電人少女まみり  第20回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第20回
 井川はるら先生は薄気味悪い目をして土饅頭のようなものを両手に取ってなでながらまみりの方をいやらしい目をして話しかけた。
目の中に床屋のくるくるまわるあの誰でもが知っている看板が入っているような気がする。
「沖縄ではシーサーという屋根の上に載っている守神があるわ。本州では狛犬というものがある。
それはみなその家を災厄から守る守神だと思っている人が多いわ。でも、本当は違うの。
家を建てた人は自分の敷地の境界に境界石を埋める。あれはその境界石なのよ。つまりここが自分の家の中だと示している。
つまり自分の陣地ということね。そもそもそれらは黒魔術から起こったものなのよ」
「きゃー」
井川先生から無視されているチャーミー石川が叫び声をあげ、
そのそばでは探偵高橋愛が机の上に置かれたビニール袋の中に入った採取した鱗をじっと見つめている。
「あなたたち、わたしがまみりちゃんと話しているのに、どうしたの」
井川はるら先生も悲鳴を上げた石川の方にやってきた。古びた実験机の上に置いてある採取した鱗がエメラルド色に輝いている。
接している木の机の表面もエメラルド色に染まっている。
「先生、鱗が光っています」
探偵高橋愛が冷静に言うと、井川はるら先生は棚の上に置いてある薬瓶を指さした。
「月の光の粒の集まりが原因じゃないの。その鱗は月の光を浴びているから光っているのよ。
あの瓶の中の月の光がガラス瓶の中からガラスを突き破って鱗に当たっているんだわよ」
井川はるら先生はなにごともないように棚の上に置いてあるその薬瓶に白山羊の皮を被せるとその鱗も光を失った。
「月の光の粒ってなんですの」
探偵高橋愛が当然の疑問を口に出した。
「月の光の粒と言ったら月の光の粒よ。海の中にいる生き物は月の光を浴びるときらきらと輝くでしょう。それで光ったのよ。きっと」
「じゃあ、あの鱗というのも海の中に住む生き物のものなんですか」
「そんなことはわからないわ。わたしはまみりちゃんと話しているんですからね」
井川はるか先生はまみりの前にやって来てまた座った。
「あのふたりがうるさいから話を中断してごめんなさいね。さっきまでなんの話をしていたかしら」
「境界石のはなしなり」
「まみりちゃん、そうね。守り神の話ね。あの内庭の中は守り神に守られているのよ。こんな話をしてもよくわからないでしょうが。
みんな人にはそれぞれの守り神がついているの。もし、まみりちゃんが休みの日にどこかに遊びに行くとする。
まみりちゃんが自分の自由意思で道を歩いていたとしてもそれはまみりちゃんの守神が見ている道を歩いているだけなの。
そしてその守神はまみりちゃんの陣地の境界の塀の上あたりでいつもまみりちゃんを見つめているのよ。よその家の塀を御覧なさい。
霊感のある人ならその塀の上にその家の守神が腰掛けているのがわかるから。そしてにやにやしたり、
怒ったり、守神が表情を動かすのがわかるから。そしてあの内庭の中はある守神が見つめているのよ。
この学校の職員があの内庭の中に入ることが出来ないといのは守神があの内庭の塀の上で見張っているからなのよ。
それもただの守神ではない。白魔術の庇護を受けた守神なのよ。
だから黒魔術の使い手のわたしにもあの結界の中に入って行くことは出来ない。白魔術と黒魔術は敵対関係にあるからね。
そこでは術の力の闘いとなる。その白魔術は私の黒魔術よりも力が強い。わたしの黒魔術を使ってもその結界を破ることは出来ない。
しかし、白魔術の力を逆に使うことは出来る。さっきまみりちゃんが自由に行動出来るわけではなく、
いつも守り神が守っている境界の中で行動していると言ったけど、この世界にはそれぞれの守り神が歩く道が
わたしたちの目には見えないけどあるのよ。そしてこの土饅頭のような人形もその守神が姿を変えた姿なの。
そしてこの守神でもある土人形はその境界線の上を自由に動けるのよ。黒魔術を勉強しているわたしには
空中にあるその境界線がはっきりと見えるのよ」
「信じられませんわ」
「信じられないわ」
人の話にすぐ不和雷同する石川りかが探偵高橋愛に同意して言った。
ふたりもまみりのそばに来て井川はるら先生の話に耳を傾けていたが、石川りかの侮蔑したようなせりふを聞くと井川はるら先生は
目尻を青くして怒りを表した。
「このあまっこめが」
井川はるら先生は怒鳴り声をあげたがすぐ自分の姿に気づいてもとの表情に戻った。
「いつもなら、黒魔術の力を借りてふたりとも身体をばらばらに引き裂くところよ。
でもまみりちゃんの悲しむ顔を見たくないからそんなことをしないの」
怒りの表情をまだ浮かべている井川はるら先生は立ち上がると蛙や鶏の骨格標本の
たくさんのっている机のところに行くと引き出しを開け、その引き出しの中から何かを持って来た。
まみりはそれがちょっと高級な紅茶の木製の箱だと思っていたが石川りか達の前に置かれたものは違うものだった。
おもむろにその木製の箱のふたをとったはるら先生は枯れた木の葉色のものを取り出した。
「一本いただくわ。火をつけてちょうだい」
井川先生がかたち良い指にその挟んだものを探偵高橋愛の前に差し出すと机の上にぱっと小さな炎が上がり、
探偵高橋愛の机の前には銀色のライターがあらわれた。
「火を点けてちょうだい」
アンニュイな雰囲気を漂わせて井川はるら先生が葉巻をさしだした。
石川りかは目をぱちくりさせて何が起こったのかわからない様子だった。
「これが黒魔術の力よ」
そしてはるら先生は探偵高橋愛がつけたライターの火にハバナ産の葉巻を差し出した。
「別にわたしが葉巻を吸いたいということじゃないのよ」
はるら先生は火のついた葉巻を土饅頭のほうに近づいた。するとどういうことだろう。土饅頭が動き始めたのだ。
はるら先生がさらに葉巻を近づけると不思議なことに土饅頭は空中に浮遊している。
「この土饅頭が空中に浮いていると思う、違うのよ、まみりちゃん。この土饅頭は葉巻の臭いが嫌いなの。
そしてこの部屋の中にある境界の上の道を歩いて逃げているの。あなたたちにはその塀が見えないかも知れないけど
わたしには確かに見えるのよ」
はるら先生は薄気味悪くにたにたと笑った。
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