2020年
人生初のアパート暮らしをしました。

5月から早朝
近くの川沿いを歩き始めました。

毎日続けていると
決まった登場人物が
段々と分かってきました。


毎朝決まった場所で
こげ茶の縞でずっしりした体
「みゃ〜〜お」
と挨拶する猫さん

少し行くと
「おはよ〜ございます。」
と独特な口調で挨拶される
首にタオルをかけた
背の高いお爺さんとすれ違います。

そのお爺さんとは
顔見知りになり
いつからかすれ違うとき
ヒョイと片手をあげてくれたり
「腕の振りがいい!」
「元気があるねえ。走ってたねえ。」
と声をかけてくれたりしました。

のっしのっしと歩き
いつも手に草花を持っていた
でっぷりとしたおばあさんは
ぽそっと挨拶。

ずーっとしゃべりっぱなしの
初老のご夫婦は
お話しに夢中で
挨拶も短くてにやけてしまいました。

ベンチに腰掛け
朝珈琲をする老夫婦。



様々な登場人物に
歩きながら
どんな人生を
歩んでこられたのかなあ
何を思いながら
歩いておられるのかなあ
と考えたりしました。




アパートを出る日が来ました。
最後の朝
他にも大切な用事があり
初めて主人も同行しました。

「あのお爺さんに
挨拶がしたいなあ…」
そう言いながら
歩いていました。

このところ時間のすれ違いで
あまりお会いしていませんでした。



いつもの場所で
あの猫が
「みゃ〜〜お」
と挨拶してくれました。

すると
向こうから
背の高い
首にタオルをかけた
あのお爺さんの姿が…

「あ、あの人だ…」


ずっとマスクをつけていたのに
初めてマスクなしでした。
とてもハンサムな
お爺さんでした。

「おはよ〜ございます。」


すれ違いざま勇気を出して
話しかけました。

「あの!今まで
仮住まいをしていて
家に帰るので
今日が最後です。」

「今年最後か?
今日で最後か?」

「今日が最後です。」

「寂しくなるなあ…
元気で!」

「お世話になりました。
ありがとうございました。」


続きの道は 
歩いた日々を思い
泣けました。


最後にお会いできて良かったなあと。
そして最後に
マスクなしの
お爺さんのお顔を拝見できて
なんだか不思議な感じがしました。


大好きな川沿いの景色。
とても寂しく
でも
いい思い出になりました。



特別な2020年。