電人少女まみり  第25回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第25回
まみりが新垣とゴジラ松井くんとの関係において煩悶しているあいだも飯田の執拗ないじめはやまなかった。
身長九十センチの新垣はあの不気味な机の両はじに指をかけ、飯田が箒の柄で頭をごりごりと押しても首の筋肉でその攻撃をよけたり、
箒の柄をやり過ごしたりした。
 新垣の目からは下等生物のくせに涙がにじんでいる。
そのときバンと机を叩く音が聞こえて
「やめろよ。きみたち」
と清冽な声がして、身長一メートル九十の野球のユニフォームを着た好青年が立ち上がった。
つかつかとゴジラ松井くんはそのいじめの現場の中心に分け入って行き、新垣のそばにその長身を折り曲げると耳をそばに近づけた。
すると新垣は超古代マヤ語をボソボソと言った。
ゴジラ松井くんは新垣の身体を両足の膝の裏を持って向こう向きに抱きかかえると三階の教室の窓際につれて行った。
新垣のパンツは丸見えだった。ゴジラ松井くんが新垣を抱きかかえているその格好は便所が見つからない親が小さな子供が
おしっこがしたいと言ったとき、道のはじっこのところでそうした格好でおしっこをさせるのと同じだった。
ゴジラ松井くんは校庭に面した窓際で新垣のパンツを脱がせると新垣は校庭に向けて放尿を始める、
そのおしっこは放物線を描いて、校庭の土の中に吸い込まれていく、
おしっこの途切れた新垣はゴジラ松井くんと顔を見合わせるとにやりとした。
ゴジラ松井くんもにやりとした。その一部始終を矢口まみりは見ていた。
「きみたち、いいかげんにしろよ」
三階の窓ガラスのふちに新垣を座らせながらゴジラ松井くんが言ったときだった。
新垣はバランスをくずして十メートル下の校庭に落下していった。
「あっ」
ゴジラ松井くんは叫んだ。振り向いたゴジラ松井くんのその腕にはエメラルド色の鱗が光り、
するすると伸びて行くと新垣をつかんでまた教室の中におろした。
しかし、教室の中にいた生徒たちには死角になっていたので何が起こったのかわからない。
落ちて行く新垣をゴジラ松井くんが救ったということしかわからなかった。
「きみたち、何をしているんだ」
ゴジラ松井くんに怒られた飯田はすっかりと悪びれた様子で言い訳をする。
「井川はるら先生から、頼まれたんだよ。新垣の机を悪魔コレクションに加えたいんだってよ」
飯田の目には明らかに恨みの感情がこもっている。それはゴジラ松井くんへの愛を拒否された恨みである。
しかし、その現象においてはもっと深刻な女の子もこの教室の中にいるのだが。
ゴジラ松井くんはまた新垣のそばに顔を近づけると同意を得たようだ。
「新垣くんはその机を持って行ってもいいと言っているよ」
ゴジラ松井くんは言った。
 「ねえ、ねえ、まみり。見た、見た。
ゴジラ松井くんもあんまりじゃない。まみりも飯田もゴジラ松井くんのことが好きだって知っているのかしら。
あの新垣に対する態度はなんなのよ」
ランチのいちご牛乳を飲みながらプアー石川が感情を押し殺している矢口まみりに話し掛けた。
するとバチンという音がして牛乳が吹き上がった。まみりがガラスの牛乳瓶を握りつぶした音である。
「石川、今夜、決行するなり」
「まみり、決行するって何をするつもりよ」
「石川、協力してくれるなりなりね」
「まみりがそう言うなら、そうするけど。でも、お金のかかることはだめよ」
「お金なんてかからないなり。低予算で出来るなり」
矢口まみりがあの発明一家の家に戻ると実験室でつんくパパは金色の大小いくつもの金属製の筒に囲まれて実験に励んでいた。
金属製の筒にはいくつもメーターがついていて筒の側面には手を差し込める穴が開いていて、
中にはまみりにはわからない機械がたくさん詰まっている。ときどき、筒の横に開いている管から蒸気らしいものが出てくる。
つんくパパの横では老猿のダンデスピーク矢口がバインダーに挟んだ紙に実験記録を書いている。
「つんくパパ、出かけてくるなり」
「まみり、今、何時だと思っているんだ。夜中の一時だよ」
「夜中だからいいなり。パパ、理科の宿題があるんだなり、やっておいて欲しいなり」
「まみり、宿題は自分でやりなさい」
「時間がないなり」
まみりはいつもパパは発明家のくせになぜまみりの理科の宿題が出来ないんだろうと思う。
しかし、夜が明けると宿題をやって置いてくれてはいるのだが。
「つんくパパ、水戸納豆は冷蔵庫の中にあったかなり」
「藁で包んであるやつやろう。まみり。あったがな」
「つんくパパ、それで安心したなり」
「まみり、今日の昼間、王警部が来たんや。あの警部には気をつけるんやで」
「なんでなり」
「警部はスーパーロボ矢口まみり二号に関心を持っているみたいや。あのロボを使って隠密怪獣王を捕まえるつもりや。
でも、まみり、あのロボはまみりのボディガード用にパパが作ったんだから、まみりとは関係ないと思わせるんやで」
玄関のチャイムが鳴って玄関の防犯カメラにミザリー石川の顔が映った。
「まみり、来たわよ」
まみりは冷蔵庫の中から水戸納豆を二個取り出すと玄関で待っているトワイライト石川のところに行った。
「まみり、こんな夜中にどこに行くの」
「丑密山へ行くなり」
「ええ、あんなところに行くの」
フアーガソン石川は驚愕の声を上げた。
「あそこには行ってはいけないという話じゃないの」
「石川が行かないなら、まみり、ひとりで行くなり」
矢口まみりはひとりすたすたと歩き出した。
「まみりが行くなら、わたしも行く」
丑密山の鬱蒼とした石段をあがりながら、がちゃがちゃと音を立てているまみりの持ち物に石川は気が気でない。
丑密山の中腹のあたりに来たとき、ハロハロ学園の校庭が眼下に見えた。
「まみり、提灯がゆらゆら揺れているわ。ハロハロ学園の中に誰かが尋ねて行っているんじゃない」
矢口まみりも足を停めた。
「まみり、あいつよ。探偵高橋よ」
「たしかに、探偵高橋なり」
小さく見えるが提灯の明かりに照らされた顔は確かに探偵高橋である。こんな夜中に探偵高橋はなぜハロハロ学園に行くのであろうか。
「そんなことは関係ないなり」
またまみりは丑密山の中を歩いて行った。そして誰もここには来ないという丑密山の頂上にある神社まで来た。
「ここには用はないなり」
青白い顔をしたまみりの顔はまるでおしろいを塗ったようである。
テラー石川がさかんにまみりに話し掛けるがまみりは答えず神社の裏の方にずんずん歩いて行く。
神社の裏には杉木立が控えている。その中の不気味なかたちをした二本の杉にまみりは目をつけた。
「ここでいいなり」
まみりは不気味ににやりと笑って背負っていた風呂敷包みを地面の下におろした。
ばらけた包みの中には木槌に五寸釘、それに水戸納豆がそれぞれふたつづつ入っている。
「まみり、まさか、ここで呪いの儀式を」
「そうなり」
「でも、なんでふたつも」
「石川、お前も協力するなり。ふたりでやれば呪いの力も二倍になるなり」
「誰を呪うのよ」
「新垣なり」
「まみり、協力するわ」
貧乏石川も新垣を憎んでいた。貧乏石川もゴジラ松井くんのことが好きだったのである。
それをあの教室でゴジラ松井くんと新垣のぶっとい、何本ものしっかりとつながれた絆を見てしまったのである。
ゴジラ松井くんへの思慕の念が新垣への憎悪や怨念に変わるのも当然だった。まみりは藁で包まれた二個の水戸納豆を取り出した。
それに藁きびで手と足と頭をつけた。そして半紙で新垣りさと書いた紙を付けた。
「石川、はじめるなり」
まみりはぎろりとした目で石川のほうを見た。テラー石川もまた片手に木槌、片手に水戸納豆を握っていた。
水戸納豆を杉の木に押しつけながら右手に持った五寸釘を新垣の水戸納豆に突き刺した。
「死ぬなり。新垣」
「死ね。新垣」
カーン、カーン、五寸釘を打ちつける音が森閑とした漆黒の闇の中に響く。
まみりが木槌を打つと藁の中の水戸納豆が一粒落ちた。たらりと糸を引いて。
「新垣の内蔵が出て来たわよ。まみり~~~~」
クレージー石川が手を叩いて喜ぶ。がんばり屋のまみりは鼻孔を広げて、鼻の穴から息を出した。
「こんなものでは気がすまないなり」
まみりはその呪いの水戸納豆の前の方へ行き、助走距離を取ると突然走り出した。
「ドロップキ~~~~~ク」
まみりの揃えた両足は空中を浮遊して新垣の藁人形に命中した。すると中の納豆が糸を引きながら空中に飛散した。
「まみり、やったわよ。新垣の内蔵が全部、出ちゃった」
石川はまたパチパチと手を打った。
がんばり屋のまみりはまた肩で息をしている。そのとき、杉の木の陰からにゅっと顔を出した男がいる。
「殺したいほど、憎んでいる人間がいるみたいじゃないか。なんなら、警察が協力してあげてもいいんだよ」
「人に見られていたら、呪いが効かないなり」
「法律に基づいて行動を起こせばいい」
「なんで、いつもついて来るなり」
「君はあの隠密怪獣王と戦ったロボットの正体を知っているんだろう。警察に協力して欲しい。
あの隠密怪獣王を倒せるのはあのロボットしかいない」
「矢口くんはなんの関係もないなり。あのロボットを誰が作ったかなんて知らないなり」
杉の大木の影から身を出したのは王沙汰春警部だった。
 しかし、まみりたちが呪いの儀式をやっているあいだハロハロ学園を尋ねたのはやはり探偵高橋愛だったのだろうか。
しかし事実はそのとおりである。探偵高橋愛は井川はるら先生の黒魔術の部屋を尋ねたのである。
あの気味悪い魔術の部屋をである。探偵高橋愛は入り口のドアの髑髏の呼び鈴を叩いた。
「お入りなさい」
ドアが静かに開くと水晶球を睨みながら井川はるら先生がこちらを向いた。
「あなたがここに来ることはわかっていたわ」
井川はるら先生が薄気味悪くにやりと笑った。
「先生、なんで、まみりばかり可愛がるんですか。先生、前から、わたしは先生のことが」
探偵高橋愛が井川はるら先生のところに行くとはるら先生は探偵高橋愛の顎のあたりを指で触れた。
「可愛い顎をしているわね」
「先生はこんなふうにしてまみりのことも」
はるら先生の手が飛んで、探偵高橋愛は床に倒れた。
「ふほほほほほほほ。見え透いた手はわたしには通じないわ。あなたが何を考えているかは、わたしにはわかっているのよ。
ほほほほほほほほ」
倒れたままの探偵高橋愛は井川はるら先生の顔をじっと見つめた。
「でも、あなたの相談に乗らないこともないわ。あなたが悪魔とこのわたしにすべてを捧げてくれるつもりならね」
探偵高橋愛はこくりと頭を下げる。
「あなたがわたしのことをどのくらい好きになってくれるか、少しづつあなたの願いを叶えてあげるわよ。おほほほほほほ」
そして井川はるら先生は立ち上がるとさっきから変な臭いのしている大釜の方へ歩いて行った。
「こっちにいらっしゃい。これがいもりと墓場の死体から生えてくる人面草をすりつぶした粉末よ。これを大釜の中に入れると」
はるら先生がその粉を大釜の中に入れると変な煙が立ち上がった。その煙のかたちは本当に奇妙だった。
「ふふふふ、わかったわ。すべての鍵は新垣にあるわ。新垣を殺すような危険な目に会わすとき、隠密怪獣王は現れるはずよ。
そのとき、隠密怪獣王を殺すのよ。ただし、隠密怪獣王はいくつかの姿をしているということを忘れないでね。
あるときは高校三年生の姿を、そして、あるときは野球選手の姿を、そしてあるときはエメラルド色をしたイグアナの姿をしているのよ」
この不思議に目を見開いている探偵高橋愛の額に井川先生はそっとキッスをした。
「今日は額にキスをしただけで許してあげるわ」
数時間後、探偵高橋愛の姿は高級ホテルのスウィートルームの中にあった。それもダブルベッドの中にである。
この探偵高橋愛という女、ハロハロ学園の不良グループの中に入っていない、真面目グループの中の一員だと見られているが、
この女こそ不良の中の不良だったのだ。それも仕方がないというべきか、複雑な家庭環境を持った女の子だったからだ。
ふたりの両親は実の親ではなかった。そのことについて詳しく書いているわけにはいかないのだが。
 ダブルベットの中で隣の男がコニャックの入っているグラスを口に運んだ。
「隠密怪獣王は三つの形態を持っているというのデスカア。高校三年生と野球選手の姿とエメラルド色をしたイグアナの姿と」
「あの魔法使いの女はそう言っていたわ。あなたが見たのはどんな形態」
「イグアナの形をしているときデスタ」
「そう」
探偵高橋愛は隣の男の胸毛に指をからんだ。
「それから」
「それからね。まだ、知っていることはたくさん、あるけど教えてあげない、なんて、言うのよ。あの女は意地悪をして」
「まあ、いいデス。隠密怪獣王は始末しマスデス。エフビーアイの名において」
「それから、隠密怪獣王はうちのクラスに新垣という名前の女がいるんだけど。
その女の命の危険がせまったとき、現れると言っていたわ」
「ニイガキ。あの超古代マヤ人デスカ。そう言えば、南米の奥地で超古代マヤ人が生き返ったといニュースを聞きマシタ」
「でも、ふたつ問題があるじゃないの。
ミスター新庄芋。新垣が命の危険に当たっているという状況を作ってそれがハロハロ学園中に伝わるという手はずをどうやって、整えるの」
「ミーの目を見てください」
エフビーアイ捜査官、日系二世、新庄芋は探偵高橋愛の目をじっと見つめようとした。
「きゃー。やめてよ。あはははは。あなたの催眠術にはかからないわよ」
探偵高橋愛はシーツをはねのけてベッドから出ようとした。高橋愛の胸の突起がちらりと見えた。
「アハハハハ。あなたには催眠術をカケマセン」
「集団催眠術を使うのね」
「ソウデス。でも、隠密怪獣王をどうやって倒すノデス。隠密怪獣王は大変に強い奴デス」
「ミスター新庄芋。ハロハロ学園にも神竜真剣というティラノザウルスをも倒すことの出来る剣の使い手がいるわ。
それに秘宝剣、南紀白浜丸を持っている。たとえ、隠密怪獣王だと言ってもあの女の剣の前では敵ではない」
「ダレデス」
「人斬り紺野さんよ」
「これで隠密怪獣王の脅威から人類は救われマス」
「ミスター新庄芋、わたしの願いも聞いてくださるわね」
「アレデスカ」
「全米デビューよ。わたしはもう、高橋愛ではないのよ。ブリトニー高橋愛と呼んでちょうだい」
「でも、何で全米デビユーにこだわるのデスカ。タカハシアイは」
「あなたなんかに、わたしの惨めな子供時代なんか、わからないわよ。わたしの両親は実の両親ではないのよ。
モーニング娘なんて単なる踏み台よ。合宿でわたしがどんなにいじめられたか、あなたにはわからないのよ」
次の日、探偵高橋愛は不良グループたちとコンタクトを取っていた。
「それで、いくらくれるんだい。新垣の処刑をもっとも派手にやったら」
「三十五円よ」
その金額を聞いて辻は涙を流して喜んだ。
「そして怪獣が現れるはずよ。その怪獣を殺したら、さらに十五円、上乗せよ」
「本当に五十円、くれるんだろうな」
教室の隅で紺野さんがしゃがんで薫製になったニューギニアのミイラをしゃぶっている。気味が悪かった。
新垣は自分が殺されることも知らずに机の上でチョロ急を走らせている。
「まみり、探偵高橋愛が不良グループと話しているわよ。探偵高橋愛は不良グループの仲間になったのかしら」
「石川、そんなことは関係ないなり。ほら、加護がこっちの方を睨んだなり、目を会わせないようにした方がいいなり」
矢口まみりも石川りかもこの札付きたちが新垣、殺害計画を立てていようとは想像もつかなかった。
 「まみり、学校へ行こう」
貧乏石川がまみりの家に呼びに来た。
「まみり、お友達が呼びに来たよ」
「お弁当を詰めているなり。待ってもらうなり」
「まみり、早くしなさい。お友達を待たせてどうするんや」
「つんくパパ、ししゃもがうまく弁当箱の中に入らないなり」
「そんなの簡単やろう。ふたつに折り曲げればいのやろう」
「待たせたなり。石川」