株式は持ち主が亡くなっても消えませんが、NISAの非課税という扱いは、そのまま相続人へ渡すことはできません。
NISA口座を持つ人が亡くなった場合、相続人は死亡を知った後、遅滞なく「非課税口座開設者死亡届出書」を金融機関へ提出することになるのですが、口座内の株式や投資信託は相続の対象になるとはいえ、相続人自身のNISA口座へ移すことはできず、受け皿になるのは特定口座か一般口座となります。
同じ株式なのに、持ち主が変わるところで税制上のメリットが失われる。
NISAという名称からは、資産を保管する箱を想像しやすく、その箱ごと家族へ渡せそうなものですが、実際の非課税扱いは金融商品に貼られた永久シールではなく、あくまでも口座を開いた本人と結び付いた資格であり、本人が亡くなった時点で、株式と非課税は別の道へ進むことになります。
市場は人間の事情を一切気にしません。
所有者が亡くなった翌日も取引は続き、企業の決算が出れば株価は動きますし、配当日も予定どおりやって来ます。
その中で、家族は死亡届出書や移管依頼書を用意し、資産は動き続けているのに、名義だけが手続きの途中に置かれています。
相続人が受け取る株式の取得日は相続の発生日、取得価額はその日の時価として扱われ、生前にいくらで買ったかということより、亡くなった日の市場価格が新しい出発点となります。
ここには少し奇妙な時間の区切りがあって、家族にとってその日は生活が大きく変わった日となるのですが、証券口座にとっては取得価額を記録し直す日でもあり、悲しみと株価が、同じ日付をまったく異なる用途で使い始めています。
複数の金融機関でNISA口座を開いていた場合、国税庁はそれぞれの金融機関への死亡届出書が必要だと案内しており、過去に口座を変更していれば、一人分の非課税制度が複数の窓口へ分かれていることもあります。
「非課税保有期間は無期限」というのは、無期限となるのは口座を持つ本人が保有している間の話であり、人間より長生きする株式はあっても、本人専用のNISAまで長生きするわけではないんです。
相続で受け継がれるのは、株式や投資信託という中身であり、非課税という透明な箱は、その場で静かに回収されていきます。
