ス-パ-カ-女刑事  第5回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

ス-パ-カ-女刑事  第5回
研究開発中の電気自動車のテスト走行が終わり、工業技術院の特殊技術育成課の廊下を松浦田あややが歩いていると向こうの方から女子職員が三.四人おしゃべりをしながら歩いて来る。
また、わたしのうわさ話をしているのよね、油田王の孫であり、秘密調査官、日本の技術を結集して作った車、デトマソ スピードスターM530のドライバーであるわたしことを、そしてわたしのおっぱいが大きいからあの女たちは私のことをねたんでいるに違いないと思った。
行き過ぎた女子職員たちは松浦田あややの後ろ姿を一瞥した。
「見た。あれが松浦田あややよ。あの噂黒い下着のボインちゃんよ」
「いつも誰かれを捕まえてはわたしのおじいさん、油田王なんだと言っている女でしょう」
「そうそう、馬鹿みたいに税金を無駄遣いして作った車に乗っている女でしょう」
「ねぇ、ねぇ、私の車に乗ってお台場までデートをしてそのあとレインボーブリッジを
見ながら食事をしたのはキムタクや東山くんや数え上げたらきりがないのよ、なんて言っていなかった」
「言ってた。言ってた」
「私も聞いた」
「私も」
「あははは、ちょっと可愛くてオッパイが大きいからって調子にのってるわよ、あの女」
工業技術院特殊技術育成課のドアを開けると怒りまくっている声が聞こえる。
「何よ。この机の上のちりは。どうするか覚えてらっしゃい。ここにいられなくしてやるからね。私に逆らったらどうなるか思い起こさせてやるわ。早く、掃除に来るのよ。一分一秒でも早くよ。きー」
口調は女のようだが話しているのは男性で、ただおかま言葉を使っているにほかならない。
「きー。私の机の上にちりが落ちていたのよ」
これが松浦田あややの上司、藤井田隆だった。七三にわけた髪はこってりとポマードをぬりたくっていて、銀縁の四角いめがねをかけている。
「あややちゃん、ひどいのよ。掃除のおばさんがちゃんと掃除をしていかなかったの。机の上にちりが落ちていたんだから」
少し興奮し過ぎたのか、めがねがずれていた。藤井田隆は銀色のめがねをかけ直して大きな机の前に座った。そして今さっきの興奮が嘘のように冷静なというより怜悧な表情に変わっていた。
「李宗行の事件の報告は届いていますでしょうか」
「ばっちグーよ」
「光速零号のノートがみつかったんですが、その写真も届いていますでしょうか」
「お手柄よ。あややちゃん。キッスしてあげてもいいわよ」
藤井田隆はどこか遠くを見ているような表情をした。
「わが課の調査では李宗行は何かをやろうとしていた。これがどこかの空き地でロケット花火をあげることぐらいだったら許せるけど。彼の行為は国益を損なうものだった疑いがあるのよ。あややちゃん。でも、彼が光速零号に関わっているとは驚きね。あの光速零号に」
藤井田隆はまた遠くを望むような表情をした。
「光速零号って何ですか」
すると藤井田隆はすぐさまとまどいの表情を見せた。
「国際刑事機構からも問い合わせが来ている重要な案件よ。世界中の国がそれを狙っている。
それを手に入れると軍事的に優位な立場に立つと言われているからよ。だから李宗行はただのネズミじゃなかったというわけなの。わかる、あややちゃん。もしかしたら私も国際刑事機構から表彰されるかも知れない」
どうやら藤井田隆もその光速零号について具体的なことは少しも知らないのではないかと松浦田あややは思った。
しかしそのことを指摘するのはやめよう。彼はヒステリーを起こして机をひっくり返すかも知れない。
「李宗行の経歴を調べてみた。調べれば調べるほど彼は優秀に技術者だったみたい。しかし」
「何か、李宗行に変わった部分があるんですか」
「彼には犯罪歴があるわ。それを調べるには角田田信朗警部のところへ行った方がいいかも知れないわ」
またあの角田田信朗のところに行かなければならないかと思うと松浦田あややは辟易した。
「李宗行は蒸気機関高能率研究所というところに勤めていた。そのとき、犯罪を犯したらしいのよね。
若気の過ちというやつね。
今はそこはリニアモーターカー試験場となっているらしいわよ。そこで昔のことを知っている
長岡文子という事務員が働いているらしいからそこへ行ってみれば」
デトマソ スピードスターM530に乗り込んだ松浦田あややはナビゲーションシステムの電源を入れると
蒸気機関高能率研究所と入力してみた。するとただちにリニアモーターカー走行試験場に変更されています。という表示が表れた。その場所なら松浦田あややも知っていた。
二十キロに渡る海沿いの道路が舗装されていてそこは立ち入り禁止になっており、その道路の上に高架式のレールが作られていてそこでリニアモーターカーの試験運行がなされている。
松浦田あややが自動運転のスイッチを入れるとデトマソ スピードスターM530はゆるゆると発車した。
そしてエンジンの振動とともにあややのおっぱいもぶるんぶるんと揺れた。
これが松浦田あややがデトマソ スピードスターM530の運転を可能にしている秘密であり、
彼女のお粗末な運転技術でも公道を三百キロ以上のスピードで走り抜けられる秘密だった。
デトマソ スピードスターM530の中には百次元以上のマトリックス計算を一秒間に百億回以上可能にするコンピューターが積まれドライバーの運転を補完していた。湘南の町を抜け、入り江をぐるりと回ると岬が目の前に見えその岬の付け根に掘られているトンネルを越えると二十キロ以上に渡る海岸線が見えてそこはずっと金網で囲まれていた。真っ直ぐに続く舗装された道路の上に高架式のレールが作られている。
そのレールの手前の端のところに小さなマンションのような建物が建っていてそこが旧蒸気機関高能率研究所なのかも知れない。レールの上ではリニアモーターカーが試験運転をしている。
デトマソ スピードスターM530のコンピューターに音声入力でそのリニアカーの速度を聞くと、五百キロという返事が返ってきた。デトマソ スピードスターM530でも追いつけるかどうかあやしい。
松浦田あややが旧蒸気機関高能率研究所ではないかと思った建物はそのとおり彼女の予想は当たっていた。
建物の入り口に置いてあるリニアモーターカー研究所という看板は横に旧蒸気機関高能率研究所とただし書きされている。
玄関にデトマソ スピードスターM530を停めてその建物に向かうと一人の女事務員が男に手を振っていた。
「西川さん、今度、いつ、来るの」
男の方は表情を固くして何も言わなかったがそのまま行こうとしてからまた振り返った。
「じゃあ、今度の約束、覚えていてくれるね」
そのまま男は自分の車が停めてある方へ向かった。その女はまだその男の姿を目で追っていた。
松浦田あややはその玄関のところまで行き、
長岡文子という女性に会いに来たというとその女性が自分は長岡文子だと答えた。
長岡文子という名前の響きの地味な感じのとおり、彼女の容貌は美人だったが、大人のそれも生活を積み重ねてきた重さがあった。
「長岡文子さんですか」
「そうです」
「以前、ここが蒸気機関高能率研究所と呼ばれていた頃、李宗行さんという人がここで働いていましたよね」
「はい」
「その人のことを教えてもらいたいんですが」
「李宗行さんがどうしたんですか」
松浦田あややは李宗行が殺されたことはふせていた方がいいのではないかと何となく勘が働いた。
もしそれを言った方がいいと判断出来る状況になったら告白すればいい。
この建物の一階に簡単な喫茶店があるからそこで話をしようと長岡文子は言った。
「李宗行さんが窃盗の犯罪歴があるということを調べているんですが」
「それはぬれぎぬなんです」
「ぬれぎぬというと」
あややはりすのような目をじっと長岡文子に向けた。
「ある家で泥棒が入ったという事件が起こりました。この建物に関係した人間だったんですけど、最初、李宗行さんが自分がその家に入ったと自首したんです。それの取り調べが二ヶ月くらい経って李宗行さんが自分は犯人ではないと主張してそのまま犯人が誰だかわからないとう迷宮入りの事件になったんです」
「最近、李さんに会ったことはありますか」
「はい、今度、結婚するかも知れないという女性をつれて歩いているのに出会いました」
「その人の名前はわかりますか」
「野見広子という人でした。今度結婚式をやることになったら呼ぶとか言って彼女の連絡先も教えてもらったんですよ」
「李宗行さんが光速零号とか言っているのを聞いたことがありますか」
少し長岡文子は考えていたようだが思いだしたことがあるようだった。
「ずっと前の話ですが、光速零号って知っているかと聞かれたことがあります。
私はわからなかったからただ笑ってすませていただけなんですけど」
松浦田あややはそこの喫茶店で瓶入りのコーヒー牛乳を一本飲んでまたデトマソ スピードスターM530に乗り込んだ。
************************************************************