人はお互いの顔を見ながら指をさしあった。同時に同じ言葉が三人の口から発せられた。
「あの女でしょう。新垣」
「そう、そう」
三人は古代マヤ文明の生き残りのような新垣の顔を思い出して笑いあった。
「ああ、苦しい。苦しい」
「石川、どうしたなり」
「わたしには霊感があるの。ここには霊が浮遊しているわ。それも新垣の生き霊がよ。新垣の悪口を言ったから新垣が呪いをかけてきたんだわ」
「馬鹿もやすみやすみ言うなり。笑いすぎて、腹の皮がよじれただけなり」
「そう」
石川はそう言うとパーマ屋に行った母親がセットの乱れを気にしているように自分の髪を手のひらで整えている。矢口まみりはこんな馬鹿の相手をしていても仕方ないと思い、探偵高橋の姿を探すと高橋愛は内側にある方の壁のところに行っている。外側の壁から垂直になっている場所である。
「矢口さん、こっちに来ていただけません」
探偵高橋がそう言うので矢口まみりとチャーミーは探偵のいる場所に行った。高橋愛は内庭の壁の上の方を指さした。
「御覧になってわかると思いますが、塀の上の方に泥がついていますよね。内側の塀と外側の塀はほぼ同じ高さです。つまり、内側の塀の上のところからジャンプした人物が失速して外の壁にぶっかって外の壁を壊したのだと推理出来ます」
「でも、外の壁と内の壁の間隔は七メートルもあるなり、助走もせずにその距離を飛ぶことなんて人間業ではないなり」
「うちのクラスには空中浮遊の出来る生徒がいるじゃありませんか」
ここで探偵高橋愛は矢口まみりに何かを連想させるように沈黙をした。
「新垣」
「そう、新垣です。あの何者か、なんのためにこのハロハロ学園に来ているのか、よくわからない新垣の仕業だとしか思えません。だいたい、あれが人間か、どうかもひどく疑問ですわ」
「はげしく同意」
その内側の壁のところで地面のあたりをアイスキャンデーの棒でつついていた石川が変なものを拾い上げ頭上の太陽にすかして見ている。すると探偵高橋愛がつかつかと走りより、石川りかが手に持っているものを怒りながら取り上げた。
「あなたはこんな重要なものをどうするつもり」
激しく詰問しながら自前のピンセットとチャック付きのビニール袋を取り出すとそれを入れた。
「わたしが拾ったものなり」
石川は抗議しながら、探偵高橋愛にむしゃぶりついて行った。
「わたしが拾ったものなり」
「僕の喋りをまねするんじゃないなり、と言ってもまみりもきてれつ君のまねだけどね」
「まみり、高橋が、りかが拾ったものを横取りしたあ~~~~」
「拾い乞食、少しは黙るなり。何を拾ったなりか」
矢口まみりがのぞき込むと雲母のはがれたようなものが探偵高橋愛の持っているビニール袋の中に入っている。
「これはなんなりか」
「貴重な宝石のかけらに違いないわ」
石川りかが断定した。
「ピピー。誤答、生物反応が出ています」
探偵高橋愛が冷たい視線でチャーミーを見下しながら、ポケットから虫眼鏡を出してそれを拡大して見ている。矢口まみりもレンズ越しにそれを見た。
「魚の鱗みたいだなり、でも、随分と大きな鱗だなり」
「わたしもそう思いますわ。でもこんな大きな魚がいるでしょうか」
「まみり、となると、この内庭の中がどうなっているのか、ますます興味津々ね」
「きっとこの中で高価なものを飼っているなり、理事長がそんなことをやって私腹をこやしているに違いないなり。これはどうしてもこの内庭の中に入らなければならないなり。高橋愛、はしごの用意は出来るかなり」
「焼却炉のそばの用具小屋の中にあったと思いますわ。これから持って来ましょうか」
「待って」
石川りかが向こうの森の茂みの中に目をやった。
「誰か、こっちの方に来るようよ」
「まずいなり。逃げるなり」
三人はこの秘密の場所に入ってきたと同じような経路をたどって校舎の中にあわてて帰って行った。

 教室に戻って来たまみりたちはこの冒険について全く黙っていた。まみりが窓際の石川りかのとなりの席に横座りして今度行く、社会見学の赤坂のネオン街の穴場について語り合っていると、おしゃべりでかつ、巷間の情報収集に非常な熱意を持っている吉沢ひとみが話に加わってきた。吉沢ひとみは不良グループでもなく、かと言ってまみりたちと特別仲が良いというわけでもないが、よく話す相手ではある。
「赤坂の某デザイン会社の裏のゴミ箱から、大量の**のタグをたくさん拾ってこれるという話題にあなた、ついて来れるの」
チャーミー石川が拾い乞食としてのプライドをかけて吉沢ひとみに話した。
「石川、また、ブランドのタグを拾って来てバッタ屋で買った服に縫いつけるという話かよ。それは犯罪だってことわかっている」
「ふん、犯罪じゃないもん。また、みんなで石川の家が貧乏だからってみんなでいじめるんだよね。ぐすん」
「そんなつまらない話、してんなよ。それより、おもしろい話があるんだよ」
「ふん、お前のおもしろい話なんて、きっと安いあんみつ屋の話なり」
「まみり、そうじゃないんだよ。なんか、あったらしいよ」
「なんかって、なんなり」
「理事長も関わっているらしいぜ。隣の三年、なでしこ組で無記名で犯人捜しをやったらしいぜ」
「なんの、犯人」
心にやましいことが大型ダンプ一台分くらいあるチャーミー石川が不安気な表情で吉沢ひとみの膝に手をやった。
「旦那、お許し下さい。もうしません」
石川りかは目をうるませている。
「お前のことじゃないよ。もっと大きなやまだよ。理事長の肝いりで密告騒動をやったんだから、もっと大変なことだよ。校庭のはじの生徒たちの入れない中庭があるじゃないか。あそこに侵入した奴がいるらしいんだよ」
そこへ今さっきまでその場所で探偵をしていた探偵高橋愛までもがそばにやって来た。
「あの中庭に関して密告までさせて何かの犯人を見つけようと理事長はしているのですか」
「そうだよ」
吉沢ひとみはぶっきらぼうに言った。
 そこで教室の中に七福神の布袋さんのような縦のものをつぶして横にしたような化学の教師の遠山が紙包みを出席簿と一緒に持って入って来たのでまみりはあわてて自分の席に戻った。
遠山はいつものように昨日何を食べたかなどという話をしながら持って来た紙包みを机の上にどさりと置いた。鈍牛を連想させる遠山が教室の中を見回すと紙包みを包んでいる風呂敷をほどいた。
「生物の井川先生から頼まれたんだよ。この前、生物のテストをしただろう。今日返してやるからね」
すると一斉に教室の中にざわめきが起こった。不良グループの加護愛なんかは机を叩いて不満の意思を表示した。
「そんなもの欲しくないです」
辻が立ち上がって抗議した。
「ゴミ箱に捨ててください」
採点された答案を返されることに何でこんなに反抗心をあらわにするのか、このクラスの住人にしか、理解出来ない。この場で冷静な態度をとっているのはゴジラ松井くんただ一人だった。このクラスは他のクラスが桜組とか、タンポポ組だとか、百合組だとか、サフィヤ組だとか呼ばれているのに、三年馬鹿組と呼ばれている。それはあだ名ではなく、正式名称でもある。
「先生、変な顔をしてください」
教室の中の誰かが甲高い声で叫んだ。
すると教室の中のみんなは音頭をとって叫びだした。
「へんな顔。へんな顔」
「へんな顔。へんな顔」
教室の中の生徒たちは足踏みをしながら要求している。あの人間だか、なんだかわからない新垣までもが机の下の足で足踏みをしている。
「へんな顔。へんな顔」
「へんな顔。へんな顔」
机竜之介と眠り狂四郎を足して千倍にしたような紺野さんも机を叩きながら
「へんな顔。へんな顔」
と要求している。まみりもわけがわからなかったが机の上を叩いていた。そして不良のリーダーの飯田かおりも指導性を発揮し始めていた。飯田かおりは突如として机の上に駆け上がると着ている服をすべて脱ぎ捨てて全裸になった。そして額に鉢巻きをして、三本の日の丸の描かれたうちわがあり、一本を額のところにさし、残りの二本を両手に持った。そして裸踊りをはじめながら、局部を見えるようで見えないという、荒技を使った。
「へんな顔。へんな顔」
「へんな顔。へんな顔」
ほとんど学級崩壊の状態だった。ここまで来れば遠山も変な顔をしなければならない。
「へんな顔を見たいか」
「見たい」
とくに大きな声で返事をしたのは不良グループではなくて石川だった。
遠山は観念して両手で自分の顔の両側面を押さえた。すると口がすぼまり。顔の中央のところに縦にしわが何本も出来た。
「あっ。変な顔だ」
裸踊りをしていた飯田かおりは片手で口を押さえながら遠山を指さして笑った。新垣も笑っている。紺野さんまでもが笑っている。教室の生徒たちの沸点は下がって冷静になった。
「もう満足したか」
「満足」
馬鹿組の生徒たちは一斉に声を上げた。そして遠山は生物の採点の終わっている答案用紙を配り終えた。授業が終わって廊下の水飲み場の前で矢口まみりは石川を呼び止めた。
「石川、何点だった」
石川の出した答案用紙には赤く大きな丸が描いてある。
「零点」
まみりも自分の答案を差し出した。
「零点」
まみりはその答案を細かに分析した。二者択一の問題で石川がばつになっているところがまみりの方もばつになっている。しかし、おかしいところは石川りかの選択肢とまみりの選択肢は違うところになっていることだ。つまり石川がばつだということはまみりの方が丸にならなければならない。
「絶対に抗議に行くなり。これは採点間違いなり。零点ではないなり。五点なり」
「まみり、すごい自信ね。そういうことはわたしの方が間違っているということ」
「当たり前なり」
「まみり、疑ってごめんなさい」
「石川も行くなりか」
「行くわ、井川先生のところに。まみり一人では行かせられないもの」
水飲み場のそばに生徒が作った節水キャンペーンのポスターが張ってある。その前でポスターをじっと見ていた女がまみりたちの方を振り向いた。探偵高橋愛である。
「矢口さんたちが、井川先生のところに行くならわたしも連れて行ってくださいますか」
探偵高橋愛がまみりたちの方にやって来た。
「探偵高橋愛、なんで行くの。あなたはなんの用もないんじゃないの。用はありますわよ」
さっき、内庭のそばで拾って来たビニール袋の中に入った魚のうろこのようなものをふたりの前に差し出した。
「井川先生の教室に行ったことはありますの」
「ないなり」
「わたしもないわ」
「校舎の一番はじにあるらしいですわ」
生徒たちが井川はるら先生の教室を訪れることはほとんどない。みんなが気味悪がって訪れないのだ。廊下の一番はずれのところの大きな扉の向こうにあるらしい。三人は井川はるら先生の教室の前に来るとその入り口の扉の大きさと無気味さに威圧される思いがした。扉の上の方には蜘蛛の巣がかかっている。矢口まみりがその年代ものの木製の扉をノックしても中からは何の返事もなかった。そこでその扉を開けるとかび臭い臭いが広がり、理科実験室の中が見えた。ここ数年この教室は使われていない。
「まみり、入りなさいよ」
「石川、言われなくても入るなり」
ドアを開けて中に入ると右手の方に大きな先生の机がある。机の横にはホーローの流しがついていて最近まで使っていたようだった。
「まみり、見て見て」
「矢口さん、見てください」
石川りかと探偵高橋愛が指さす方を見ると解剖皿が底の方に投げ出されている。解剖皿の木の底には血がついている。そしてばらばらになった生の鰺が血走った目でこちらを向いているのだ。教室のはじのところには人体解剖図が置いてあり、ほこりを被っているくせに目だけは生きているようにこちらを向いている。戸棚のところには小さくなったミイラも置いてある。
「まみり、こっちの方に生物教職員室と書いてあるわよ。ここにいるんじゃないの」
石川りかが教室の横にあるドアを指さした。三人はそろそろとそのドアの前に行った。まみりがドアをノックした。
「井川先生、矢口まみりなり。用があるなり。石川りかも探偵高橋愛も一緒なり。入っていいかなり」
「どうぞ」
生物職員室のドアの向こうから井川はるら先生のすゞやかな、その一方では無気味な声が聞こえる。
「入るなり」
まみりは他のふたりの顔を見た。扉の開くときの蝶番の音がしてドアが開いた。まみりにとって気になっていることはその蝶番が人間の関節のように見えたことだった。
「何であるか、この部屋は」
まみりを最初に驚かせたものは入った部屋の正面に山羊の胴体から切り離された首がぶら下がっていてその下に理解出来ない魔法陣が描かれていたことである。まみりは最初、中世の錬金術師の部屋に入ったような錯覚を起こした。
「石川、探偵高橋」
矢口まみりは一瞬ふたりを見失った。
「まみり、こっちなり」
「矢口さん、こっちよ」
「コーヒーもいれてありますわ」
まみりが横の方を向くとドライアイスの煙が出ているようなフラスコの机の前でコーヒーカップを前にしながら石川や探偵高橋愛や井川はるら先生が座っていた。コーヒーカップは四つ並んでいる。
「やっと来てくれたのね」
井川はるら先生は手招きをしている。ちらりと笑った井川先生の犬歯がきらりと光った。まみりもそのテーブルに座った。
「先生、これ、おかしいなり。石川の方がばつで矢口さんの方にもばつがついている。矢口の方の答えがあっているなり」
「どお」
井川先生は矢口まみりの隣に座ってまみりの答案用紙を見た。
「どうやら、わたしが間違っていたようね」
井川先生はまみりの答案用紙のゼロの上にばってんを引くと五と書き直し、えんま帳を出してその点数を記入した。
「井川先生、随分と変わった職員室ですね。あの山羊の首は模型ですか」
「あれは本物よ。首の切り口から血がしたたっているでしょう」
「きゃあー」
石川りかが黄色い叫びをあげる。
「石川さん、そんなことぐらいで驚くにはあたらないわ。呪いをかけるためにはどうしてもあの生首が必要なの。この部屋の中にはそれだけじゃないわ。もっといろいろなものがあるの。あそこの瓶に入っているのが、ノストラダムスの抜けた歯よ」
「先生は本当にハロハロ学園の生物の教師なんですか」
探偵高橋愛も矢口まみりと同じような疑問を持っているらしい。
「ここの生物教師というのは仮の姿よ。わたしはここで悪魔を呼び出す方法を研究しているの」
「でも、ハロハロ学園に採用されたなりね。理事長とも会ったことがあるなりね」
「先生、わたしたち疑問を持っているんです。生徒たちが入ってはいけないと禁じられている中庭がありますわよね。あの中庭には何があるんですか。先生は知っていますか」
「あなたたち、あの中庭の中に入ったんじゃないわよね」
「イエス」
石川りかがただ一つ知っている英語で答えた。
「そう、良かったわ。あの中庭に入った人間は誰もいないのよ。教師でさえ、あの中庭に何があるのか知らない」
「実は」
矢口まみりは探偵高橋愛が墓場からあの塀が破れているのを発見したことなどを井川はるら先生に話した。
「井川先生、これが何であるかわかるかなり」
まみりはあの金のペンダントを取り出した。
「先生、ここに変な文字らしいものが書かれていますわよね。わたしたち三人はこれが新垣に関係していると睨んでいるんですが」
「ふほほほほほ。新垣が。すると中庭の件にも新垣がからんでいるとの見解ね。ふほほほほ。でも、この文字は以前、どこかで見たことがあるような気がする」
「そうでしょうなり。新垣が自分の机の上にこんな文字を彫っていたような気がするなり」
「先生、それからこれなんですけど」
探偵高橋愛が例のビニール袋を取り出した。今度は前よりも井川はるら先生の目が爛々と輝いた。探偵高橋愛からそのビニール袋をひつたくるように受け取ると自分の顔に近づけてまじまじと見つめた。
「魚の鱗のように見えるんですが」
「ちょっと、待って、あの魔法顕微鏡で見て見ましょう」
井川はるら先生がそう言って机を離れてはじの方へ行ったので三人もそのあとをついて行った。井川はるら先生がピントを調整する。しかし、それは単なる光学顕微鏡だった。ピントを調整し終わった井川はるら先生は顕微鏡の接眼部から目を離した。
「見て御覧なさい。まず、まみりちゃんから」
まみりはその顕微鏡のレンズをのぞき込んだ。雲母のようにきらきらとしている。像を見やすくするために偏光装置を使って色がついているらしい。
「まみりちゃん、このしましまが見える。一年ごとにこのしまが一本づつ増えていくのよ。だから、このしまから数えてこの魚の年齢は二十代半ばというところね。このうろこがさかなのものだとしての話よ」
「もし、魚の鱗だとしたらどんな魚なんですかなり」
「これは極めてむずかしい問題ね。今までこんな魚の鱗を見たことはないわ」
「先生、鱗のある動物はほかにもいるんじゃないですか。アルマジロとか、センザンコウとか」
「うるさいわね。石川、どこでも見たことがないような鱗だと言っているでしょう」
「先生、本当にあの中庭のことを知らないんですか」
探偵高橋愛が疑問だという声を出した。
「噂があることはあるわ。あそこに、錦鯉がたくさん買われているという噂が。それで理事長が一儲けしようというね。くだらない人間の考えることだわよ。悪魔の力に較べれば。でも、生徒でも教師でもあの中庭に立ち入ったものは即、退学となるのよ。ふほほほ」
矢口まみりは何かを決心しているようだった。
「もし、それが錦鯉どろぼうだとすればまた、あの中庭に舞い戻ってくることはないかなり。泥棒は一度入ったところにはまた舞い戻ってくるというなり」
「まみりちゃん、その方法はないことはないわ」
井川はるら先生は気味悪くにやりと笑うと部屋の隅に置かれた妖気ただよう土饅頭のようなものを見つめた。
「沖縄の守神を知っている」
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第十四回
辻の怪力にあがなえるまみりではなかった。辻のコッペパンのような片手で床の上におしつけられている。
「いい格好じゃないか。まみり、えへへへへ」
飯田かおりはへらへらと笑いながら自分のセーラー服の内ポケットから十五センチのセルロイド製の線引きを取り出すと矢口まみりの前にうんこ座りをしてしゃがんだ。そしてそのしなる定規でまみりの額をピタピタと叩いた。
「うっ、うっ」
まみりは低くうめいた。
やじうまの一群としてその様子を見ている石川りかはまた、悲鳴をあげた。
「まみりが、まみりが、飯田とヤクザの女からリンチを受けている~~~~」
そしてゴジラ松井くんの顔を見上げる。しかし、依然としてゴジラ松井くんは無表情である。飯田はまたまみりの額をピタピタと叩いた。そのたびにまみりは声にならないうめき声をあげる。
「御同輩、見たかい。こいつの好きな男が外でこのぶざまな格好を見ているんだよ。へへへへへ」
「そうかい」
今度は藤本が舌なめずりをした。
「こいつの好きな男が外で見ているのかい。この位置からでは見えないだろう。見せてやるよ」
藤本の美貌が今度はその持って生まれた残忍さを倍加する。ハイヒールを履いたままの足をまみりの頭の上にのせる。そしてまみりの頭をきなこ飴を作っている職人のように前後にごろごろとさせる。きなこ飴を作る職人はこうやってちぎった飴の材料をまん丸にするのだ。藤本が足を前後に動かすたびにまみりの頭はきなこ飴が出来ていく過程のようにごろごろと回転する。まみりの頭は丸まっていくきなこ飴と同様なのである。
「こんなみじめな格好を憧れている男に見せてどんな気持だい。ふっ」
藤本がやじうまの中にいるゴジラ松井くんと金髪がくしゃくしゃになっているまみりの顔を前後に見比べる。
「うっ、うっ、うううう」
まみりは苦しさに呻くことしか出来ない。
外でその様子を見ていた石川の瞳には涙がにじんでいた。
「松井くん、助けてあげて、助けてあげて、まみりが死んじゃうわ。ねえ、松井くん。あなたはハロハロ学園のヒーローでしょう」
チャーミー石川は泣きながら松井くんの腕にむしゃぶりついた。石川の涙が松井くんのトレーニングウェアーの筒袖にしみこんでいく。まみりの瞳にはぼんやりとゴジラ松井くんの姿が見えていた。
「オヤピン、こいつのボディガードの例の空飛ぶ奴が姿を現さないでしょうかね」
加護が不安気にオヤピン飯田の顔を伺った。
「これだけまみりを痛めつけているのに出て来ないんだから、永久に出て来ないさ」
そのときまたゲームセンターの中に閃光が走った。人斬り紺野さんが仕込み杖で空気を斬った。それからスケッチブックを取り出すと黒いサインペンで何かを書いた。
「なになに、今度出て来たら今度は殺す」
紺野さんの周囲に妖しげなかげろうが立ち上る。
辻は紺野さんの殺気にぞっとした。頭を藤本の美脚にごろごろとされながらまみりはスーパーロボ矢口まみり二号を発進させればいいんだということに気づいた。なんだ、まみりは馬鹿なり、スーパーロボを呼べばいいなり。呼ぶなり。不良たち、パパの作ったロボにのされちゃうなり。飯田お前なんかは足利の田んぼの中のこえだめに落っことしちゃうなるなり。そしてあの言葉を言えばいいんだ。スーパーロボ矢口まみり二号発進せよ、と。藤本のハイヒールの裏で頭をごろごろさせられながら、自分の腕時計を探した。ない、ないなり。スーパーロボの無線操縦機がないなり。
「いい黄粉飴が出来るよ」
保田が飯田同様、うんこ座りをしながらごろごろしているまみりの頭を見ながら小枝を使ってまみりの頭をつつっいてみる。まみりは呻きながらやじうまがたむろしている中に石川の姿を見つけると石川はまみりの無線操縦の腕時計をしているではないか。まみりはリンチを受けながら、自分の携帯をとりだした。
「もしもし、チャーミーです」
「ど阿呆、お前はどういうつもりなり、お前のしているのはまみりの腕時計なり」
「まみり、平気、平気、隣にはゴジラ松井くんもいるからね。松井くんに頼んでいるのよ。まみりを助けて下さいって。ゴジラ松井くんと代わろうか」
「そんなことはいいなり。緊急を要しているなり。チャーミーの馬鹿でもいいなり。その場で、こう言うのよ。ご主人様が大変なり、スーパーロボ矢口まみり二号、発進って」
「おい、携帯で何をごちゃごちゃ言っているんだよ。きなこ飴ごろごろ攻撃にも屈しないのかよ。お前は。じゃあ、次の手だ。小川、来るんだよ」
すると白い洗いさらした柔道着を着た小川が前に出て来た。小川は女のくせに柔道着の下には何もつけていないようだった。
「小川はね。不良グループに入る前には柔道部に入っていたんだよ。はるばるロシアまで行ってイゴール・ボブチャンチンの下で六ヶ月間、総合格闘技の修行を積んできたんだからね。小川、必殺のあの技をまみりにかけておしまい」
飯田が興奮して叫んだ。ああ、このいじめはどこまでエスカレートするのであろうか。やはり、落ちこぼればかり集めた馬鹿学校であった。ハロハロ学園は。こんな問題児ばかりを集めているのだから。
「かおりお姉さま、やっていいんですか。あの技を」
「いいよ。やっておしまい。こんな女、死んだって構わないよ」
小川の湯上がりのような湿った黒髪がゆらりと揺れた。小川は柔道の構えをした。
「必殺、雪見大福」
小川はそう叫ぶと、何と、何と、柔道着の前をばっとはだけたのである。するとその場に雪国のスキー場のような光が広がった。雪国特有の白いもち肌に包まれた、ぷりんぷりんとしたふたつの乳房があらわれたのである。そして助走をつけて飛び上がるとまみりの上に落下していった。ダイビングボディプレス。小川の乳房はちょうどまみりの顔面の上に落下した。その柔らかさからまみりは最初の衝撃はあまりなかったが、これがおそろしい結末を待っているということがやがてまみりにもわかった。まみりの顔面全体を覆い尽くす小川の乳房。
「雪見大福、変形縦四方固め」
小川がまみりの顔に乳房を押しつけながらわきを固めてきた。まみりは少しも動くことが出来ない。
「うっ、うっ、うううう」
「まみり、聞こえる。聞こえる。どうしちゃったのまみり」
携帯に必死になって話しかけている石川の姿を見ながら、ゴジラ松井くんがはじめて言葉を発した。
「あれ、あれ」
ゴジラ松井くんの指さす方にはまみりが柔道着の下でばたばたと足をもがいている姿が見える。
「死んじゃう、死んじゃうわ。まみりが死んじゃう。松井くん、助けてあげて。助けてあげて。まみりは松井くんに憧れているのよ。それだけじゃない。松井くんはハロハロ学園のヒーローでしょう」
石川は松井くんの胸のあたりに顔を押しつけて泣き崩れた。そして銅像のように動かないゴジラ松井くんの胸をその非力な両手でどんどんと叩いた。
 どういう具合だかわからないが小川の乳房を密着させられていて呼吸困難に陥っていたまみりだったが片手が自由になって携帯に話しかけることが出来た。
「石川、何をやっているなり。げほ、ごほ」
「まみり、平気、今、松井くんに頼んでいるの。あなたの憧れの松井くんの目の前で死ねればあなたも本望でしょう」
「石川、げほ、ごほ、馬鹿丸出し。げほ、ごほ、スーパーロボを呼ぶなり。げほ、ごほ」
「まみりがそんなに言うなら呼ぶわよ。せっかくまみりと松井くんが仲良くなれるチャンスだと思ったのに」
「げほ、ごほ、そんなこと言っている場合じゃないなり、早く、スーパーロボ矢口まみり二号発進と叫ぶなり。十五メートルバージョンとつけくわえることも忘れないで欲しいなり。げほ、ごほ」
「まみりがそう言うなら、そうするわ。スーパーロボ矢口まみり二号、発進、十五メートルバージョン~~~~~ン」
石川りかは天井の宇宙の中心にでも叫ぶようにその叫びを発した。すると頭上に広がる青空の一角に灰色の点のようなものが見えた。その点はみるみる大きくなって有名な菓子やの前に立っている人形みたいなものが空からやって来た。そして地上に降り立ったのである。その怪物はカラオケやのウインドーの前とやじうまの前に降り立った。その怪物はやはり秘密パーティで貴婦人がするような仮面をかけている。そして巨大な腕を動かすとカラオケやのショーウインドーをぶち破り、その手で藤本や飯田たちを鷲掴みにした。その様子はまるで大魔人のようであった。
解放されたまみりはチャーミー石川が立っているやじうまの中に走って行った。
「この間抜け、なんで早くスーパーロボを呼ばないなり、それよりもなんで矢口くんの時計をしているなり」
「不良たちはどうしたの」
「今頃は足利の畑の中の肥溜めの中に浸かっているなりよ」
「本当、まみりをいじめた罰よ」
ふたりの会話をゴジラ松井くんがじっと見ている。
「松井くん」
まみりは石川の隣にゴジラ松井くんが立っているのを改めて気づいた。松井くんの姿を見るとまみりはなぜだか、涙があふれてきた。小学校のとき大好きな先生に叱られて頭をこつんとやられたときと同じ気持ちだった。
「まみり、まみりの言いたいことはわかるわ。なんで、助けてくれないのって気持でしょう。わたしは松井くんのことが大好きなのにってことよね」
まみりは涙目になりながら石川の横腹を肘でこづいた。石川は平気な顔をしている。するとゴジラ松井くんは
「きみは本当は強いんだろう。それに僕はハレンチ学園に入ったんじゃない」
そう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。

 二階の自分の部屋に上がったまみりは自分の椅子に腰掛けながらハンドルのついた鉛筆削りをくるくると回す。この前、日光に行ったときみやげに買ってきた三角の金の刺繍をしたペナントが目の前に見える。本棚の上にはスピッツの白いふわふわしたぬいぐるみがこちらを向いている。
「まみり、ご飯が出来たよ」
階下からつんくパパの声が届いた。
「いい、食べたくないの」
まみりは誰にも会いたくなかった。
「まみりは、みじめな子になってしまったんだわ。だって失恋しちゃったんだもの。松井くんはわたしのことをやっぱり嫌っているのかしらなり」
今度は手鏡を取って自分の姿を映してみた。自分でも最近、女らしくなってきたと思う。前より胸の膨らみも出てきた。
「なんで、こんな美人をふっちゃうのかしらゴジラ松井くんは」
するとまた下の方からつんくパパの声が聞こえる。
「まみり、まみりが頼んでいたケータリングのピザが届いたんだよ。今、そっちの方にダンデスピークが運ぶから」
ピザと飲み物を持ってダンデスピーク矢口が上がってきた。
「おう、ご苦労なり」
矢口まみりはダンデスピーク矢口からピザを受け取った。そして一切れとるとダンデスピーク矢口に手渡す。白い毛むくじゃらの手でその動物は受け取るとむしゃむしゃと食べた。
 ダンデスピーク矢口は白い猿である。学術名はわからない。チンパンジーにもオラウンターにも天狗猿にも見える。しかし、確かなのは百才以上の年齢であるということだ。まみりが生まれたときにはすでにこの家にいた。そしてつんくパパが子供のときにもこの家にいたそうだ。
「ダンデスピーク、松井くんの気持をまみりのものにすることは出来ないかなり」
まみりがそう言うとダンデスピークはもう一切れ、ピザに手を伸ばしてむしゃむしゃと食べた。
 翌日、ハロハロ学園に登校した矢口まみりは探偵とあだ名されている高橋愛が石川りかと一緒に図書館の書庫の前で立っているのを見かけた。ふたりはカストリ雑誌の変遷という大きな本を広げて見ていた。
「まみり、探していたのよ」
まみりの姿を見てふたりは同時にまみりの方を見上げた。
「ふたりともこんなところで何をやっているかなり」
石川りかがただ開いていただけの本を閉じると棚にしまってまみりの方に手招きをした。まみりはその方に行く。書棚と書棚のあいだに挟まれている空間に三人は入った。
「まみり、探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたのよ。これからそこに行かない」
「面白いものって何なり。そこに行ったら飯田たちが待ち伏せをしているなんていうのはいやなり」
「矢口さん、そうではありませんわ」
「そうではないって、どういうことなりよ」
矢口まみりが大きな声を上げたのでそこにいた上級生がしっと大きな声を立てないように叱責した。
「ここではまずいですわ。とにかく図書室を出ましょう」
まみりは探偵高橋愛に促されて図書室の外に出た。図書室もまるで北海道の農学校を思わせるような立派な建物だったが、ハロハロ学園は建物だけは立派だった。図書室の外には歩道に趣のある石が一面に張られている。
「内庭の外のところよ」
探偵高橋がまみりに言った。
「まみり、内庭の外がおかしいんですって」
石川りかも興味津々である。
 この学園の創立者が変わった内庭を作っていた。矢口まみりはそこに行ったことはない。ハロハロ学園のすべての生徒もそこに行ったことはない。創立者がどういう意図で建てたのかわからないが、私立の学校にはよくそういう施設があるようである。何かの歴史的意味があるのかも知れない。その内庭は赤レンガの壁で囲まれていて、その外側はさらに学園全体を取り囲んでいる赤レンガの壁で囲まれている。その二つの壁の間は数メートル離れている。
「みんなは駅を出て、学園の南門から登校していますわよね。わたしは北から南門の方にまわって登校していますの」
「へぇ、あんな方から探偵高橋愛は登校しているの。うちの学園でそんなコースから登校しているなんて探偵高橋愛ひとりだわよ」
矢口まみりもうなずいた。そのとおりである。ハロハロ学園の北側は深い川が流れていて断崖絶壁になっている。川の側壁が石垣になっていてその上に赤レンガの壁が続いている。深い川で断絶した向こうには墓場が広がっていてその方向から歩いて行くには墓場の中を歩いて行かなければならない。そんな物好きは探偵高橋愛しかいない。
「いつも、墓場の中を歩いてハロハロ学園にやって来ているのかなり。まるで墓場の鬼太郎みたいなり」
「みなさんには墓場の中を歩いて行くとき向こうに見えるハロハロ学園の靄にかすんだ爽快な姿を見る快感がわかりませんのよね」
「そんなもの、わからないなり」
「まみり、押さえて、押さえて。これから探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたというんだから」
「何を見つけたなり」
「ハロハロ学園の外周になっている赤レンガの壁の一部がくさび型に壊れているのを見つけたんです」
「なんだ、そんなことなりか」
「まみり、それはあなたの過小評価というものよ。うちの学校は備品の破損なんかには相当厳しいじゃない。壁を壊されて黙っているなんておかしいわよ」
「そういうものなりか」
「そういうものなりよ」
「そこで現場に行ってみないか、チャーミーさんを誘ってみたのです。そうしたら、矢口さんも一緒につれて行くとチャーミーさんが言うんですの」
「探偵高橋さんの言うところによると学園長が生徒たちを近づけない内庭があるわよね。ちょうどその内庭の外側の壁に当たっているらしいのよ」
「内庭って何があるなりか」
「それは今、探偵高橋愛が調査中よ」
「内庭の中に入るのはむずかしいかも知れませんが内庭と外壁の間のところに行くのはむずかしくありませんわ」
三人は大きな竈のような焼却炉のある方に向かった。焼却炉は今さっきまで何かを燃やしていたらしく変な臭いがした。そこを通るとハロハロ学園の北側に行く。ハロハロ学園の敷地を半分にわけている赤レンガの壁にぶつかった。しかしそれは五メートルぐらいの石垣になっていてその上に赤レンガの壁が載っているのだ。その石垣の北のはじには階段がついていて上に上がれるようになっている。階段の下に行くと錆びた鉄条網で入り口は封鎖されていて、生徒は入るべからずと立て札が立っている。しかし、鉄条網は錆びて壊れていた。
「わたしは入っていくつもりですわ。お二人はどう」
「わたしはもちろん、入って行くわよ。まみりも行くわよね」
「高橋の物好きに矢口もつき合うなり」
入り口は壊れていて階段を上がっていけるようになっていた。人が一人上がって行けるような狭い幅の石の階段だった。しかし、高さは五メートルぐらいある。階段の上のところの門は壊れていない。しかし、簡単に乗り越えられる程度の高さだった。探偵高橋愛が、それから石川りかが最後に矢口まみりがその鉄の門を飛び越えた。その中庭の壁と外壁のあいだには特別なものはない、下にはコークスの殻が一面にしかれ。くぬぎや楢の雑木が生えている。中庭を囲んでいる壁は三メートルほどの高さがある。外壁の方はまみりの通学路と同じように二メートルぐらいの高さしかない。
「あっ、あれを見て」
何もないと思っていたその場所の異常を石川りかがみつけた。それはまみりの視野の中にも入っていた。
「あれですわ。墓場を歩いているときに見たのは」
外壁の一部が確かにくさび型に壊れている。崩れた赤レンガの側面が見える。三人はその現場のそばに行った。
探偵高橋愛は現場検証を始めた。まみりも石川もそのあたりを見てみる。まみりはその壁の崩れたところに行くと向こうの方に探偵高橋愛がいつも通っているという墓場が見える。さらに近づくと絶壁になっている川底が見える。川にはとうとうと水が流れている。矢口まみりは壊れた壁の隙間から首を出して川底を見るとくらくらとした。
探偵高橋愛は赤レンガの壁の崩れた壁の側面をじっと見ている。
「おかしいと思いませんか」
「なにが、なにが」
石川りかが首を伸ばして探偵高橋愛のそばに顔を持って行った。
「この断面を見てください。まだ新しい。そして毎日わたしがこの壁を見ながら見ているのに壊れていなかった。少なくとも一昨日までは私はこの壁があるのを知っていた。そして今日の朝、墓場から見たとき、ここがくさび型に壊れているのを発見したわけです。ということはこの壊れた赤レンガの破片が見つからないということはおかしい。つまりこれがどういうことだかわかりますか。チャーミーさん」
「わからないわ」
「これを壊した何かが壊れた赤レンガを全部持ち帰ったという可能性があります。そしてもうひとつ、この内側から外に向かって何かが突進して行ったということも」
探偵高橋愛は絶壁の下に広がる川の流れを見ながら深々とため息をついた。
「壊れた赤レンガの破片は川に落ちて行ったということも考えられます」
「なるほど」
石川りかが感心してつぶやいた。
「何がなるほどなり、そんなことは少し考えればわかるなり。チャーミーの単細胞」
矢口まみりはあほくさくなってあたりをぶらぶらするとならの木の根本のところにソフトボールぐらいの大きさのきらりと光るものを見つけた。まみりがそばに行って拾い上げてみると大きな金で出来たペンダントだった。しかしついている鎖はちぎれている。そしてペンダントの表面には何か彫ってある。それに気づいたふたりが矢口まみりの方にやって来た。
「まみり、何を見つけたの」
「これ」
まみりは石川にちらりと見せた。
「まあ、金じゃないの」
「真鍮かもしれないなり」
「ちょうだい、ちょうだい。一生のお願い」
「ふん、どうせ、お前は質屋に売るつもりなり」
「へへへ、ばれたか」
「ちょっと見せてくださる」
横から探偵高橋愛が首を突っ込んだ。
「何か彫ってありますわよね」
「本当、まみり」
しかし、三人ともその文字らしいものがなんであるかはわからなかった。
************************************************************ その金のペンダントに書かれているものは確かに文字らしいものだが、まみりにも探偵高橋愛にも理解出来ない。見たこともない。しかし、その文字らしいものには確かに何かの内容を表しているように思える。