電人少女まみり  第26回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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第26回
いつものようにまみりとチャーミー石川がハロハロ学園の校門の前に行くと校内には異常な雰囲気が漂っている。
 実は遅刻して来た矢口まみりとチャーミー石川には影響がなかったのだが、エフビーアイ捜査官、日系二世、
新庄芋が校内の放送施設を使って集団催眠を全校生徒と職員のすべてにかけていた。いや、正しく言えばそれは違う。
不良グループたち、そして探偵高橋愛、黒魔術師、井川はるら先生を除いてである。校門のところで石川が悲鳴を上げた。
校庭の真ん中に巨大なやぐらが組まれて新垣がぐるぐる巻きにされて頭上高くつり下げられていたのである。
新垣の真下には乾燥したくぬぎの木がたくさん積まれている。
日系二世、新庄芋が校内の人間に対してどんな催眠をかけていたかというと自分たちは古代人で祭りをしているという仮定である。
そして祭りのクライマックスとして黒豚の薫製を作るという行事が待っている。
さらに新庄芋の催眠術の巧妙なところは新垣と神に供える生け贄の黒豚がイコールで結べるように暗示をかけているところだった。
つり下げられた新垣は無力な山羊のように空中でゆらゆらと揺られながら助けてくれる者もないと観念して悲痛な表情をしている。
「ひど~~~~い。みんなで新垣を蒸し焼きにして食べちゃうつもりよ。ほら、全校生徒たちがたき火のまわりで狂気の踊りを踊っている。ほら、あの不良グループたちだけが冷静になっている。こんなことを計画したのはあの飯田かおりたちに違いないわ」
探偵高橋愛は三階の教室からこの様子を眺めていた。
「ふふふ、これでわたしの全米デビューは決まるわ。モーニング娘の連中、随分、わたしのことをいじめてくれたわよね。
もう、高橋愛なんて言わせないわ。ブリトニー高橋愛とわたしのことを呼ぶのよ。ふははははははは」
探偵高橋愛はこの世界を支配したように高らかに豪傑笑いをした。
 神流真剣の使い手、紺野さんだけは悲しみをたたえていた。秘宝剣、南紀白浜丸を抱きながらしゃがんでいる。
 保田がその様子を見た。
「紺野さんはこんなきちがい騒動が嫌いなのね」
「そうじゃないよ」
飯田かおりが否定した。
「泣いているのは、紺野さんだけではない。秘宝剣、南紀白浜丸も泣いているんだよ」
ニューギニア人、直伝の乾燥ミイラの頭を紺野さんはしゃぶっている。
「紺野さんは神流真剣と秘宝剣、南紀白浜丸を使う機会がないのを悲しんでいるのさ。ほら北風がぴゅうぴゅう吹いている。
紺野さんのまわりには。ああ、神の域に達した紺野さんの剣のわざは空しく錆びていくんだろうね」
「姉貴、紺野さんの好敵手は現れないでしょうかね」
「もう、出ないだろうね。紺野さんがしゃぶっているミイラの頭、信じられないだろうが、一つは柳生但馬の守のものさ。
そしてもうひとつは宮本武蔵のものだよ。おっと、あたいも余計なことばかりしゃべっちゃったかな。そろそろ始めるか。
辻、薪に火を点けるんだよ」
「へい、オヤピン」
辻が薪に火を点けた。そのことがわかるのかつり下げられている新垣は苦しそうにくるくるとまわった。
「まみり、大変、新垣が蒸し焼きにされちゃう。でも、ちょっと食べて見たい気がする」
紺野さんは秘宝剣、南紀白浜丸を抱いたまま無表情だった。
「まみり、ほら、見て、新垣が苦しんでいるわ」
そのときである。血をゆするような笑い声がハロハロ学園にこだました。
「石川、あそこを見るなり」
まみりの指さす校舎の屋上には身長三メートルの隠密怪獣王が仁王立ちでこの様子を見つめていたのである。
静かで荘厳な雰囲気がハロハロ学園を包んだ。
そして例のパフォーマンスをしたのである。つまり空中に五十五の指文字を三回やると十五メートルの屋上からひとっ飛びに
地上に降り立つとつり下げられている新垣のロープを引きちぎり、地上に降ろした。
「石川、行くなり。新垣を助けるなり」
矢口まみりは夢遊病者のような生徒たちのあいだをかきわけると新垣のところに走った。
「まみり、まみりが行くならわたしも行く~~~~~~~」
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「新垣、平気かなり」
まみりが聞いても新垣は虫の息で何も答えなかったが、身の危険を感じたときのあの現象、
顔のまわりや手足に体毛がわさわさ生えてくるという、によって新垣の顔は蜘蛛女のようだった。
あわてて矢口まみりと石川りかが新垣の身体中に巻いた縄をほどくと、うつろな瞳だった新垣の両眼はぱっと開いて、
チャーミー石川の背中に抱きついた。
「キャー」
石川は恐怖のために大声を上げた。新垣の手足の爪は伸びて石川りかのスリムな身体に食い込む。
ふりほどこうとすればするほど、新垣の鋭利な爪が石川の身体に食い込んで行った。
「まみりーーー。この気持悪いのをひっぺがして。ひぇ~~~~」
新垣はその言葉が理解出来るのか、ますます爪を立ててきた。
「離れないなり」
まみりが引き離そうとすると新垣の頭が百八十度回転して、薄気味悪くまみりににたにたとして不気味な笑いを投げかけ、
新垣の重さは二倍になった。
「重たくなってる~~~~」
白痴(差別用語)石川が悲鳴を上げる。
「そんなことより、石川、見るなり。狂ったハロハロ学園の生徒たちが迫ってくるぅぅぅ。
きっと新垣を奪還しようとしているなりぃぃぃぃぃ」
「やだぁ、まみりぃぃぃぃぃ。あいつらの目つきも異常だよ」
「とにかく、逃げるなり」
ゾンビのようになったハロハロ学園の生徒たちが墓場から生き返って追ってくるようだった。
しかし、石川が新垣を負ぶったまま走り始めると新垣の重さは軽くなった。石川に負ぶわれた新垣が行く方向を指さす。
「きっと、安全な場所を矢口くんたちに教えているなり。いちかばちか、その方へ行くなり」
まみりは校舎の中に駆け込んだ。三階の誰もいない教室からその様子を見ていた探偵高橋は
「新垣は蒸し焼きにならなかったみたいだね。まあ、いい、隠密怪獣王だけが仕留められれば、わたしの全米デビューは決まるからね。
ふはははははは」
探偵高橋愛は豪傑笑いをする。その隠密怪獣王は新垣を蒸し焼きにするために立てられたやぐらの横に立っていた。
やぐらの高さと同じ身長、隠密怪獣王の頭は地上五メートルにあった。
ゾンビのようになった生徒たちはまみりたちのあとを追って行ったのでその場にはいない。その前には不良グループたちが立っている。
「お前に恨みはないが、十五円のために死んでもらうよ」
飯田かおりはそう言うとしなびたきゅうりを空中に投げ上げた。すると昼日中に電光が走った。
数百枚の千切りにされたきゅうりが地上に降りてきた。人斬り紺野さんは秘宝剣をおさめた。そして紺野さんのまわりには北風が吹いた。
秘宝剣、南紀白浜丸を使うまでの相手ではあるまい。紺野さんはそう呟くと巨人、隠密怪獣王を見上げた。
 紺野さんは生まれたときから人斬り紺野さんと呼ばれたわけではない。紺野さんは江戸時代の人である。
備前藩剣道指南役、紺野紺紺の介の長女として生まれた。
紺紺の介には子供が一人しかいず、養子をとることも考えられたが、
紺野さんは生まれて三ヶ月にして道場の木刀を手にとると師範代を一撃のもとに撲殺した。
この子供は宮本武蔵以来の剣の使い手になると信じられていた。そして紺野さんの剣の精進は続いた。
しかし、時代は太平逸楽の道を歩んでいた。
備前藩で毎年行われている剣聖、今泉伊勢の守を鎮める儀式が行われなかったとき、紺野さんは怒りに身を震わせた。
「剣の道はますますすたれつつある」
紺野さんはこの儀式を取りやめた城代家老を切り捨てた。そして紺野さんは秘宝剣、紀伊白浜丸とともに国を捨てたのである。
そこで武者修行を続け、並み居る武芸者を斬り捨てて行った。紺野さんの敵となるものはいなかった。
しかし、紺野さんの心の中には北風が吹きすさんでいた。紺野さんの剣は殺人剣である。相手を殺して自分を生かす剣である。
また、紺野さんが武芸者を斬り捨てるたびに剣の世界を支えるものもまた一人いなくなるのであった。
「剣の道は廃れて久しい」
紺野さんは酒に頼るようになった。
しかし、死に神のように死を求める紺野さんの剣はますます妖気を帯び、殺人剣と化していったのである。
秘宝剣、紀伊白浜丸が敵の身体をかすると相手は倒れた。そこに毒が塗ってあるのではないかと噂が立った。
しかし、そこに何の手品もなく、紺野さんと秘宝剣は死に神、そのものとなったのである。
「また、ひとり武芸者が土と化す。
しかし、この秘宝剣を使うまでもあるまいに」
紺野さんの表情は今日も暗かった。紺野さんの神の域に達した剣のわざを使うまでの相手に出会うこともなかったからである。
紺野さんは気味悪く笑うと剣を一振りした。
するとつむじ風が起こって、あのやぐらと校庭の隅にある体育倉庫が斜めに切り落とされ、宙に舞った。
紺野さんは当然、あの隠密怪獣王も胴体を真っ二つにされているに違いないと思った。しかし、隠密怪獣王の姿はない。
血しぶきも飛ばない。どうしたのだ。剣聖紺野さんは振り返った。
すると隠密怪獣王は校舎の方に飛んで行き、校舎の正面を両足で蹴ると横飛びに剣を頭上に掲げ、紺野さんの方に飛んできた。
それも幅三十センチ、長さ五メートルもある、斬象剣という象を真っ二つに叩ききる剣でもってである。
 三角飛び
伝説の技である。人斬り紺野さんもこのわざを見るのは初めてであった。
紺野さんは秘宝剣を振動させると自分の周囲にバリヤーを張った。隠密怪獣王の剣がそのバリヤーに衝突して雷鳴が届いた。
その雷鳴に紺野さん自身も吹き飛ばされた。そして紺野さんは地面に倒され、頬には土がついていた。
しかし、紺野さんの表情にはほほえみが起こった。
紺野さんの顔に土が付くなどということは紺野さんが生まれてから初めてのことだった。
隠密怪獣王は斬象剣を回転させる。すると渦巻きのような真空の空間が紺野さんの方に飛んで行き紺野さんの髪は逆立った。
そのとき、紺野さんの周囲の土はバキューム作用によって宇宙まで運ばれた。
「ふふふふふふ」
紺野さんは笑っている。
「これからが本当の勝負だよ」
紺野さんの秘宝剣、紀伊白浜丸の握りをはずすとそこにはスコップが出てきた。
紺野さんの剣は見てくれではない、実戦剣である。剣の歴史の中でこの境地に達しているのは紺野さんしかいない。
紺野さんはスコップで地面に穴を掘り始めた。
「オヤピン、紺野さんが地面に穴を掘っていますぜ」
「紺野さんが本気になった」
飯田かおりが恐怖に顔をゆがめた。飯田かおりの背後には恐怖のために朦朧と妖気が立ち上った。
「地遁、水遁、火遁。紺野さんだけがこの三つのわざを自由に扱える」
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