前回に引き続き、南カリフォルニア大学の【音楽で子供の脳構造が変わる】という調査結果を、日本語訳をつけてご紹介します。
こちらは前回の《聴覚の変化》についての記事です。
今日は、こちらの動画の3:53〜6:00を訳します。主な話題は《実行機能の変化》についてです。
音楽のトレーニングが聴覚以外の脳機能に影響しているか調べたところ、認知機能という脳機能の発達に良い影響があるのを確認することができました。
その中には実行機能と呼ばれる機能が含まれます。たとえば、ワーキングメモリー、自制心、課題ルールの維持や変更に対応する能力(訳注:柔軟性)です。
この検査のために子供達にはMRIに入ってもらい、その中で、やりたいことを途中でやめて、すぐその場でやりたくないことができるか、という自制力のテストをしました。
その結果、音楽の訓練を受けた子供は脳の前頭葉が他の子供達よりも良く機能していることが分かりました。
前頭葉とは両側の大脳半球の前部に存在し、意思決定などの音楽とは直接関係ない行動に関わっていますが、音楽の訓練を受けた子供たちの方が他の子供達より、この前頭葉が発達していて、これは音楽の訓練の副産物と考えられます。
また、生物学的な変化も観察され、聴覚野の白質部分 (訳注:神経線維が集積し、走行している領域) が変化していました。
つまり、音楽の訓練を受けた子供によって側頭葉の神経系の可塑性(訳注:変化が可能であるということ)が証明され、これは他のグループでは見られませんでした。
更に、左右の大脳半球間のコミュニケーション能力も音楽グループの方が優れていました。両大脳半球を繋ぐハイウェイである脳梁(のうりょう)の前方の部分で、運動機能や感覚機能の情報が行き交う部分が、2つの比較グループに比べて遥かに発達していました。
このような変化は、ピッチやリズムを聞いて判別するというような音楽的能力には直接関係ありませんが、それでも脳内のネットワークや認知能力の発達は、音楽のトレーニングの影響であると結論付けることができると思います。
解説です。
「音楽の習い事は、音楽とは違う脳領域に良い影響を及ぼす」という事ですが、これを専門用語で、ファー・トランスファー・エフェクト(遠転移効果)と言います。音楽活動には遠転移効果があると、多くの研究で明らかになってきています。
実行機能には、自制心、短期記憶、柔軟性などの能力が含まれます。
自制心とは我慢する力です。自制心を測るために「マシュマロ・テスト」というテストがあります。子供の前にマシュマロなどの好きなお菓子を一つ置き、「欲しかったら今食べても良いけど、もし待てたら、ご褒美に二つもらえるよ。」と言って、待たせる実験です。3〜4歳児では3分の1が待てるそうです。その子供達は、大人になると立派に社会生活を送っているが、待てなかった子供は問題を抱えた大人になる割合が多い、という研究結果が報告されています。
ワーキングメモリーとは、短期記憶、作業記憶、作動記憶とも言われ、短時間情報を保持、同時に処理する能力。会話、読み書き、計算などの基礎となる、日常生活や学習を支える重要な能力です。
柔軟性は、物事がうまくいかなかった時に解決方法や別の方法を考え出す能力です。
音楽の習い事は、これらの社会生活を送るための大事な能力を子供達につけさせる事ができるのです。