電人少女まみり  第17回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第17回

二階の自分の部屋に上がったまみりは自分の椅子に腰掛けながらハンドルのついた鉛筆削りをくるくると回す。
この前、日光に行ったときみやげに買ってきた三角の金の刺繍をしたペナントが目の前に見える。
本棚の上にはスピッツの白いふわふわしたぬいぐるみがこちらを向いている。
「まみり、ご飯が出来たよ」
階下からつんくパパの声が届いた。
「いい、食べたくないの」
まみりは誰にも会いたくなかった。
「まみりは、みじめな子になってしまったんだわ。だって失恋しちゃったんだもの。
松井くんはわたしのことをやっぱり嫌っているのかしらなり」
今度は手鏡を取って自分の姿を映してみた。自分でも最近、女らしくなってきたと思う。前より胸の膨らみも出てきた。
「なんで、こんな美人をふっちゃうのかしらゴジラ松井くんは」
するとまた下の方からつんくパパの声が聞こえる。
「まみり、まみりが頼んでいたケータリングのピザが届いたんだよ。今、そっちの方にダンデスピークが運ぶから」
ピザと飲み物を持ってダンデスピーク矢口が上がってきた。
「おう、ご苦労なり」
矢口まみりはダンデスピーク矢口からピザを受け取った。そして一切れとるとダンデスピーク矢口に手渡す。
白い毛むくじゃらの手でその動物は受け取るとむしゃむしゃと食べた。
 ダンデスピーク矢口は白い猿である。学術名はわからない。チンパンジーにもオラウンターにも天狗猿にも見える。
しかし、確かなのは百才以上の年齢であるということだ。まみりが生まれたときにはすでにこの家にいた。
そしてつんくパパが子供のときにもこの家にいたそうだ。
「ダンデスピーク、松井くんの気持をまみりのものにすることは出来ないかなり」
まみりがそう言うとダンデスピークはもう一切れ、ピザに手を伸ばしてむしゃむしゃと食べた。
 翌日、ハロハロ学園に登校した矢口まみりは探偵とあだ名されている高橋愛が石川りかと一緒に図書館の書庫の前で
立っているのを見かけた。ふたりはカストリ雑誌の変遷という大きな本を広げて見ていた。
「まみり、探していたのよ」
まみりの姿を見てふたりは同時にまみりの方を見上げた。
「ふたりともこんなところで何をやっているかなり」
石川りかがただ開いていただけの本を閉じると棚にしまってまみりの方に手招きをした。まみりはその方に行く。
書棚と書棚のあいだに挟まれている空間に三人は入った。
「まみり、探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたのよ。これからそこに行かない」
「面白いものって何なり。そこに行ったら飯田たちが待ち伏せをしているなんていうのはいやなり」
「矢口さん、そうではありませんわ」
「そうではないって、どういうことなりよ」
矢口まみりが大きな声を上げたのでそこにいた上級生がしっと大きな声を立てないように叱責した。
「ここではまずいですわ。とにかく図書室を出ましょう」
まみりは探偵高橋愛に促されて図書室の外に出た。図書室もまるで北海道の農学校を思わせるような立派な建物だったが、
ハロハロ学園は建物だけは立派だった。図書室の外には歩道に趣のある石が一面に張られている。
「内庭の外のところよ」
探偵高橋がまみりに言った。
「まみり、内庭の外がおかしいんですって」
石川りかも興味津々である。
 この学園の創立者が変わった内庭を作っていた。矢口まみりはそこに行ったことはない。
ハロハロ学園のすべての生徒もそこに行ったことはない。
創立者がどういう意図で建てたのかわからないが、私立の学校にはよくそういう施設があるようである。
何かの歴史的意味があるのかも知れない。その内庭は赤レンガの壁で囲まれていて、その外側はさらに学園全体を取り囲んでいる
赤レンガの壁で囲まれている。その二つの壁の間は数メートル離れている。
「みんなは駅を出て、学園の南門から登校していますわよね。わたしは北から南門の方にまわって登校していますの」
「へぇ、あんな方から探偵高橋愛は登校しているの。うちの学園でそんなコースから登校しているなんて探偵高橋愛ひとりだわよ」
矢口まみりもうなずいた。そのとおりである。ハロハロ学園の北側は深い川が流れていて断崖絶壁になっている。
川の側壁が石垣になっていてその上に赤レンガの壁が続いている。
深い川で断絶した向こうには墓場が広がっていてその方向から歩いて行くには墓場の中を歩いて行かなければならない。
そんな物好きは探偵高橋愛しかいない。
「いつも、墓場の中を歩いてハロハロ学園にやって来ているのかなり。まるで墓場の鬼太郎みたいなり」
「みなさんには墓場の中を歩いて行くとき向こうに見えるハロハロ学園の靄にかすんだ爽快な姿を見る快感がわかりませんのよね」
「そんなもの、わからないなり」
「まみり、押さえて、押さえて。これから探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたというんだから」
「何を見つけたなり」
「ハロハロ学園の外周になっている赤レンガの壁の一部がくさび型に壊れているのを見つけたんです」
「なんだ、そんなことなりか」
「まみり、それはあなたの過小評価というものよ。うちの学校は備品の破損なんかには相当厳しいじゃない。
壁を壊されて黙っているなんておかしいわよ」
「そういうものなりか」
「そういうものなりよ」
「そこで現場に行ってみないか、チャーミーさんを誘ってみたのです。そうしたら、
矢口さんも一緒につれて行くとチャーミーさんが言うんですの」
「探偵高橋さんの言うところによると学園長が生徒たちを近づけない内庭があるわよね。
ちょうどその内庭の外側の壁に当たっているらしいのよ」
「内庭って何があるなりか」
「それは今、探偵高橋愛が調査中よ」
「内庭の中に入るのはむずかしいかも知れませんが内庭と外壁の間のところに行くのはむずかしくありませんわ」
三人は大きな竈のような焼却炉のある方に向かった。焼却炉は今さっきまで何かを燃やしていたらしく変な臭いがした。
そこを通るとハロハロ学園の北側に行く。ハロハロ学園の敷地を半分にわけている赤レンガの壁にぶつかった。
しかしそれは五メートルぐらいの石垣になっていてその上に赤レンガの壁が載っているのだ。
その石垣の北のはじには階段がついていて上に上がれるようになっている。
階段の下に行くと錆びた鉄条網で入り口は封鎖されていて、生徒は入るべからずと立て札が立っている。
しかし、鉄条網は錆びて壊れていた。
「わたしは入っていくつもりですわ。お二人はどう」
「わたしはもちろん、入って行くわよ。まみりも行くわよね」
「高橋の物好きに矢口もつき合うなり」
入り口は壊れていて階段を上がっていけるようになっていた。人が一人上がって行けるような狭い幅の石の階段だった。
しかし、高さは五メートルぐらいある。階段の上のところの門は壊れていない。
しかし、簡単に乗り越えられる程度の高さだった。探偵高橋愛が、それから石川りかが最後に矢口まみりがその鉄の門を飛び越えた。
その中庭の壁と外壁のあいだには特別なものはない、下にはコークスの殻が一面にしかれ。くぬぎや楢の雑木が生えている。中庭を囲んでいる壁は三メートルほどの高さがある。外壁の方はまみりの通学路と同じように二メートルぐらいの高さしかない。
「あっ、あれを見て」
何もないと思っていたその場所の異常を石川りかがみつけた。それはまみりの視野の中にも入っていた。
「あれですわ。墓場を歩いているときに見たのは」
外壁の一部が確かにくさび型に壊れている。崩れた赤レンガの側面が見える。三人はその現場のそばに行った。
探偵高橋愛は現場検証を始めた。まみりも石川もそのあたりを見てみる。
まみりはその壁の崩れたところに行くと向こうの方に探偵高橋愛がいつも通っているという墓場が見える。
さらに近づくと絶壁になっている川底が見える。川にはとうとうと水が流れている。
矢口まみりは壊れた壁の隙間から首を出して川底を見るとくらくらとした。
探偵高橋愛は赤レンガの壁の崩れた壁の側面をじっと見ている。
「おかしいと思いませんか」
「なにが、なにが」
石川りかが首を伸ばして探偵高橋愛のそばに顔を持って行った。
「この断面を見てください。まだ新しい。そして毎日わたしがこの壁を見ながら見ているのに壊れていなかった。
少なくとも一昨日までは私はこの壁があるのを知っていた。
そして今日の朝、墓場から見たとき、ここがくさび型に壊れているのを発見したわけです。
ということはこの壊れた赤レンガの破片が見つからないということはおかしい。つまりこれがどういうことだかわかりますか。
チャーミーさん」
「わからないわ」
「これを壊した何かが壊れた赤レンガを全部持ち帰ったという可能性があります。
そしてもうひとつ、この内側から外に向かって何かが突進して行ったということも」
探偵高橋愛は絶壁の下に広がる川の流れを見ながら深々とため息をついた。
「壊れた赤レンガの破片は川に落ちて行ったということも考えられます」
「なるほど」
石川りかが感心してつぶやいた。
「何がなるほどなり、そんなことは少し考えればわかるなり。チャーミーの単細胞」
矢口まみりはあほくさくなってあたりをぶらぶらするとならの木の根本のところに
ソフトボールぐらいの大きさのきらりと光るものを見つけた。
まみりがそばに行って拾い上げてみると大きな金で出来たペンダントだった。
しかしついている鎖はちぎれている。そしてペンダントの表面には何か彫ってある。
それに気づいたふたりが矢口まみりの方にやって来た。
「まみり、何を見つけたの」
「これ」
まみりは石川にちらりと見せた。
「まあ、金じゃないの」
「真鍮かもしれないなり」
「ちょうだい、ちょうだい。一生のお願い」
「ふん、どうせ、お前は質屋に売るつもりなり」
「へへへ、ばれたか」
「ちょっと見せてくださる」
横から探偵高橋愛が首を突っ込んだ。
「何か彫ってありますわよね」
「本当、まみり」
しかし、三人ともその文字らしいものがなんであるかはわからなかった。