こんにちは。
 
 

今日は、ショパン・コンクール元審査員長アンジェイ・ヤシンスキ(Andrzej Jasiński)氏のインタビューの前半を、和訳してお届けします。

 

 

アンジェイ・ヤシンスキ氏はポーランドのピアニストで、ショパン・コンクールの審査員を長く勤められていました。

 

 

2000年、2005年、2010年は審査員長。

 

 

クリスチャン・ツィメルマンの先生だったそうです。

 

 

現在は、フレデリックショパン音楽アカデミーとカトヴィツェ音楽大学の名誉教授。

 

 

マズルカを得意とされるそうです。

 

 

この動画は、2016年の第17回ショパン・コンクールの第3ステージの最中に撮影されました。

 

 

 

 

 

司会者:第17回ショパン国際ピアノ・コンクールのスタジオはようこそ。私はWojciech Bońkowskiです。今日のゲストはAndrzej Jasiński(アンジェイ・ヤシンスキ)
先生です。コンクールの審査員をされています。おはようございます。

 


ヤシンスキ氏:おはようございます。

 


司:今回のコンクールで、ピアニズムの新しいトレンド(潮流、傾向)はありますか?

 


ヤ:コンクールは毎回違う部分があります。参加者によるし、一つのトレンドで終わらないという事実は良い事だと思います。バラエティがあることによって、皆さんにとってコンクールが興味深くなります。

 

 

テクニックに魅了される人達は、エチュードに秀でているピアニストに惹かれるでしょう。美しい音に魅了される人達は、美しいノクターンを聴いて嬉しく思うでしょう。知性的な構成に魅了される人達は、ソナタやスケルツォなどを聞き、構成力のある人を見つけたいでしょう。

 

 

このようなバラエティがあるので、沢山の人達が満足できます。

 


司:世界中からピアニスト達が集まっています。今や「国民楽派的(国民性を持った)ピアニストはもういない。生徒も先生も世界中を移動しているから、国民性は消え失せた」などと言われていますが、賛成ですか?


ヤ:賛成です。私自身も世界中を訪れ、行く先々で最も優秀なピアニスト達とその先生でもあり演奏者でもある人達に会っています。インターネットの普及によって、世界中のコンクール出場者の演奏を聞く事ができます。若者達の中には、そのような情報を賢く使っている人達がいます。

 

 

しかし、ある人達は、その演奏の表面だけを真似し、自分の心の声に従わず、人工的に真似る。例えば、感情的になり過ぎる、大袈裟にテンポを遅くして自分の解釈が偉大かのように弾く、音が聞こえないくらい小さい音でニュアンスを作る、ルバートし過ぎて音楽の流れを止めてしまう。

 

 

ですから、インターネットの情報を使うには、知性と繊細さと直感と知識が必要です。

 


司:真似をするというのは新しい事ではありませんよね。ただ、以前は例えばホロビッツを演奏会で聞いて真似しようとした。現代ではユーチューブを真似する。

 


ヤ:そうです。ピアニスト が過度に夢見心地だったり大袈裟な表現をすると、私は「この人は酔っぱらったホロビッツだ。」と独り言を言ってしまいますね。

 


司:先生は国民楽派的ピアニストはもういないと思われているという事でしたが、ポーランド楽派ももういませんか?以前はポーランド楽派が存在しましたが・・・

 


ヤ:確かに、戦後、ポーランド楽派が存在すると言われました。そのおかげで、ポーランドのピアニスト達は成功したと思います。しかし世界のコンクールが少数のエリートだけに限るのではなく、世界中のピアニスト達に門を広げるようになりました。そのおかげで参加者が増大し、同時に多数の違ったスタイルのピアニストを受け入れるようになりました。

 

 

私はポーランド楽派が一つの傾向の下にあるのではなく、それぞれ違った個性があるのが嬉しいです。コンクールの参加者それぞれに違う弾き方があるのと同じです。ある人はヴィルトゥオーゾ、ある人は夢見る人、ある人は建築家。

 


司:ポーランドのピアニストは、何か共通点がありますか?

 


ヤ:はっきり言うことはできないかと思います。「ショパンを理解するにはポーランド人でなければならない」と時々言われます。確かに、ポーランドの歴史を知る事は大事です。もし『ポロネーズ As Dur』を弾くなら、若い兵士が戦いに行く英雄的な曲で、ショパン自身が敵と戦う事を想像しながら弾くのは必要でしょう。『ファンタジー f moll』を弾くなら、愛国的な思いや賛美歌を思い描くでしょう。

 

 

あるショパン・コンクールの出場者に、「『スケルツォ h moll』の二つ目のセクションでは何が起きていると思いますか?」と質問した時の話です。そこには『Lulajze Jazeniu』(ポーランドの伝統的なクリスマス・キャロル)の一節が挿入されています。その出場者が「ここはポーランドの民謡。」とだけ言ったのですが、彼がもしそれだけしか感じていないのなら、このメロディーから私達が受ける懐かしさや優しさのような気持ちを理解できない。

 

 

あるコンクール参加者は『マズルカ』を『ワルツ』のように弾きました。ある参加者は、『ワルツ』の中に入れるべきではない『マズルカ』のホップ(足運びの一種)を入れていました。

 

 

ですから「知識」が必要だと私は強調します。何度も言っているのですが、「知性」「心」「知識」が必要で、それら全ては「テクニック」によって表現されなければいけません。ショパンの高度で複雑なエチュードが若いピアニスト達の素晴らしいテクニックによって弾かれると、本当に嬉しくなります。
 

 

 

 

前半は以上です。

 

 

ショパンはいろいろな角度から楽しむ事ができる、ショパンを弾くには「知性、心、知識」が必要、インターネットでの情報収集には気をつけて、というような指摘は、なるほどその通り!と思いました。

 

 

後半の『マズルカ』についてのお話は、こちらで読む事ができます。

 

下差し

 

 

 

河村まなみ