こんにちは。
今日も、ショパン・コンクール優勝者のブルース・リウとダン・タイ・ソン氏による公開レッスンの和訳をお届けします。
前回の記事はこちらから読めます。
今日はこちらの動画の44:10から訳します。
さて、ここ(2回目のBセクション)は良かった。
1回目とほぼ同じですが、音質やムードを変えてください。
特にここが良かった。
(44:24)
コーダに向かって、どんどんと湧いてくる感じが良かった。
タイミングは正確で、全て完璧でした。
さてコーダですが、良く弾けたし、クリアでした。
と同時に、レガートも良く弾けていました。
(それに関しては)私が何か加えることはないでしょう。
ここは・・・
(44:50)
というように(2つの音のスラーを)表現して。
終わりの部分も興味深い場所です。
(45:26)
戦いのムードに満ちています。
成功とか幸せとか、ハッピーエンディングとは程遠い爆発です。
だからこう弾きます
(46:01)
ヘ長調という思いは全くなく、明らかにイ短調に行きます。
もしこの戦いと爆発が死をもって終わるなら、その噴煙や灰が舞っている・・・
このセクションも、もっとイマジネーションが必要ですね。
普通に曲の初めと同じように弾くのではなく、自分のイマジネーションをもっと使って魅力的にして下さい。
まず、イ短調に行く事を意識して。
それから、空白の瞬間がきます。
(47:06)
前と全く同じテンポで弾かない方が良いです。
ショックがあった後ですから、少し遅めの方が・・・
ブルース:ここでテンポを戻したらどうでしょう?
(47:38)
ここは以前とは違う感情的がどうしても必要です。
全ては失敗に終わった、というような感じ。
とても弱く・・・本当に悲しく、絶望感しかありません。
(48:15)
ここですが、私はオープンに大きな音では弾かないです。
ブルース:終わりの所ですか?
そう。
君はこんな風に弾いたよ。
(48:36)
(音は)間違っていないけど、私はそうは弾かないかな。
ブルース:ここですが、どう弾けば良いか分かりませんでした。
(49:11)
ブルース:両手一緒に弾くんですね。自分はこう弾きました。
(49:15)
始まりも終わりも両手同時が良いです。
(49:35)
アルペジオ風に弾くのは(この場面には)美し過ぎる。(笑)
ブルース:それに、そんな時間がありませんよね。
それからここに、またエキエル版の音・・・
(49:59)
(50:16)
これがパデレフスキー版
(50:22)
これがエキエル版
ここは、私はパデレフスキー版の方が好きです。
パデレフスキー版の方が次の和音への準備ができる。
考えてみて下さい。
ここ、弾いてみて下さい。
もっとアイデアを出して。
ブルース:もっと前に進む感じですか?
新しく出てくる要素は、最大限に利用しなければならない。
細部に至るまでイメージを持って。
ブルース:(51:38)
そう、この和音はとても緊張感があるけど
(51:48)
次はこうなるでしょう?
音は大きくなく、ミステリアスに。
(52:09)
タイミングやタッチの変化を利用して。
ペダルも気をつけて。
ブルース:これ(98〜99小節目のペダル)を書かれている通りにすると多すぎますよね。
それはショパンが書いたペダルですが、当時のピアノと今のピアノは違うし、譜面にかけることは、オン(踏む時)とオフ(離す時)だけですね。
でも現実は違います。例えば・・・
ここはフィンガー・ペダル・・・
(53:13)
ここ(A♭)からなら長いペダルは良いんじゃないですか。
ここは長いペダルはダメ。
ブルース(53:42)
そう、とても良い!
戻って。
ブルース:ああ、なるほど。自分はこの声部を出し過ぎていましたね。戻ると言うのは表情のことですね。
そうです、ムードを戻して。
(54:18)
ここは1度目よりは出すけど、少しだけ。
まだ先にもっと高くなるから、まだここはそんなに出さない。
ここからは2回目で一段高くなるから大きくなるけど、そこまでは大きくしない。
(55:08)
次のレベルの準備のため、ここはまだ大きくしない。
ここ、あたなは小さくして遅くしていますが、楽譜にはクレッシェンドと書いてあるから、その方が良い。
もっと自然に。
レッスンはここで終わりでした。
この動画は今年の夏のレッスンだったわけですが、それから3ヶ月後のショパン・コンクールでの『バラード第2番』の演奏はこうなっていました。
明らかにレッスンの成果が出ていますね!
音楽的なまとまり、訴える力が出て、迷いがなくなっていると思いました。
音楽家としてはまだ成長盛り!
プレスラー先生は、「30歳まではレッスンを受けるべきだ」とおっしゃっていますが、これからもダン・タイ・ソン氏の教えを吸収し、成長し続けて欲しいです。
ところで、私個人としては、ショパンを教えるのは難しく感じます。
ダン・タイ・ソン氏のレッスンは、なるほどと思う箇所も多かったですが、基本的な事を話している場合も多く、また、論理的な説明と実際の演奏を用いて納得させる、でも個人の感覚も重んじる、という絶妙なバランスが良かったと思いました。
私自身の教え方と比較して考える良い機会になりました。