(今日はちょっと長いです…)

 

 

バイオラ大学の【ピアノ指導法】のクラスで、ピアノ・メソッドの比較分析をしています。

 

 

分析対象のメソッド

  • šAlfred's Basic Piano Course
  • šAlfred's Premier Piano Course
  • šBastien Piano Basics
  • šBastien New Traditions
  • šPiano Town by Keith Snell
  • šFaber Piano Adventures
  • šFaber My First Piano Adventure
  • šSucceeding At The Piano by Helen Marlais
  • šThe All-In-One Approaches to Succeeding At The Piano by Helen Marlais

 

 

学生全員が上記各社から2冊〜14冊のメソッドを無料提供してもらったので、とても助かります。

 

 

主な分析項目

  • 音符読みのアプローチ
    • 「五線なし」
    • 「中央のドからの読譜」
    • 「5フィンガー・スケールによる複数調の読譜」
    • 「音程読みからの読譜」
    • 「上記の混合」アプローチ
     
  • リズム読みのアプローチ
    • 「音符名を言う(quarter, half-noteなど)」
    • 「各音符の長さを言う(四分音符を1、二分音符を1ー2)」
    • 「シラブルを言う(タン、ターアー)」
    • 「小節の分母を言う(1、2、3、4)」
     
  • 新しいコンセプト(音楽理論の概念)の紹介方法
  • 新しいスキル(テクニックなど)の紹介方法
  • 一冊での進度
  • ウェブサイトの情報(伴奏音源、指導者用情報など)

 

 

最近、読譜のアプローチは研究が進み、どのメソッドも大体…

 

「五線なし」

下矢印

大譜表を用いて「中央のド」を紹介

下矢印

「混合読譜アプローチ」

 

 

と進む傾向になってきています。

 

 

最近のメソッドがどれも大体同じということは、つまり、この方法が音符の読み方を教えるのに最適だという共通認識ができてきている証拠でしょう。

 

 

(ここでの「最近のメソッド」には、「Alfred's Premier Piano Course」「Bastien New Traditions」「Faber」「Helen Marlais」が含まれます。)

 

 

しかし!

 

 

リズム読みのアプローチはメソッドによって大きな違いがあります。

 

 

これはつまり、リズム読みを教える最良の方法がまだ見つかっていないという事の現れではないかと思います。

 

 

リズム読みは、ほぼ全てのメソッドがまず初めに…

 

  • 「音符名を言う(quarter, half-noteなど)」
  • 「各音符の長さを言う(四分音符を1、二分音符を1ー2)」
  • 「シラブルを言う(タン、ターアー)」

 

という3つのアプローチから採用しますが、ある時点で、指導者が…

 

  • 「小節の分母を言う(1、2、3、4)」アプローチ

 

を教えなければいけません。

 

 

しかしメソッドによって、その方法はまちまちです。

 

 

例えば、「Alfred's Premier Piano Course」はまず「各音符の長さを言う(四分音符を1、二分音符を1ー2)」アプローチを採用しています。

 

 

 

 

その後、「小節の分母を言う(1、2、3、4)」アプローチに変更する際、「新しいリズムの読み方」として説明があります。

 

 

 

その後、実際の曲の中に、リズム用の数字は赤字で楽譜の下、指番号は黒字で音符と一緒に表示されます。

 

 

 

この表示方法は、「指番号」と「リズム読み」の2種類の数字の意味を混乱せずに理解できるように工夫しています。

 

 

しかしその後は「リズム読み」が出てきません。

 

 

 

「Succeeding At The Piano by Helen Marlais」では、最初は「各音符の長さを言う(四分音符を1、二分音符を1ー2)」アプローチを採用しています。

 

 

 

その後、「小節の分母を言う(1、2、3、4)」アプローチになりますが、説明がありませんし、その後のリズム練習もありません。

 

 

 

 

 

Basiten New Traditions」は、以下の写真のように、四角い枠の中で3種類の読み方を、紹介しています。

 

四分音符    二分音符

”Quar-ter"   ”Half-note"

 「タ」   「ターアー」

「1」   「1−2」

 

 

 

指導者はそのどれかを選ばなければなりません。

 

 

しかし、その後の曲の中でリズムの読み方が紹介されることはありません。

 

 

ですから、指導者がリズム読みの訓練を補足し続ける必要があります。

 

 

「Faber Piano Adventures」も同じ傾向です。

 

 

(上記のメソッドはどれも大変人気があり、リズム読みの違いはメソッド全体の良し悪しを表すものではありません。)

 

 

 

 

 

私はバイオラ大学で、ピアノ科の学生対象の【初見試奏】のクラスも教えていますが、殆どの学生が「譜読みよりリズム読みの方が苦手」と言っています。

 

 

その原因の一つは、上記のようなメソッドに現れているように、「リズムを教える最善の方法がまだ見つかっていない」という現状にあるのかもしれません。

 

 

そのため、リズムに時間をかけないようになってしまう…

 

 

「リズム軽視」の指導法によって育つ子供達は、リズム感、拍子感が薄れて、音符を追い、指を動かすことを重視していくように感じています。

 

 

その結果、指は動いているけど平坦な演奏になる気がします。

 

 

リズムの中に音楽性や表現力を見出せない演奏は、音楽の面白さが半減してしまうでしょう。

 

 

「新曲視奏」のクラスにはそういう学生が多いので、拍子感を訓練するリズム練習本を使っています。

 

 

この訓練後に、表現力が飛躍的に伸びた学生もいます。

 

 

最善の解決方法ではないかもしれませんが、一助にはなっているようです。

 

 

リズム練習本の詳細はこちらからどうぞ

下差し

 

 

 

 

 

ところで「ピアノと脳科学」の研究の中に、「リズム感のある3〜5歳児は、平均的な3〜5歳児より将来の言語能力の基礎がある」という報告があります。

 

 

原文はこちら

下差し

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1406219111

 

 

この研究では、『3〜5歳児で、大人が叩くリズムを上手に真似できた子供達は、真似できなかった子供達に比べて、「聴力」「短期記憶」「物の名前を早く言う」テストの全てで優れていた。これは将来の言語能力をも左右するだろう』と報告しています。

 

 

ただリズムを「聞く」だけではなく、それを「叩く」という行動に移せる、つまり「感覚〜動作のつながりが脳内でスムーズに早く処理されている」子供達は言語能力も高いようです。

 

 

 

 

以上のような観点から、私は個人的には、次のように考えます。

 

  • ピアノ初心者は、まずリズム読みをしっかり経験し、その後に音名読みに進んだ方が良いのではないか。

 
  • リズム読みは「Quaeter、 Quarter、 Halfーnote」から「1、2、3ー4」に進む方が「1、1、 1−2」から「1、2、3ー4」に進むより、数字による混乱が少ないのではないか。
 
  • ピアノ指導者はリズムの訓練を増やし、継続する工夫が必要。
 
  • どのメソッドにも書いてないが、リズム練習にはメトロノームが必須なのではないか。それによって、テンポを一定に保つ、メトロノームと合わせる、という技術も養える。
 
  • 「リズムの訓練」は「リズムのみで音楽性が表せる表現力」を目標にしたい。

 

 

私は日本のメソッドを知らないので、日本の現状には当てはまらないかもしれませんが、参考になれば嬉しいです。

 

 

河村まなみ