電人少女まみり  第45回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第45回
「おーい、みんな、こっちだ、こっちだ、ゴジラ松井くんのご両親にご迷惑をかけるんじゃない、
そっちはゴジラ松井くんのご両親が生活をしている家の玄関だぞ、記念館の玄関はこっちの方だ、みんなが迷惑をかけたら、
ゴジラ松井くんのご両親は腹を立てて、泊まらせてくれなくなっちゃうぞ」
村野先生はまだ泊まる気になっている、そして、その声を聞いたので、一見、人間に見えるのとか、明らかに化け物なのが、
ぞろぞろと記念館の玄関の方に移動した。
「先生、貧乏石川の姿が見えません」
探偵高橋愛が村野先生のところで立ち止まって、囁いたので、見ると、確かに、石川梨花がいない、
そのとき、ゴジラ松井くんのご両親の住む住居の方から叫び声が聞こえた。
「知らない女がうちのぬか床に手を突っ込んでいるーーーーーうーーーーーー」
「あいつだ」
「あの馬鹿だ」
村野先生も王警部も井川はるら先生も安部なつみ先生もみんなぴんと来た。ご両親の住居の台所の方に急ぐと、
ご両親がじっとその女の方を見ている。石川梨花がホーロー引きの大きなばけつの中のぬかの中に手を入れたまま、
じっとゴジラ松井くんのご両親の方を見ている、その横では弟が手帳にメモを取っている、
「どんな漬け物を食べているか、調べているところなんです」
石川が自分の仲間が来たという表情で言葉を発したので、ハロハロ学園の教師たちはみんな、口を揃えて、うちの生徒ではないと断言した。
教師たちが害が及ばないようにと、何食わぬ顔で出てくると、石川とその弟はきゅうりを漬けたのをそれぞれ丸ごと、
一本、囓りながら、出て来た。
 教師たちは不思議がったが、生来のペテン師の石川とその弟にして見れば、そんなことは造作もないことだった。
 いつだったか、瓦版屋の吉澤が体験したことだったが、馬鹿組の中で巨大な蝦蟇蛙をつかまえることの出来る沼が
ハロハロ学園の近くにあるという話になり、その場所を知っていると蝦蟇蛙ハンター石川は強く主張した。
吉澤が瓦版の記事にしようと思って、ハンター石川に道案内を依頼した。
吉澤はまみりと一緒にハロハロ学園の裏の方の沼地へと抜ける間道の入り口のところで待っていると、石川はやって来ていたが、
そこには石川の弟も立っていた。
そこで、吉澤とまみりと石川と石川の弟でその巨大な蝦蟇蛙の生息している沼へ歩いて行ったが、ハンター石川の言ったとおりに、
そこには確かに、巨大蝦蟇蛙が多数生息していた。そして、時間を忘れた四人が帰る時間になると、あたりは暗くなり始めていた。
これでは帰る途中ですっかりと暗くなってしまうと思った吉澤とまみりはバスを使おうと思った。
しかし、バスの停留所がどこにあるのか、知らなかった。しかし、ハンター石川と、その弟はこの沼地を走るバスの停留所がどこにあるか、知っていたのである。
 そこで交渉人、石川は交渉を始めた。自分と弟のバス代を出してくれたら、バスの停留所の場所を教えてくれるというのである。
そこで吉澤は怒った。なんで、勝手について来た弟のバス代まで出さなければ、ならないのかと、
そこで、吉澤とまみりは歩いて帰ったのであるが、その横をどっかの農家の主人が運転する軽トラックの助手席に石川と石川の弟は
ちゃっかりと乗って、通り過ぎたのである。
 生来の詐欺師石川はすべてがすべてこうなのだった。
 王警部とまみりとはるら先生がゴジラ松井記念館の入り口をくぐったときは、すでに不良たちも妖怪子分百千騎たちも
ゴジラ松井記念館の中に入って、その展示物を鑑賞している。
「やっぱり、一倍半くらい大きいなり、大きいなり」
ゴジラ松井くんが生まれたばかりで、ドームのかたちをした透明な保育器の中に入っている写真が展示されているが、
その大きさは隣に寝ている赤ん坊の姿に較べると確かに一倍半くらい、大きい。
そして、その横にゴジラ松井くんの小学校入学当時の写真もあるが、たしかにそれも一倍半くらい大きい。
「やっぱり、ゴジラ松井くんは、昔から大きかったなり」
まみりは満足した。まみりの心の中では、ゴジラ松井くんはむかしから大きくなければならないと思っていたからだ。
その横には柔道着姿の松井くんの写真がのっている。
「むかし、ゴジラ松井くんは柔道をやっていたなりか、やっていたなりか」
まみりには新鮮な驚きだった。
「なんだ、まみりちゃん、そんなことも知らなかったのかい、みんな知っていたよ」
「王警部も知っていたなりか」
「わたしも知っていたわよ」
はるら先生も口を添えた。
その写真の横にはゴジラ松井くんが着ていたと思える、洗い晒しの柔道着も飾ってある。
まみりはこの柔道着を着て、ゴジラ松井くんが一本背おいや払い越しや、受け身の練習をしたのだろうと思った。
そして、鏡開きにはお汁粉を食べたのかも知れない。
 不良たちが少し離れたところで、固まっている。まみりはそこで何をやっているのか、わからなかった。
そのとき、急に警報が鳴り響いた。
「どうしたんだ」
王警部が叫んだ。
不良たちのいるあたりの天井に下がっている赤いランプが点滅して、黄色の変なランプが不良たちを照らした。
サイレンの音が鳴り響いている。その非常照明に照らされて、飯田たちがまみりの方を向いた。
「ご神体になにがあったんです、何があったんです」
ゴジラ松井くんのご両親が住居の方から、走って来た。飯田も保田も辻も加護も小川もこっちを見たまま、こわばっている。
「オヤピンが悪いんダッピ、ゴジラ松井くんのへその緒を記念に持って帰ろうって、言ったんだっぴ」
「まったく、ハロハロ学園では、どんな教育が、おこなわれているんですか」
ゴジラ松井くんのご両親はハロハロ学園のみんなにこんこんと説教をした。
 住居の居間の方で輪島塗りの器の中に堅焼きの煎餅を入れて、ゴジラ松井くんのご両親は、こたつの中に入りながら、
朝の連続テレビ小説を見ていた。
「まったく、人の家へやって来て、他人の子供のへその緒を持って帰ろうとする見学者のいる学校なんて、はじめてだね」
「本当に、そうですね」
ゴジラ松井くんの母親は堅焼きの煎餅をかぶりとひと囓りした。
「東京のどこにある学校だって、言っていた」
「さあ、さっぱりとわかりませんよ、死んだ有名な海洋学者が建てた学校だと言っていましたよ」
「海か、海洋学者といえば、きっと海の中の研究をしているんだろう、最近、船に乗っていないな」
「今度、お隣が湯涌温泉に行ってから、舳倉島に遊びに行くと言っていましたよ、あなたもご一緒したら」
「いいよ、それにしても、このテレビ、写りが悪いな」
「電気屋さんにアンテナを直してもらうように、頼んでいたんですけど」
居間の窓のところに電器屋が現れた。
「おはようございます、アンテナの修理に来ました」
「ご苦労様」
電器屋は窓のところに収縮するはしごをかけて上に登って行った。
「屋上に上って行ったみたいだね」
「そうですわね」
ゴジラ松井くんのご両親が見ていると、中国の古代の占い師みたいな格好をした、女の子が、はしごで上に上がって行った。
「電器屋さんの助手ですか」
ゴジラ松井くんの尊父が言うと、その女の子は、べし、とだけ、短く言った。
そしてふたりが目を離しているすきに、妖怪子分たちが屋上に上がって行ったが、ふたりはまったく、そのことに気づかなかった。
屋上に上がった妖魔剣聖紺野さんはべしと一言、言うと電器屋は気を失ったので、妖怪子分たちは彼を地上に降ろした。
屋上で妖怪子分たちは祭壇を建設し始める。
そのとき、さっきより西風が強くなったようだった。
妖怪総大将の長い黒髪はその西風に吹かれて、顔の下の方を隠したが、その姿は美しかった。
妖怪子分たちは、それぞれ妖怪語で紺野さんに随時、報告に参上した。風はさらに強く吹き始めた。
 妖魔剣聖紺野さんは、天にいる何者かわからないもの、それは天上の竜かも知れなかったが、
そのこの世界の気象を支配するものを意識して、天上を睨んだ。
 「まみり、まみり、ゴジラ松井くん記念コインを弟が拾ったのよ、刻印機がそこにあるじゃない、
今日の日付とイニシャルを押したいんだけど、お金、くれない」
「うるさい、石川、やらないなり」
「まみりのけち」
記念館の海側の方にベンチが置いてあって、その横にカップ麺の自動販売機が置いてある。
その横で吉澤と探偵高橋愛が座って、カツプ麺をすすっている。
まみりはそこに行くと、さっきから、気になっていたことを吉澤に聞いた。
「紺野さんがいないなり、どうしたなり」
「そう言えば、紺野さんの姿が見えないわね」
そのそばでスマートボールをしている新庄芋にも聞いてみた。
「紺野さんが、いないなり」
「さあ、ミーに聞かれてもわからないデス」
「紺野さんはどこに行ったなりか」
「まみり、こっち、こっち」
小川が海に面したところに備えてある望遠鏡を見ながら、まみりの方に声をかけて来た。
「十円、入れて、十円、入れて、望遠鏡が見えなくなっちゃう」
矢口まみりはポケットの中を確かめると小銭が入っていたので、望遠鏡の横にある、料金箱に小銭を入れた。
「大変だよ、まみり、大変だよ、まみり」
小川は同じ言葉を繰り返した。
「ふん、まみりはずるい、わたしと弟にはお金、くれなかったのに、小川にはお金、あげるのね」
「うるさいなり、石川」
「まみり、見てごらん、望遠鏡で海の方を」
あわてて、まみりは望遠鏡の方をのぞき込んだ。
そこへ、つんくパパもやって来た。
「矢口、おかしいぞ、おかしいぞ、妖魔剣聖紺野さんの姿も、妖怪子分百千騎の姿も見えない」
徳光ぶす夫は不安そうな表情をしている、ほーちゃんやくーちゃん、そして神官新垣の肩を落ち着かせるためのように押さえている。
「大変だなり、大変だなり」
まみりは望遠鏡のはるか向こう、海上を見つめながら、絶句した。
 そのとき、雨がぽつり、ぽつりと降り始めた。
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(小見出し)海上大決戦
望遠鏡の前部の方についているレンズの方に雨だれがぽつりと当たった。
数十キロさきの水平線がゆらゆらと揺れている。そのさきに、何千という無数の貝殻が荒波の上に揺れている、
貝殻の中には怪獣のような奇怪なかたちをした古代生物アロマロカロスが乗り込み、手にはそれぞれ、火矢をかまえている。
 そして、その貝の船の集団の真ん中に、まみりのいとしい人、ゴジラ松井くんが源平合戦の武将のような格好をして、
貝の船に乗りながら、櫂をこいでいる。
「ゴジラ松井くんなりなり」
まみりはそのあまりにも凛々しいゴジラ松井くんの姿をうつとりとして見つめると、一人、その人の名を囁いた。
「見せなさいよ」
瓦版屋の吉澤がまみりが覗いている望遠鏡を奪い取ると、その中に映ったものを見て、大声をあげた。
「敵機、来襲よ、敵機来襲よ」
ゴジラ記念館の中は右往左往の大騒ぎになった。まるで公家政治の終焉の頃にさむらいがその貴族の館を襲ったような状態だった。
「敵、アロマロカロス、その数、七千、敵の総大将、ゴジラ松井くん」
「おい、みんな、紺野さんはどうしたんだ、紺野さんは、それに王警部もいないぞ、それどころじゃない、
妖怪子分百千騎もいなくなっている」
「どうするんだ、どうするんだ、紺野さんがいなかったら、みんな、皆殺しにされちゃうぞ」
「アロマロカロスたちはみんな火矢を持っている、この石川県を火の海にするつもりだ」
「きゃあー」
「きゃあー」
混乱と動揺がゴジラ松井記念館の中に嵐のように吹きすさんだ。
「まみり、わたしたち、みんな、殺されちゃうの」
「まだ、死にたくない、まみりの花嫁姿を見るまでは」
「つんくパパ、どこにいるなり」
「ここだ、矢口」
「みんな、どうした」
「オヤピン、オヤピン」
「ちょっと、みんな、静かにして、静かに、二階の天井の上の方で何か、聞こえるわ」
「確かに、聞こえる」
「みんな、外に出るんだ」
ゴジラ記念館の中にいたハロハロ学園の連中はみんな、外に出た。外には雨が横殴りにふっている。
ことの異変に気づいたゴジラ松井くんのご両親も外に出て、二階の屋上の方をゆびさしている。
「あれは、なんだ」
「あっ、紺野さんだ」
「王警部もいる」
ハロハロ学園の連中は雨の中を屋上にいる、紺野さんや妖怪子分百千騎たちを見上げた。
ゴジラ松井くんの実家兼、ゴジラ松井記念館の上にはいつのまにか、陰陽道の祭壇がしつらえていて、
その前で変な鏡を首に下げた、紺野さんが変な呪文をとなえている。
いつの間にか、その建物の上には、古代から連綿と続く道教の思想にもとづく、祭壇の火がもえていた。
その上には妖怪子分百千騎と王警部も上がっている。
 雨は激しく降っているが、その祭壇の火は消えなかった。
空には激しい雨を表現しているターナーの絵のようだった。妖魔剣聖紺野さんの昆布のような黒髪は雨に濡れていた。
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ」
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ、バンザイ、バンザイ、天の竜、地の亀も紺野さんにしたがう」
「バンザイ、バンザイ、紺野さんは陰陽五気をすべて、その手にする」
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ」
「紺野さんは妖怪総大将、この世のすべてを統一する、バンザイ、バンザイ」
「妖怪総大将、バンザイ、紺野さんは火竜も水竜もすべて、てなづける」
妖怪子分百千騎と王警部がそうとなえたとき、紺野さんが呪文を唱えている、祭壇の火が、ばっと大きく、なって、竜のかたちになると、
火を吹き、妖怪のひとりに火を吹きかけた。しかし、妖怪子分百千騎と王警部の祈りの言葉はとまらなかつた。
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ、われらが妖怪総大将バンザイ、嵐も地震もいかづちもすべて、紺野さんの手の中にある。
バンザイ、バンザイ」
紺野さんは不思議な印を結び、指先をその祭壇の方に向けると、ダイヤのようなキラキラしたものが飛び出し、火の中に飛び込んで、
空中に飛散して行った。
空には低く、怪しい色をした雲が立ちこめ、雲の中からはいかづちが、絶え間なく、地上を覆った。もしかしたら、
ハロハロ学園の連中はまだ、生物が存在しない、生きた地球の誕生の様子を見ているのかも知れなかった。
古代、地球は熱い、焼けた石で、そこに雨が大量に降りしきり、海が出来た。
妖魔剣聖紺野さんは背中に、例のピロピロ剣を背負っていた。かみなりが連続して、ゴジラ松井記念館の周辺に落ちたとき、
背中に背負っていた、ピロピロ剣を天上に向けた。そのときかみなりが紺野さんの上に落ちた。
まみりは紺野さんは死んでしまつたのではないかと思ったが、紺野さんの身体からはイオンが放たれている、
エネルギーのかたまりのようだった。
天上を覆う暗雲がまるで生き物のようにのたくっていた。その雲の波間のあいだに何者かが隠れているようだった。
「バンザイ、バンザイ・・・・」
妖怪子分たちと王警部の祈りの声はさらに大きくなる。すると、コバルト色をした、天の気候の支配者が首を出した。
石川県くらいの大きさのある、竜が首を雲間からのぞかせると、妖魔剣聖紺野さんをにらみつけた。
竜は口の中から、超高電圧のイオンを発して、紺野さんに浴びせかけた。紺野さんの身体は青白く無気味に光り、
空中放電をして、ばちばちと火花が散った。
そして、かみなりのかたまりであるかのような竜は上半身を地上に降ろすと紺野さんの身体に巻き付いた。
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ・・・・・」
妖怪子分たちの祈りはさらに大きくなる。竜に巻きつかれて、全く姿の見えなくなった、紺野さんだった。
巻き付いている竜の身体の隙間から女の子の手がするするとのびていく、そして、その手が両方から近づいて触れると、
大爆発が起こり、数百キロ四方が光のかたまりのように明るくなった。
そのとき、王警部が貝のひものようなゴジラ松井くんのへその緒を空中になげあげると、それも大爆発した。
そして巻き付いていた竜が紺野さんの身体を放すと、紺野さんは身構え、指で空中に、仁、義、礼、知、信、と書くと、
その指文字は空中で光りとなり、竜の額に飛んで行き、竜の額にその文字が浮かび上がった。
竜はまた、雲間に消えたが、雷雲は命を持っているようにうねり、海上に向かった。
「バンザイ、バンザイ、紺野さん、バンザイ、文武の誉れ、紺野さん、バンザイ、妖怪総大将、紺野さん、バンザイ」
妖怪子分百千騎と王警部の祈りの声はますます大きくなった。
「見て、見て、海上を」
探偵高橋がゴジラ松井軍があるだろう海上の方を見ると、その上には雷雲が漂い、雷が絶えずその上に降り注いでいる。
「紺野さんは天竜まで子分にしてしまった」
はるら先生は海上に光り輝く、アロマロカロスが燃えていく様子を見ながら言った。
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 古代の都市では、その都市の繁栄と安定を願うために方位にその建設の労力を割いた。
奈良の平城京、京都の平安京、長岡京もそうである。その都を四つの神が守っている。
北の玄武、南の朱雀、西の白虎、東の青龍である。
 玄武は水の神で蛇が亀の首に巻き付いた姿、朱雀は神鳥、白虎は白い虎、青龍はドラゴンである、それらはみんな神である。
これら四神に守られた土地を四神相応といい、その地は自然の理にのっとり、繁栄するといわれている。
そして、つねに空間、と言って平面ではあるが、移動する人間の上に現れる第五神がある。それが天竜である。
天竜は、玄武、朱雀、白虎、朱雀の姿を変えた合体した姿ともいわれる、その天竜が頭上に輝く人間はこの地上を治めると言われ、
周の部武王、漢の劉邦の上にも、そのみしるしが現れたといわれているが、ここ、数百年にわたって、その兆候はなかった。
しかし、その姿だけではなく、子分として、天竜を従える存在がこの地上に現れたのは宇宙の歴史が始まって以来だった。
 「べし」
嵐の吹きすさぶ、ゴジラ松井記念館の屋上で、風雨に飛ばされないように、コンクリートの床にはいつくばりながら、
妖怪子分百千騎たちと王警部は妖怪総大将紺野さんを崇拝する、呪文を唱えている。
妖魔剣聖紺野さんの視線は数十キロ先にある、ゴジラ松井の引き連れる海底帝国軍団に向けられている。
「べし」
紺野さんがもう一声、言うと、雷雲の中からまみりたちのいる場所からもはっきりと見える、巨大な竜が姿を現した。
「まみり、見て、見て、巨大な竜よ」
吉澤が風雨に声をかき消されないようにと、叫ぶと、天を覆う雷雲から首を出している竜は、そのうねる下腹も雲から姿を見せた。
およそ十五メートルくらいの大きさのある、野球帽を被ったゴジラ松井くんの頭部は頭上の竜を見上げると、一睨みして、
軍配をその巨竜の方にふると、この風雨にも消えないアロマロカロスたちの構えている火矢、
数千がいっせいに竜に向かって飛んで行った。
すると、竜の身体は七色に発光して、いかづちそのもののようになり、火矢は竜の身体に触れる前に燃え尽きて消滅した。
火矢は雨嵐のように天上の竜にめがけて射られているが、ことごとく、炎になって燃え尽きた。
ゴジラ松井の子分たちの背中に背負った火矢もつきかけようとしたとき、雲の切れ目に見え隠れしていた、竜の尾が雲間から姿を見せた。
そして、尾は竜の頭の方に近づき、竜の頭と尾を結ぶあいだに虹にも似た電気の通り道が出来ると、
今まで見たこともないような爆発と光を伴った、電撃がゴジラ松井軍の上に降り注いだ。
有料の望遠鏡をのぞき込んでい吉澤も前方に見える、海底帝国軍の様子がわからなくなった。
「まみり、大変な爆発よ、なにがなんだか、わからなくなったわ」
外で嵐に吹きすさばれながら、肉眼でその様子を見ている不良たちにも、その変化はわかった。
海上にはもうもうと煙があがり、燃え上がる炎でその煙が赤く彩られている。
燃え上がる炎の隙間から石灰化したアロマロカロスの乗っていた貝がらと黒こげになった乗り手たちが波間にぷかぷかと浮かんでいる。
その数、およそ、七千。
「天の気象を支配する、竜の攻撃を受けたからには、さすがのゴジラ松井もひとたまりもなかったデスネ、アハハハハ」
新庄芋は声高く、隣にいる探偵高橋愛の方を見て笑ったが、その声は乾いていた。
屋上にいる、妖魔剣聖紺野さんを称える妖怪たちの祈りは停止していた。妖怪子分百千騎たちも、王警部も、
そして紺野さんも海上のもうもうと立ち上る煙をじつと見つめていた。
 煙が少し、途絶えて、波揺れる海面が現れた。波間にはアロマロカロスの死骸が数え切れないほどたくさん浮かんでいる。
そのときである、海面がざばっと波立つと、十五メートルに及ぶゴジラ松井くんの頭部が海上に現れた、
それと同時にゴジラ松井くんは口に含んでいる海水を数百メートル上空に浮遊している、天竜にめがけて、ふきかけた。
「きゃあー」
そこにいたものは誰知らず、ハロハロ学園の連中はみな声にならない声を上げた、ゴジラ松井くんが首を伸ばして、
竜に大量の水を拭きかけると、また、鼻梁のあたりまで海面に浸った。
それと同時に海面に数十メートルもある、大量の土竜が姿を現すと、数百いる土竜たちは空中に飛んで行き、天竜に向かった。
「大変なことだわ」
大声をあげながら、隣の徳光ぶす夫にはるら先生は叫んだ。
くーちゃんもほーちゃんも、そして神官新垣もその様子をじっと見ている。
「妖魔剣聖紺野さんが、天を支配する天竜をその子分にしたように、ゴジラ松井は土中を支配する土竜を子分にしたのよ、
地球はどうなってしまうの」
井川はるら先生は絶叫した。
空中にのぼっていった無数の土竜は天竜にからみついている。そして、天竜はその重みに耐えきれなくなったのか、
海上に落下していった。大きな波が起こり、海水面が変化した。無表情にゴジラ松井は海面にその姿を現すと波面を切りながら、
その頭部を前面に押し出して、前進してくる。
「なんて、ことだ、ゴジラ松井は天竜の攻撃を受けながら、傷ひとつ負わなかったのか」
村野先生が歯がみをしてくやしがった。
「対決のときが来たんだわ」
井川はるら先生がぽつりと言ったので、吉澤はゴジラ松井記念館の屋上の方を見ると、
真っ赤なマントをひるがえした妖怪総大将が屋上のへりのところで海上を見ながら、下唇で上唇を押さえながら、
風雨を顔に浴びながらも決して意に介しようとしなかったが、
「やっ」と一声叫ぶと地上に降り立った。そのあとを妖怪子分百千騎たちも降りてきた、そして、王警部もおりてきた。
まみりは武者震いが止まらなかった。
「やって来る、頭部の大きさが十五メートルある、怪獣王が、海底帝国ラーの王子、ラー松井八世が」
ハロハロ学園の連中はみな誰言うともなく、言った。
不良たちががらがらと音を立てながら、故障して動かなくなった、スーパーロボの腹部に格納されていた、
なめくじ型迎撃飛行艇を押して来た。まみりはハロハロ学園の連中に無理矢理、金色をした宇宙服のようなものを着せられた。
「一刻の猶予も出来ない、紺野さんは」
王警部が言うと、紺野さんは佐々木小次郎のような格好をして立っている。背後には妖怪子分百千騎たちが控えて、
さかんにもみ手をしている。何も言わないのに、紺野さんはなめくじ型迎撃飛行艇の後部座席にピロヒピロ剣を背中に背負ったまま、
乗り込むと、さかんに挺を揺らして発進の催促をしている。
 つんくパパは金色の宇宙人みたいな姿をした、まみりの方にやって来た。
「矢口、とうとう、時が来た」
まみりは何でもないが、少し緊張した。
「今日は、矢口のパハでなく、男として、いや、人間として、俺から言いたいことがある」
「なんなり、つんくパパ」
「矢口、俺はモーニング娘っこを立ち上げてから、お前に出会った、矢口、俺の人生でお前ほど、おもしろい女に出会ったことはない、
そして、これからも、お前よりもおもしろい女に出会うことはないだろう、グッフォーユー、フォーエバー矢口」
「ありがとうなり、つんくパパ」
まみりはつんくパパに向かって、敬礼をした。つんくパパも敬礼を返した。
後部座席に乗って待たされている妖怪大将はブーイングをした、妖怪子分百千騎もそれにならってブーイングをした。
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