立春におもう。 | 営業の魔法 中村信仁と永業塾の仲間たち

立春におもう。

こんなことがあった。

初めての町を旅するのだが、その町の美味しいものなど知らないだろうか……、しいては誰か地元の人を紹介してくれないかと。


毎月全国を旅して歩く私を知ってのお願いだった。それを断るとやはり角が立つ。なので快く引き受け、地元の仲間を紹介し、色々と面倒な段取りを裏で済ませ、本人に安心して旅立つよう伝えた。


旅を終え戻ってきたその人は「楽しかった」という笑顔と一緒に、だけど、○○がこうだった、□□がもう少しあーだったらよかった、などと些細な不満を言いつらねてきた。


アホか、と思った。


初めて会う者たちが、人となりなどなにも知らない中で、一所懸命もてなしてくれたことに対して、なぜ平気で文句を言えるのだろう。

快く引き受けた自分を悔やんだ。
このワガママな珍客は、多分旅先でも仲間たちに不快な思いをさせたのではないだろうか。


山道を登りながら、こう考えた。

智に働けば角が立つ。情に掉(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。


文豪、夏目漱石も草枕の書き出しにこう書いている。そしてその文書はこう続く……。


人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。


さりとて、親切から人に関われば傷つけられてしまう、こんな人の世もいかがなものかと立春を迎えた今日、久しぶりに降りそそぐ陽の光が窓の雪景色に反射する中で考えていた。人でなしの国より、まだこの人の世の方が住みやすいのは間違いないのだろう。





中村信仁