月当たりの時間外労働時間が60時間を超えることがほとんどない会社さんであれば、この記事は読む必要はないのかも知れません。
ですが、いちおう最後まで読んでみてください。
労務にお詳しい方であれば「割増賃金50%」と聞けば、すぐにピンと来るかも知れません。
■割増賃金は2階建て方式
まず、時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合は、通常より高い給料を払わないといけません。
この割増賃金は2階建て方式になっており、
・1階部分が 時間外労働(25%割増) or 休日労働(35%割増)
・2階部分が 深夜労働(25%割増)
というふうになっています。
1階部分というのは、法定休日であれば35%割増、法定休日以外は25%割増です。
■勘違いしやすい法定休日
ここで勘違いしやすいポイントですが、土日を休日としている会社さんが多いかと思いますが、その場合は土曜か日曜のどちらかが法定休日で、もう一方が所定休日(=法定外休日)となります。例えば日曜日を法定休日とした場合は、土曜出勤(=所定休日)の場合は25%割増、日曜日は35%割増となります。つまり、土曜日は、平日の時間外労働と同じ割増率ということになります。ここが勘違いしやすいところですよね。
通常は、土曜日は日曜と同じ35%割増としている会社さんが多いかと思いますが、これではこれでOKです。なぜならば、土曜日の25%割増というのは法律で定める最低基準ですので、これより多い分には構いません。このことが、土曜日=休日労働と勘違いする原因なのだろうと思います。あくまで、これは割増賃金を計算するときの話です。一般的には土曜を休日出勤というのは普通のことですので、このこと自体は問題視はしていません。あっ、ただし現在土曜日出勤分を35%割増にしている会社さんは、法定の25%より多めだということで25%に下げるのはやめてくださいね。労働基準法1条には、最低基準を理由として労働条件を低下させてはいけないとありますのでこれに違反する恐れがありますし、そもそも引き下げることによって従業員さんのモチベーション低下にもなりかねませんので。
ところで、就業規則には、法定休日を明記してあるでしょうか?例えば、日曜日が法定休日であるとか、ですね。とくに明記してなくても問題にはなりませんが、その場合は、土日祝休日の場合は、土曜日が法定休日、日曜日・平日祝日は所定休日(=法定外休日)という扱いです。なぜならば、暦週は日曜から土曜の順であり、週のうち複数休みがある場合は遅いほうの曜日が法定休日になるからです。土曜日は必ず最後になるので、必ず法定休日になる、という理屈です。
いずれにしても、土日祝日を35%割増としているのであれば、上記の理由により割増賃金が法基準より少ないなどの問題は発生しません。2023年3月までは、それで良かったんですよね。
■60時間のカウント
ところが、法定休日を定めていないと、いろいろとやっかいなことが起こります。
2023年4月から、時間外労働が60時間を超えてしまう場合は、超えた分は50%割増となります。これは中小企業が対象ですが、大企業は2010年4月からすでに対応しています。
この60時間の計算なのですが、時間外労働時間>60時間ですので、休日労働(法定休日)はカウントしません。
なので、平日の時間外労働+所定休日の時間外労働時間をカウントするとうことですね。めんどくさいですよね。
もっとも、休日労働時間をカウントしたとしても、
①時間外労働時間>60時間で超えた分を50%割増し(休日労働時間をカウントしない)
②時間外労働時間+休日労働時間>60時間で超えた分を50%割増し(休日労働時間をカウントする)
で比較すると、①よりも②の方が割増賃金をたくさんもらえる可能性が高いですから、労働者側としては②のほうがありがたいかも知れません。
■60時間超の割増賃金の計算
たとえば、70時間時間外労働が発生した場合は、
・0~60時間分 ・・・・ 25%割増(60時間分)
・60~70時間分 ・・・・ 50%割増(10時間分)
となり、70時間分をまるまる50%割増する必要はありません。
というか、それをやってしまうと、残業代を稼ぐために60時間超の時間外労働をする人が増えてしまう可能性がありますのでやめておきましょう。
■2階部分
2階部分である深夜割増は、時間外労働時間または休日労働時間帯が22時~5時と被る場合は、その時間帯は通常の時間外割増または休日割増に深夜割増をプラスします。
たとえば、平日の9時から18時が所定労働時間の場合は(法定休日が日曜)
◯平日の23時まで仕事したら、22時から23時までの分
あるいは
◯日曜 緊急の仕事で深夜2時から4時まで(土曜の26時から28時)2時間仕事したらその2時間の分
の割増賃金は以下の通りです。
・時間外割増(25%)+深夜割増(25%)=50%割増
・休日(35%)+深夜割増(25%)=60%割増
さらに、時間外労働時間が60時間を超えた部分についてですが、例えば1日~末日が給与計算期間であれば、1日から時間外労働をカウントして、28日あたりで60時間を超えた場合に28日以降に深夜勤務があるかを確認します。
その際に、深夜勤務があれば、
・時間外割増(50%)+深夜割増(25%)=75%割増
となります。
なお、2階部分とはいいましたが、時間外でもなく休日でもなく、普通の所定労働時間が22時~5時の間にある場合は、その時間分を深夜割増(25%)として計算しますのでご注意ください。残業じゃないから払わなくても良いことにはなりません。つまり、1階部分がつぶれたとしても、2階部分は生きているということですね。
(以上)