電人少女まみり  第19回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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第19回
「まみり、入りなさいよ」
「石川、言われなくても入るなり」
ドアを開けて中に入ると右手の方に大きな先生の机がある。机の横にはホーローの流しがついていて最近まで使っていたようだった。
「まみり、見て見て」
「矢口さん、見てください」
石川りかと探偵高橋愛が指さす方を見ると解剖皿が底の方に投げ出されている。解剖皿の木の底には血がついている。
そしてばらばらになった生の鰺が血走った目でこちらを向いているのだ。
教室のはじのところには人体解剖図が置いてあり、ほこりを被っているくせに目だけは生きているようにこちらを向いている。
戸棚のところには小さくなったミイラも置いてある。
「まみり、こっちの方に生物教職員室と書いてあるわよ。ここにいるんじゃないの」
石川りかが教室の横にあるドアを指さした。三人はそろそろとそのドアの前に行った。まみりがドアをノックした。
「井川先生、矢口まみりなり。用があるなり。石川りかも探偵高橋愛も一緒なり。入っていいかなり」
「どうぞ」
生物職員室のドアの向こうから井川はるら先生のすゞやかな、その一方では無気味な声が聞こえる。
「入るなり」
まみりは他のふたりの顔を見た。扉の開くときの蝶番の音がしてドアが開いた。
まみりにとって気になっていることはその蝶番が人間の関節のように見えたことだった。
「何であるか、この部屋は」
まみりを最初に驚かせたものは入った部屋の正面に山羊の胴体から切り離された首がぶら下がっていて
その下に理解出来ない魔法陣が描かれていたことである。まみりは最初、中世の錬金術師の部屋に入ったような錯覚を起こした。
「石川、探偵高橋」
矢口まみりは一瞬ふたりを見失った。
「まみり、こっちなり」
「矢口さん、こっちよ」
「コーヒーもいれてありますわ」
まみりが横の方を向くとドライアイスの煙が出ているようなフラスコの机の前でコーヒーカップを前にしながら
石川や探偵高橋愛や井川はるら先生が座っていた。コーヒーカップは四つ並んでいる。
「やっと来てくれたのね」
井川はるら先生は手招きをしている。ちらりと笑った井川先生の犬歯がきらりと光った。まみりもそのテーブルに座った。
「先生、これ、おかしいなり。石川の方がばつで矢口さんの方にもばつがついている。矢口の方の答えがあっているなり」
「どお」
井川先生は矢口まみりの隣に座ってまみりの答案用紙を見た。
「どうやら、わたしが間違っていたようね」
井川先生はまみりの答案用紙のゼロの上にばってんを引くと五と書き直し、えんま帳を出してその点数を記入した。
「井川先生、随分と変わった職員室ですね。あの山羊の首は模型ですか」
「あれは本物よ。首の切り口から血がしたたっているでしょう」
「きゃあー」
石川りかが黄色い叫びをあげる。
「石川さん、そんなことぐらいで驚くにはあたらないわ。呪いをかけるためにはどうしてもあの生首が必要なの。
この部屋の中にはそれだけじゃないわ。もっといろいろなものがあるの。あそこの瓶に入っているのが、ノストラダムスの抜けた歯よ」
「先生は本当にハロハロ学園の生物の教師なんですか」
探偵高橋愛も矢口まみりと同じような疑問を持っているらしい。
「ここの生物教師というのは仮の姿よ。わたしはここで悪魔を呼び出す方法を研究しているの」
「でも、ハロハロ学園に採用されたなりね。理事長とも会ったことがあるなりね」
「先生、わたしたち疑問を持っているんです。生徒たちが入ってはいけないと禁じられている中庭がありますわよね。
あの中庭には何があるんですか。先生は知っていますか」
「あなたたち、あの中庭の中に入ったんじゃないわよね」
「イエス」
石川りかがただ一つ知っている英語で答えた。
「そう、良かったわ。あの中庭に入った人間は誰もいないのよ。教師でさえ、あの中庭に何があるのか知らない」
「実は」
矢口まみりは探偵高橋愛が墓場からあの塀が破れているのを発見したことなどを井川はるら先生に話した。
「井川先生、これが何であるかわかるかなり」
まみりはあの金のペンダントを取り出した。
「先生、ここに変な文字らしいものが書かれていますわよね。わたしたち三人はこれが新垣に関係していると睨んでいるんですが」
「ふほほほほほ。新垣が。すると中庭の件にも新垣がからんでいるとの見解ね。ふほほほほ。
でも、この文字は以前、どこかで見たことがあるような気がする」
「そうでしょうなり。新垣が自分の机の上にこんな文字を彫っていたような気がするなり」
「先生、それからこれなんですけど」
探偵高橋愛が例のビニール袋を取り出した。今度は前よりも井川はるら先生の目が爛々と輝いた。
探偵高橋愛からそのビニール袋をひつたくるように受け取ると自分の顔に近づけてまじまじと見つめた。
「魚の鱗のように見えるんですが」
「ちょっと、待って、あの魔法顕微鏡で見て見ましょう」
井川はるら先生がそう言って机を離れてはじの方へ行ったので三人もそのあとをついて行った。
井川はるら先生がピントを調整する。しかし、それは単なる光学顕微鏡だった。
ピントを調整し終わった井川はるら先生は顕微鏡の接眼部から目を離した。
「見て御覧なさい。まず、まみりちゃんから」
まみりはその顕微鏡のレンズをのぞき込んだ。雲母のようにきらきらとしている。
像を見やすくするために偏光装置を使って色がついているらしい。
「まみりちゃん、このしましまが見える。一年ごとにこのしまが一本づつ増えていくのよ。
だから、このしまから数えてこの魚の年齢は二十代半ばというところね。このうろこがさかなのものだとしての話よ」
「もし、魚の鱗だとしたらどんな魚なんですかなり」
「これは極めてむずかしい問題ね。今までこんな魚の鱗を見たことはないわ」
「先生、鱗のある動物はほかにもいるんじゃないですか。アルマジロとか、センザンコウとか」
「うるさいわね。石川、どこでも見たことがないような鱗だと言っているでしょう」
「先生、本当にあの中庭のことを知らないんですか」
探偵高橋愛が疑問だという声を出した。
「噂があることはあるわ。あそこに、錦鯉がたくさん買われているという噂が。それで理事長が一儲けしようというね。
くだらない人間の考えることだわよ。悪魔の力に較べれば。でも、生徒でも教師でもあの中庭に立ち入ったものは即、退学となるのよ。
ふほほほ」
矢口まみりは何かを決心しているようだった。
「もし、それが錦鯉どろぼうだとすればまた、あの中庭に舞い戻ってくることはないかなり。
泥棒は一度入ったところにはまた舞い戻ってくるというなり」
「まみりちゃん、その方法はないことはないわ」
井川はるら先生は気味悪くにやりと笑うと部屋の隅に置かれた妖気ただよう土饅頭のようなものを見つめた。
「沖縄の守神を知っている」
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