電人少女まみり  第38回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第38回
「神様、神様、ゴジラ松井くんを誰にも渡したくありません。ゴジラ松井くんの赤ちゃんはわたしが生みます。
このまま行けば、ゴジラ松井くんはスーパーロボットに逮捕されて、そして矢口と結婚してしまいます。
神さま、ゴジラ松井くんはわたしの運命の人です。スーパーロボの弱点をスーパーロボの弱点を、そうしたら、
この場で雷に打たれて、命を絶たれても文句はありません」
石川は手を合わせて神様にお願いをした。するとどこからか笛の音が聞こえ、おごそかな雰囲気があたりに漂い、
まるで時代が古代に戻ったようになり、霊的な霧があたりを包んで、笛の音につれて雅楽の調べが流れ始めた。
「どうしたの」
霧に包まれてはっきりとは見えなくなっているあたりを見回した。
すると朽ちた神殿の奥の方から出涸らしのお茶みたいな衣装に全体を覆われた小柄な得体の知れない人物が現れた。
そのねずみ男のような衣装に包まれて、その顔は見えなかった。「あなたは神様ですか」
神殿の中から現れたその人物に向かって恋に燃える女、石川は尋ねた。
「神ではないが、そのようなものだ」
声はしわがれている。
「黒魔術のはるら先生に教えられて、やって来ました」
石川はまだ手を合わせていた。
「お前の言いたいことはわかる。スーパーロボの弱点を教えろということじゃろう」
「そうでございます。神様」
「しかし、石川、スーパーロボが稼動しなければ、ゴジラ松井を逮捕することは出来ない。
したがって、矢口まみりとゴジラ松井の結婚はなくなる。矢口まみりは、石川、お前の友達ではなかったのかな」
すると石川梨佳は苦しげな表情をしたが、はっきりと、また、顔を上げた。
「貧乏人だって、一生に一度は運命の恋に身を焼いても、天はお許しになるでしょう。わたしは自分を偽っていました。
いつも、まみりの使い走りをして、自分の本当の気持ち、ゴジラ松井くんに対する気持を隠して生きていたのです」
神さまは衣装で顔が見えなかったが、無言だった。
「しかし、その恋、すべてを犠牲にしても投げ出す価値があるのかな」
「石川はその気持でここに来たのです」
そしてその顔のわからない神様はいやらしく、石川の身体をなめまわすように見つめた。
「わしは神の国で連れ合いが亡くなって、どのくらいの月日が経ったかわからない、
ただではスーパーロボの秘密を教えることは出来ない、一体、お前はわしに何をくれるのかな」
その言葉の意味は恋に燃える女、石川にもわかった。
「そのくらいの覚悟は出来ています」
石川はそう言って目をつぶった。
神殿の朽ちた階段をみしみしいわせて、神様が自分の方に降りてくることを石川は感じていたが、目をつぶっていたので何も見えなかった。そして神さまは自分の前に立っている。神様の腕が伸びてくるのを感じた。神様の手は石川の上着に触れた。神様は石川の着ているカーディガンを脱がせようとしているらしい。石川は身体を支えている力を抜き、だらりと下に腕を下げると、神様はカーディガンを下におろした。腕に絡んでいる袖が手首まで下りた。
ああ、わたしはゴジラ松井くんのために神様にこの身を捧げてしまうんだわ。
 と思うと、何かが飛ぶ気配がして神殿の中に着地する音がする。
そして、からからと笑い声が起こった。
「ふはははははは、結構、結構、石川梨佳、お前の決心はよくわかった」
やられそうになった女、石川梨佳は目を開けると、神殿の上手の方に神様が立って大声を上げて笑っている。
「石川梨佳、スーパーロボの弱点を教えてやろう。
ほかの部分は壊れてもすぐ修理をすることが出来るが、首のところに小さな穴がある、
そこにスーパーロボのエネルギーを潤滑させる装置がある、そこを壊すとスーパーロボは二ヶ月は修理不能だろう。
しかし、スーパーロボの外壁は地上のあらゆる工作機械を持ってしても穴を開けることは不可能だ。
あとは自分で解決しろ。あははははは」
神様は高らかに笑いながら光の渦となって天上に昇って行き、見えなくなった。
 ハロハロ学園の向かいにあるファミリーレストランで三年馬鹿組の不良たちがたむろしていると、
少し離れた席で見たことのある目のぎょろりとした男が静かにコーヒーを飲んでいる。保田がまっさきにそれを見つけた。
「見て、見て、桜田門が来ているよ」
その声が聞こえたのか、その男は不良たちの方を見るとぎろりと睨んだ。
「ばか、保田、聞こえるだろう」
リーダーの飯田が叱責した。
「それより、あのウェーター、ちょっぴり、可愛くない」
とろんとした目をして小川が最近、入ったウェーターを見つめた。不良たちはいつも男を狙っていた。
ウェーターは蝶ネクタイを直しながら、不良たちの視線に気づいたようでちらりと彼女たちを見た。
「あっ、あいつ、気づいているよ。からかってやろうか」
不良たちの中でこそこそ笑いが起きた。
「でも、ちょっと見たことあるような顔だな」
「勘違いだよ、オヤピン」
剣聖紺野さんだけは不良たちの後ろの席で宝刀、紀伊白浜丸を抱きながら、居酒屋で買った一升どっくりをテーブルの上に置きながら、
手しゃくで、ひとりちびちびとやっていた。それを見た、このファミリーレストランの店長が
「飲食の持ち込みは困るんですけど」というと一閃、刀を払って、店長のもみあげ三本と胸につけていたネームバッジに一筋あびせると、
店長は何も感じなかったのに、スローモーションフィルムを見るように、
それらの物がゆっくりと床の上に落ちて行った。店長は恐怖に歯がガタガタと揺れて何も言えなかった。
ファミレスの入り口の方から入り口のドアについている呼び鈴が鳴って、大きなショルダーバッグを肩にかけて矢口まみりが入ってきた。
そのことに気づいた不良たちは一斉にまみりの方を見たがまみりはあっかんべーをして返した。
 奥の方に座っていた王警部が手を挙げると、まみりを呼んだ。
「まみりちゃん、こっち、こっち」
「はーーーい」
その様子を見て、飯田が、なんか、すっごく、むかっくと言うと、剣聖紺野さんの剣がふたたび一閃、光って、
空中を飛んでいる蠅をまつぷたっにして落ちて来た。
「王警部、待ったかなり」
まみりは座席の上に大きなボストンバッグを投げ出した。
そこへ例のウエーターがやって来てまみりの前にコーヒーを置いた。
「まみりちゃん、今日はいい知らせだ」
「何だなり、王警部」
「隠密怪獣王を逮捕出来る」
「ええっ」
「あいつは、きっと来る」
「どういうことなり、まみりはよくわからないなり」
「隠密怪獣王の餌を手に入れたんだよ」
「餌」
「そう、餌。つまり、超古代マヤの神官たちさ、きみのかっての同級生の新垣も含まれる。
隠密怪獣王はきっとあいつらを取り戻しにくる。実はあの三匹を宇宙に追放することが決まった」
「ええっ」
まみりはあまりの突然のことに、声も出なかった。
「あの三匹は日本の重要機密として、警視庁の秘密地下フロアーに収監されていたが、小泉総理と石原都知事があの三匹を御覧になった。
そして、あの三匹の凶暴性と危険性を認識されたようだ。あの三匹は地球を滅ぼす。直接、断を下された。
あの三匹は、現在、石川県にあるゴジラ松井記念館の横に建設中の火星探査無人ロケットの燃料タンクをひとつはずして、
そこに乗せて宇宙に追放することが決まった。発射日時も決まっている、ゴジラ松井記念館は、まみりちゃんも知っているとおり、
海のそばにある、あの海底生物が上陸するのはもっともなことだ。あの三匹をロケットに乗せたとき、
スーパーロボで隠密怪獣王をつかまえればいい、そうして、隠密怪獣王は罪に服すのだ。そしてまみりちゃんと結婚する」
まみりはテーブルの上にずり上がってくると王警部のあの何百万回とバットを降った手を握った。
「ありがとうなり、ありがとうなり、王警部、これでゴジラ松井くんは晴れてまみりと結婚出来るなり」
「実はロケットを打ち上げる日も決まっているんだ。十月十五日だよ」
王警部と矢口まみりがその話をしているあいだ、ずっとあのウェーターは王警部の後ろの開いている席に座ってナプキンを折っていた。
話が終わるとウエーターは立ち上がり、厨房の中を通って、休憩するといい、レストランの裏手の駐車場に出た。
あたりは薄暗がりで、人の顔もそばに行かなければよく見えない。そこにひとりの女が立っていた。
「姉ちゃん、聞いてきたよ。聞いてきたよ。十月十五日、その日にゴジラ松井捕獲のための大捕物が行われるんだって」
「梨佳夫、ありがとう。わたしもスーパーロボの破壊法がわかったのよ」
「姉ちゃん、姉ちゃんには苦労をかけたからね。姉ちゃんには幸福になってもらいたいんだ。この恋、成就してね」
「梨佳夫、ありがとう」
石川梨佳の瞳はもう濡れることはなかった、力強く夕闇の空を見上げたのである。
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 ハロハロ学園の北の方に鉄道の車両基地があり、その背後には灰色のなだらかな山が控えている。
その鉄道基地がある関係からだろうか、その地域には大きな発電所があり、巨大な送電線が一本、
その発電所の中心になるところに立っていて雷雨があると、その送電線のてっぺんに雷が落ちて、
七色の虹のような火花が鉄塔のてっぺんから渦巻き状に発射される。
 その発電所の隣にスレート屋根の巨大な工場があって、屋根の真ん中から発電所の太い送電線が引き込まれている。
そして工場のまわりは三メートルもある大きな壁で囲まれていて、出入り口は壁の真ん中ぐらいの高さの位置にあって、
中世の城が城門が開いて中に出入りできるように、その出入り口が前に面している道路に橋が渡されて出入できるようになっていた。
 ここが鋳物で巨大な客船を作るという計画に使用されていたことはかって週刊誌で暴露されたことがある。
しかし、その計画も頓挫して、知らない機関で管理されていたが、そこに何も変化はないようだった。
しかし、最近、この廃棄されたような工場で変化があった。自動小銃を持った兵士のような人間が工場の中をうろうろしていることである。しかし、外部の人間はこの中に入ることが出来ないので、誰もこのことを知らなかった。
 最近、井川はるら先生が石川梨佳に語ったように、ここに巨大なスーパーロボが仰向けに保管されているのである。
 夜の十時、あたりには誰も人影がいない大きな産業道路を横に入った小道でこの工場の高い壁に面して、
ふたりの兄弟がその巨大な壁を見上げている。
「姉ちゃん、ここだね」
「ここだよ。梨佳夫」
ふたりの兄弟はまるで鱗のない蜥蜴のような、黒いエナメルのスーツを着ている。
「どうやって入る、姉ちゃん」
「あの送電線を使って中に入るのよ」
「十万ボルトの高圧の流れる、電線の中をか、姉ちゃん」
「そうよ、梨佳夫、わたしたちは電気に姿を変えるのよ。それより、あのかまどうまのような虫を持ってきた」
「持って来たよ、ねえちゃん」
石川梨佳夫は森永のチョコボールの金の缶の蓋を開けてみせた。
「いいわ、梨佳夫、じゃあ、わたしたちは電気に姿を変えるのよ。わたしが身に付けた百八十八の超能力のひとつ、電気変換を使うわ」
すると超能力者、石川梨佳は胸の前で指を変なかたちにして呪文を唱えた。
 するとこのふたりは青紫色の浮遊する電荷の塊のようになるとうさぎが飛び跳ねて
人参をつかむように高圧電線の中に吸い込まれて行った。そしてその瞬間には彼らは工場の内側に入っていた。
そして青い炎のようなふたりはやがてその姿をスーパーロボの頭部を固定している作業のための骨組みの上に立っていた。
「姉ちゃん、ここに穴を開ければいいんじゃないの」
弟の梨佳夫はスーパーロボの巨大な頸部を見ながら指さした。梨佳夫はロボットの頸部のところに砂糖水を塗った。
そしてあの宇宙人が捨てたペットのかまどうまみたいな虫を放すとその塗った部分に行き、
五ミリくらいの大きさの穴をがつがつと開け始める。足場の下の方で靴がこつこつと音を立てた。
「姉ちゃん、誰か来たよ」
エスパー梨佳が下の方を見ると自動小銃を構えた兵士が下を歩いている。
ここでふたりがスーパーロボの破壊工作をしていることには気づいていないらしい。
石川梨佳は魔女のような表情をすると右手の人差し指を一本立てた。するとどうだろう、
魔女石川の指からは不思議なオーロラのようなものが発生した。それも、その形は南米の蝶のようだった。
その青く発光する蝶は空中をゆらゆらと揺れながら、下の方に降りて行き、
その兵士の首のあたりをちくりと刺すと兵士は眠り薬をもられたように、その場で眠ってしまった。
「梨佳夫、もう平気よ」
「姉ちゃん、この虫も、頭の中を食い荒らしたみたいだよ」
小さな穴の中から、また出て来た小さな虫を缶からの中に入れると、魔女石川梨佳は満足して、また、電気の塊のようになると、
送電線の中に入って行った。
 ホームルームの担任の村野孝則先生が教壇の前に行ってもまだ、教室の中は騒がしい。
不良グループたちは椅子に横座りに座って、カップラーメンでどこの銘柄のものがうまいか、なんてことをだべっている。
 その不良グループの中には当然のことながら、新垣は含まれていなかった。
「静かにしろ、静かに」
村野先生は教卓の上を出席簿でばんばんと叩いた。
「おい、加護、こっちを向け」
村野先生は髪を大きな櫛でとかしている加護の方に向かって叫んだ。
「今日は理事長からのお話だ」
めったに理事長からの話なんて、ハロハロ学園にはなかったので、みんなは聞き耳を立てた。
「今度、うちのクラスの新垣が火星探査ロケットで打ち上げられるという話しを聞いているな」
それは秘密事項のはずだったのに、ハロハロ学園の全員が知るところとなっていた。
「新垣の見送りをこのクラス全員でやることになった。うちのクラス全員がゴジラ松井記念館の横にあるロケット発射センターに
行くことになった。クストー理事長はそのための特別専用車両も用意しているそうだ」
クラスの中ではざわめきが起こった。
「石川県まで行くのか」
「そうだ」
「なんで新垣は火星探査ロケットで火星まで送られてしまうのよ」
瓦版屋の吉澤が尋ねると、担任の村野先生はもっともらしいことを言った。
「宇宙人が新垣にプロポーズしたそうだ。なんてな、はっきりしたことはわからない」
うそだなり、新垣は危険物質として宇宙に追放されるなり。大人は嘘つきなり。
矢口まみりは心の中でそうつぶやいたが、発言しなかった。
「クストー理事長の特別なおはからいで父兄の方も新垣見送り列車に乗り込んでいいそうだ」
まみりはこの事実をパパのつんく博士に伝えることにした。
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「変な格好なり」
まみりが叫ぶと小川がこっちを見て振り向いた。
「似合うでしょう。この帽子」
小川はスペインの貴婦人が被るような変な帽子を被っている。東京駅の十七番ホームに長大な貨物列車が止まっていて、
客車の入り口のところで村野武則先生と井川はるら先生が何か話している。
飯田かおりが弁当売り場の前で立ち止まって牡蠣弁当というものをじっと見ていた。
加護と辻は駅の売店で買ったスポーツ新聞の格闘技欄を読んでいる。もう列車の中に乗り込んだのか、
保田が窓から首を出してホームの方を見ていた。どういう手づるか知らないが、藤本までもが子分をつれて列車の中に乗り込んだ。
 「動物までつれて来ていいの」
吉澤にそう言われて、まみりが振り返るとつんくパパの横にはダンデスピーク矢口が立っていた。
「つんくパパ、なんでダンデスピークまでつれて来るなり」
「矢口、こいつが行くと言ってきかなかったんだよ」
つんくパハは言い訳めいた寝言を言った。だいぶ眠たいらしい。
「まみり、おはよう」
横を見るとやられちゃった女、石川が横に貧乏な弟を立たせてこっちを向いた。
「石川、弟をつれて行くなりか」
「まみり、弁当も出るんでしょう。弟のごはんを作ってやらなくてもいいじゃない」
その言葉のあとで石川がゴジラ松井くんを取り戻してやると言った声は聞こえなかった。
「おーーーい、みんな、もうそろそろ列車の中に乗り込まないとだめだぞ、みんな来ているか」
村野武則先生が列車の中、外を見ながら、そう言うと、小川が紺野が来ていないと叫んだ。
「なに、紺野が来ていない」
村野先生がつぶやくと、横で低くくぐもった声が聞こえた。
「来ているべし」
そこに剣聖紺野さんはいた。今日は背中に宝刀、紀伊白浜丸をたすきに背負って、
その背後からはいつものように殺気と怨念のかげろうがゆらゆらとゆれている。
「来ているべし」
剣聖紺野さんはふたたびそう言った。これ以上、何かを言ったら、斬り殺されるかも知れないと思った
村野先生は紺野さんから顔をそらしてホームに残している生徒たちや、父兄に対して叫んだ。
「あと五分で列車は発車します。みんな、乗り込んで、乗り込んで」
村野先生は生徒たちのおしりを押した。
「乗るべし」
紺野さんは再び無気味につぶやいた。
まみりは列車の入り口から中に入るとき、ディゼルの動力車が前方に三台も積まれているのが不思議だった。
列車に乗り込んだ生徒たちは自分たちの荷物を網棚の上に置いた。
「先生、お弁当は出るんですか」
まみりの隣に座っている石川が突然、立ち上がると素津頓狂な声を出して尋ねた。そのうしろの席で、
石川の弟が不安気な表情をして石川の座っている背もたれに手をかけながら前を見ている。
「出るよ」
「父兄にもでるんですか」
「出るよ」
「ゆで玉子も出ますか」
「出るよ」
「オレンジジュースも出ますか」
「出るよ」
それを聞いて安心したように石川は腰掛けた。
やがてごろりと列車の鉄輪がまわって列車は石川県に向けて出発した。
 まみりはヘッドフォンをかけて音楽を聴いていると、辻が揺れる電車の中を揺れながらやって来て、さきいかの袋をもって来た。
「喰う」
辻はそう言いながらさきいかをひとつまみ取り出すと口の中に入れた。
「そんなもの、うまくないよ」
辻のあとを追いかけるようにして、今度は加護がやって来て、加護はえいひれの乾燥したのをひとつまみすると口の中に入れた。
前の方では村野先生に保田が向かい合わせに座って、熟考している。それをとり囲むように安倍が見ている。
村野先生はビニール袋を持っていて、その中には白と黒の碁石がたくさん入っている。
村野先生と保田の前には携帯の碁盤が置かれている。ペロペロキャンディを舐めながら、
その様子を見ていた吉澤はそのあまりの白熱した様子にひやかす気にもならなかった。
まみりは後ろの方を見ると藤本がさっき子分に買いに行かせたサンドイッチをつまんでいる。
座席のうしろの方で刀のつかだけが飛び出していて、そこからは妖しい妖気が漂っている。
そこは剣聖紺野さんの座っている席だった。まみりはさっき飲んだジュースのせいでトイレに行きたくなった。
 そして前の方の席によろよろと歩いて行った。新聞をめくる音が連続して聞こえる。
一番前の席の右側を見ると、あの三匹の奇獣たちがいたのである。三匹は三匹とも経済新聞を広げて読んでいた。
その横ではあの徳光ぶす夫がタオルケットを持って、ときどき、くーちゃんとほーちゃんがよだれをたらすとそれをふいていた。
新垣は一番窓際の席に座っていて、窓のところには瓶入りのヨーグルトが置いてあった。
「まみりちゃん」
突然、声をかけられてまみりは驚いた。一番前の席で王警部が石川県の旅行ガイドを見ながら、こっちを向いたからである。
列車の横には田んぼが途切れて今度は畑が続いていた。鉄路は緩やかな傾斜に入っている。
今までよりもその進行して行く音は大きくなった。まるで前方に三台、つながれている機動車が唸っているようだった。
「ディーゼル機関車が唸っているなり」
「まみりちゃん、ホームにいるとき、気づかなかったのかい、後ろの方にホロの被さっている車両があっただろう。
あそこにスーパーロボが眠っているのさ」
「スーパーロボもこの列車で運ばれているのかなり」
「そうだよ。まみりちゃん」
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