
儚い羊たちの祝宴の3つ目「山荘秘聞」です。
この短編の中で一番好きですねぇ。
引き込まれ方がすごい。これは本当に主人公の意図が全然読めませんでした。
主人公視点で文が書かれているのに、まったく分からなかったです。すごくね?
■以下ネタバレ注意■
舞台は主人公の雇い主である貿易商の別荘「飛鶏館」
またもやお金持ちの館が舞台となっています。
主人公は屋島守子。飛鶏館の管理人。
来る日も来る日も館の掃除や車や理念類の管理、お客が来た時のための事前準備。
全て完璧に。いつでも主人もお客様も迎え入れる用意が出来ています。
毎日の仕事をこなしながら、三ヶ月がたち、半年が経ち、1年が経ちました。
屋島守子はふと、気づきました。
「ところで、お客様はいずこに」
屋島守子が一人で飛鶏館の管理を始めてから、そこにはただひとりも訪れることはなかったのです。
まだ雪の残る早春、屋島は館の外で怪我で動けなくなっている登山者と出会います。
そして、屋島は彼を館で介抱することにしました。
翌日。
館のドアノッカーが音を鳴らします。
「私は原沢登です。産大山岳部の部長をしています。実は仲間が滑落して、探しています。」
原沢は山岳部の連中と地元の登山会の人たちと飛鶏館を訪れました。
ここで読者は思うでしょう。
「い、いるぞ!ここに…!!そいつが保護しているぞ…
!!
しかし屋島は意外な言葉を口にします。
「もしこのあたりを捜されるようでしたら、皆様に飛鶏館をご提供できないか主人に尋ねてみましょうか。」
_え?
屋島は原沢達に休憩所と暖かい飲み物を提供します。
そして、少し救助の打ち合わせをした後、再び捜索へ戻って行きました。
「捜索のご成功をお祈りしていますわ」
いやいやいや!!お前!お前、昨日介抱してましたじゃん!!!
まさかこいつ…、保護した人をこいつらに引き渡したくない…、いや、引き渡せない理由があるのか。
そう、「成功を祈っている」というのは建前で、本当は捜しても無駄だということを心の中で笑っているのではないだろうか。
実際に口にした言葉なら、きっとこう思うでしょう。
しかし、この話は屋島の主観で書かれています。
つまり「」のセリフ以外は、屋島の嘘の無い気持ちで書かれているのですわ。
少し読み進めると、こんな文面が出てきます。
山岳部達が飛鶏館に宿泊し、毎日早朝から日没まで捜索をするというのを繰り返した、4日目。
彼らが飛鶏館を出発したとき、空は白んでいましたが、まだいくつか星が残っておりました。それからの数時間。私は飛鶏館を預かるものとしてあるまじきことながら、ただ呆然と、時を過ごしておりました。わたしは日課の相違も、空気の入れ替えさえもする気になれずにいました。ただただ一心に、山岳部の皆さんの捜索が成功することを祈っていたのです。
…。
いやいや、冒頭で助けてましたじゃないですか。それなのに、何で捜索の成功を祈ってるの?
ここがおもしろい所でしたね。屋島は何を考えているのか…。
や、この辺りはちゃんと客観的に読んでいれば薄々と感付く方もいるでしょうね!
私は全然分からなかった人ですけどね!

ここの盛り上がりも面白かったですね!!
一人では大人数のお客様の対応が出来ないので、急遽呼んだお手伝いに来たゆき子さんとの会話です。
「地下の倉庫に変わったお肉があるんですよw」と口を滑らした屋島へ、ゆき子さんが読者に代わって問いただします。
読者はこう思うでしょう。
「それって遭難者のお肉なんじゃないですか!!
屋島はお客様の心を和らげる笑顔を作ります。
「そうですね、そろそろ食べ頃です。ご興味あるなら召し上がりますか?」
体の前で重ねていた手のひらをほどき、それを後ろ手にまわします。
ずしりと重い、煉瓦のような塊。触れれば切れそうなこれこそが、人の口を封じるのに最も適しているのです。
わたしは特別な渉外も任されておりました。好ましからざる人物の口を封じること、それがわたしの仕事でもありました。
こえええよ!!!ホラーだよ!!!
「煉瓦のような塊」というのも面白いです。
煉瓦のようなずしりと重くて固いものなのか。
煉瓦のような見た目のずしりと重いものなのか。
前者と後者で大きく話が変わるのがいいですね。
どちらの意味だったというちゃんとした描写はありませんが、今までちらばしてきたフラグを見るに、あっちの意味なんだろうなぁと想像することが出来ます。

ゆき子さんは無事に口封じされてしまいましたとさ☆

ここまで屋島さんにメチャクチャにされたら、SANチェック入りそうですよね。
おっと、好きな話だと、つい長文になってしまいますね。引用も長くなりますしね。
さて、書こうと思っている儚い羊たちの祝宴は次回で最後です。
最後にエピローグ的な話もあったのですが、これはみなさんにオススメするものではなく、4話全部読んだ読者への話だと思っているので、あえてここで感想を書くことはないでしょうね。
さてさて、あと4冊くらい後がつっかえてきてるので、どんどんサクサク行っちゃわないとねぇ。