ぼくが大好きな小説をあげるとき
必ずその中にはいってくるのが
この羊と鋼の森だ。
そもそも宮下奈都さんの文章が大好きで全部の作品を読んでいるけど、とりわけこの本が好きだ。
この本の好きなところは言葉のひとつひとつがすごくキレイなところとかたくさんあるんだけど、そのうちの一つが徹底的に自分の世界の話、つまりピアノの調律の話をしているところだ。
僕たちの世界には無数のものがある。
歌や絵画や車のこと、食べ物、教育、将来のこと、お金や土地や株のこと、友達や恋人やもしくはそれらがいないこと
この物語ではその多くは描かれない。
この主人公の外村くんは、山の中の辺鄙な集落で生まれ育ったこともあり、たくさんのものをあきらめてきたし、関心を持つこともなかった。
たったひとつ、ピアノの調律に出会い、その世界の探求をする話だ。
すごく狭い、たったひとつのピアノの調律という話なんだけど
同時にすごく広く、どの世界にも通じる 探求する楽しさや難しさ、情熱を持ち続けること、上手くなりたいけどなれない時の気持ち、そこに正直に向かい合う姿勢なんかが描かれている。
僕たちはよく自分の世界の外にあるものと自分を比べてしまうことがある
外の世界はいいなあって。
でも、この物語を読むと
まだまだ自分の世界にあるものを探求したいって気持ちになる。
もっと深く、真摯に向き合う。
物語を読んでいて、むずかしいと思うことがあった。
ピアノが良い音をだせるようにする、のが調律師の仕事だ。
ピアノの基準の音はラだそうだ。
そしてラの音は440ヘルツと決まっている。
だから、440ヘルツの音に調律する
だけではお客さんは喜ばない。
もっと明るい音をとか
もっと艶やかな音をとか
平べったい音を丸くとか
良いと思う音って人によって違う。
その人の中にある感情が言葉になったものを変換して感情を読み取り
それを技術で叶える
でも
どの仕事でも一緒だ
お客さんが何を望んでいるかを知り、
自分の技術で叶える
そのために技術を磨く
そうありたいといつも思わせてくれる本です。