電人少女まみり  第15回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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第15回


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 ゴジラ松井くんは日課にしているランニングをしているときにゲームセンターの前で人がきが出来ているから立ち止まったのに過ぎない。しかし、ゴジラ松井くんの身長は他の人たちよりも大きい。当然、頭ふたつ分ぐらい抜き出ている。ゲームセンターの中の様子もなんとなく見える。最初、ゴジラ松井くんはその中で人質立てこもり事件でも起こったのかと思って見ていたがどうも違うようである。ちらりと見える中にハロハロ学園の同級生に似た女の姿が見えるような気がする、でも、まさか、そんなこともあるまいと思いながらも、中の様子に興味があってその場を立ち去れないでいた。群衆の中にまぎれてゲームセンターの中での事件を遠巻きにして見ていた。
 紺野さんが長ドスを抜いた時点で死人が出る運命だった。人斬り紺野さんを止められる人間などこの世の中にはいない。
紺野さんは血を求める殺人鬼だったからである。紺野さんの持っている刀も悪魔の魂を宿しているのだった。
しかし、紺野さんの持っているのは白鞘を払った日本刀である。しかしヤクザは軍用拳銃を持っている。
その軍用拳銃を使えば相手の頭を吹っ飛ばすことが出来る。いくら紺野さんが人斬りの権化そのものだとしても
ヤクザの持っている軍用拳銃には太刀打ち出来ないはずである。
「へへへへ、お前がいくら剣の達人だとしても飛んでくる弾をよけることは出来ないだろう」
ヤクザが毒づいているのにもかかわらず紺野さんは死に神がとりついているようにへらへらと笑っている。
仲間たちも紺野さんを気味悪がって遠巻きに見ている。
女王様同士の目があった。藤本と飯田かおりである。
「おやめ」
藤本の叱責する声が聞こえた。
「姉さん」
ボディガードが藤本のほうを訳がわからないという表情をして見た。
「相打ちになるよ」
「姉さん、こっちは拳銃を持っているんですぜ。あの妖怪は長ドスだけだ」
「馬鹿いうんじゃないよ」
藤本がしなる腕でヤクザの横つらをはたいた。びしゃりと音だけでも痛そうな音があたりに響いた。
「剣道三倍段という言葉を知っているかい」
藤本が暴力団の女親分らしい威厳を見せて両腕を組みながら語った。
「空手の有段者が剣道の有段者と戦うとき、相手は剣を持っているので三倍の段位を持っていなければ太刀打ち出来ないという言葉なのさ。ふっ、つまり剣道初段の相手を空手家が戦うとき、三段の実力がなければならないということなのさ。あたいはこれを一世を風靡したスポ根漫画、空手バカ一代で知ったのさ。(漫画の読み過ぎ)そして拳銃千倍段という言葉がある。これは剣を持った剣士が拳銃を持った相手と戦うときは千倍の段位がなければいけないということなのだよ。そしてお前が拳銃一段ということをあたいは知っているんだよ。ふっ、そして人斬り紺野さんの剣は剣道千段なのさ。これがどういうことかわかるかい。お前が拳銃の引き金を引くと同時に紺野さんの長ドスはお前の首を切り落としているんだよ。そして人斬り紺野さんの心臓にも弾丸がぶち込まれる。ふっ」
「しかし」
「あねご、しかし、なんですかい」
「もし、剣道千一段の人間がいたらどうなると思う。ふっ」
藤本はゲームセンターの外のやじうまの方を指さした。そして、じっと見つめた。
その方向には誰であろうゴジラ松井くんが立っていたのである。ゴシラ松井くんは騒動の当事者が自分の方を指さしたので
何がなんだかわからなかったが、どうやら自分のことを言っているらしいので自分で自分の胸のあたりを指さした。
そして中にいる連中を見回すとどうやらハロハロ学園の不良たちだということがわかった。
「でも、どうして、あの不良たちがあの中にいるのだ」
ゴジラ松井くんが疑問を感じているとゴジラ松井くんの立っている横からにょきにょきと土筆が生えて来たみたいで、
松井くんの肩のあたりまで頭が伸びてくると声をかけて来た。
「ゴジラ松井くん」
「きみは」
「中で大変なことになっているの」
「石川くん」
チャーミー石川はいつの間にか矢口まみりの入っていた倉庫から抜け出していてゴジラ松井くんの横に立っていて
今度はやじうまになってゲームセンターの中をのぞいている。
「ハロハロ学園の不良たちと****組の女親分とけんかをしているのよ」
「なんだ、そんなことか」
「でも、中にはまみりもいるのよ」
「矢口まみりが」
ゴジラ松井くんは下唇をかんだ。
「石川、大変なことになってきたわ。石川、どこにいるなり。石川」
ぬいぐるみのつまっている倉庫の中でまみりはあたりを見回した。
「石川、どこに行ったなり、こんな騒動を起こしておいて」
藤本と飯田かおりの間にはサンドバッグにくくいつけられた飯田人形がとうもろこし畑のかかしのように無表情で両方の顔を見ている。
「そもそも、この人形をここにくくりつけた女たちがいた」
藤本はそう言うと急に体勢を変えてくるりと後ろ向きになると倉庫のドアをばっと開けた。
そして女とは思えない怪力を見せると矢口まみりの金髪を鷲掴みにすると倉庫から引きずり出した。
「こいつがやったのさ。ふっ」
まみりは対峙している飯田かおりと藤本みきのあいだに投げ出された。まみりはわけのわからない女として両方の顔を見つめた。
「松井くん、大変、まみりが不良とヤクザの両方からのされちゃう」
石川はゴジラ松井くんの太い片腕にしがみついた。松井くんは無言でその様子を見ている。そこへまた辻が進み出てきた。
「矢口、いい格好だな」
そしてまた矢口の金髪を怪力でつかんだ。
「今日は女王様がふたりいるよ。えへへへへ。まず、礼儀として藤本みき様の足をなめるんだよ」
怪力の辻はまみりの頭を押さえつけると藤本のハイヒールに押しつけた。
「ひど~~~い」
石川りかがその様子を見て悲鳴を上げる。そしてゴジラ松井くんの片腕にむしゃぶりつてた。
「助けてあげて、助けてあげて、まみりを助けてあげられるのはゴジラ松井くんしかいないわ」
しかし何を考えているのだろう。ゴジラ松井くんは。藤本がさっき、まみりを助けることが出来るのはゴジラ松井くん、
ただひとりだと言ったではないか。
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 辻の怪力にあがなえるまみりではなかった。辻のコッペパンのような片手で床の上におしつけられている。
「いい格好じゃないか。まみり、えへへへへ」
飯田かおりはへらへらと笑いながら自分のセーラー服の内ポケットから十五センチのセルロイド製の線引きを取り出すと
矢口まみりの前にうんこ座りをしてしゃがんだ。そしてそのしなる定規でまみりの額をピタピタと叩いた。
「うっ、うっ」
まみりは低くうめいた。
やじうまの一群としてその様子を見ている石川りかはまた、悲鳴をあげた。
「まみりが、まみりが、飯田とヤクザの女からリンチを受けている~~~~」
そしてゴジラ松井くんの顔を見上げる。しかし、依然としてゴジラ松井くんは無表情である。飯田はまたまみりの額を
ピタピタと叩いた。そのたびにまみりは声にならないうめき声をあげる。
「御同輩、見たかい。こいつの好きな男が外でこのぶざまな格好を見ているんだよ。へへへへへ」
「そうかい」
今度は藤本が舌なめずりをした。
「こいつの好きな男が外で見ているのかい。この位置からでは見えないだろう。見せてやるよ」
藤本の美貌が今度はその持って生まれた残忍さを倍加する。ハイヒールを履いたままの足をまみりの頭の上にのせる。
そしてまみりの頭をきなこ飴を作っている職人のように前後にごろごろとさせる。
きなこ飴を作る職人はこうやってちぎった飴の材料をまん丸にするのだ。藤本が足を前後に動かすたびに
まみりの頭はきなこ飴が出来ていく過程のようにごろごろと回転する。まみりの頭は丸まっていくきなこ飴と同様なのである。
「こんなみじめな格好を憧れている男に見せてどんな気持だい。ふっ」
藤本がやじうまの中にいるゴジラ松井くんと金髪がくしゃくしゃになっているまみりの顔を前後に見比べる。
「うっ、うっ、うううう」
まみりは苦しさに呻くことしか出来ない。
外でその様子を見ていた石川の瞳には涙がにじんでいた。
「松井くん、助けてあげて、助けてあげて、まみりが死んじゃうわ。ねえ、松井くん。あなたはハロハロ学園のヒーローでしょう」
チャーミー石川は泣きながら松井くんの腕にむしゃぶりついた。
石川の涙が松井くんのトレーニングウェアーの筒袖にしみこんでいく。まみりの瞳にはぼんやりとゴジラ松井くんの姿が見えていた。
「オヤピン、こいつのボディガードの例の空飛ぶ奴が姿を現さないでしょうかね」
加護が不安気にオヤピン飯田の顔を伺った。
「これだけまみりを痛めつけているのに出て来ないんだから、永久に出て来ないさ」
そのときまたゲームセンターの中に閃光が走った。人斬り紺野さんが仕込み杖で空気を斬った。
それからスケッチブックを取り出すと黒いサインペンで何かを書いた。
「なになに、今度出て来たら今度は殺す」
紺野さんの周囲に妖しげなかげろうが立ち上る。
辻は紺野さんの殺気にぞっとした。頭を藤本の美脚にごろごろとされながら
まみりはスーパーロボ矢口まみり二号を発進させればいいんだということに気づいた。
なんだ、まみりは馬鹿なり、スーパーロボを呼べばいいなり。呼ぶなり。
不良たち、パパの作ったロボにのされちゃうなり。飯田お前なんかは足利の田んぼの中のこえだめに落っことしちゃうなるなり。
そしてあの言葉を言えばいいんだ。スーパーロボ矢口まみり二号発進せよ、と。
藤本のハイヒールの裏で頭をごろごろさせられながら、自分の腕時計を探した。ない、ないなり。スーパーロボの無線操縦機がないなり。
「いい黄粉飴が出来るよ」
保田が飯田同様、うんこ座りをしながらごろごろしているまみりの頭を見ながら小枝を使ってまみりの頭をつつっいてみる。
まみりは呻きながらやじうまがたむろしている中に石川の姿を見つけると石川はまみりの無線操縦の腕時計をしているではないか。
まみりはリンチを受けながら、自分の携帯をとりだした。
「もしもし、チャーミーです」