先月途中でストップしてしまった、【ベートーベン・ピアノ・ソナタの読み方】を今日から再開します!
講義をされたゴードン先生からも、YouTubeに掲載した Claremont Graduate University からも許可を頂きました。
シリーズの1〜3はこちらから読めます。
今日は、以下の動画の30分01秒から34分35までを訳します。
直訳の場合もあり、要約になる場合もあります。
譜例の演奏を聴けるタイミングを記しています。聴きながら説明を読むと、より理解して頂けると思います。
《アーティキュレーションの読み方》
このことを話すには、次の事が大前提となる。
当時「レガート・ペダル(シンコペイティド・ペダリング)」は存在しなかった。
現代の私達は、「レガート・ペダル」を基本的 なペダル奏法だと思っているが、当時は、「音と音をつなげるために、音が変わるたびにペダルを使う」ということはなかった。
(演奏@30:57)
レガート・ペダルは、19世紀の発明。
1854年頃のウィーン国立音楽大学で、『新しいペダリング』と題した講義が行われ、「レガート・ペダル」が紹介された、という記録がある。
それより前のいつからレガート・ペダルが使われ始めたかは不明。
ベートーベンの殆どの初期のソナタは、ニー(ひざ)ペダル付きの初期のピアノで書かれた。
(大きさや形は)まだチェンバロに近かった。
(参考までに写真をどうぞ。ニーペダルは膝というか太腿で押し上げるペダルで、大抵は右側がダンパー・ペダル、左側がソフト・ペダルの機能になっています。その前はレバー式のペダルでした。チェンバロのリュート・ストップののようにレバーを操作して、ペダルのオン・オフを操作しました。その後の発明なので、現在のようにパタパタ急速に踏み変える概念もなかったし、実際にその動きは難しいかったと思います。初期のペダルは、どちらかというと静かなセクションでしばらくオンにして、グラスハーモニカやハープのような音効果を出すことが目的で、音量の大きさを強調する目的はなかったそうです。確かに、ベートーベンのソナタの初期のペダルもそういう扱いですよね。この写真は、ウィーン古楽器博物館で撮影しました。)
ゆえに(指による)アーティキュレーションが、演奏上の重要な表現方法の一つだった。
しかし、初期の楽譜の間に、アーティキュレーションの指示で不一致が見られ、混乱を招いている。
その最たる例は 第1番、作品 2の1 の最初の音。
《スタッカートの読み方》
提示部
展開部
再現部
(演奏@33:10)
(初版、原典版では)
- 提示部のアウフタクトの音にはスタッカートがない。フェルマータの後の左手にはスタッカートがある。
- 展開部のアウフタクトの右手はスタッカートがない。
- 再現部はアウフタクトの音が存在しない。フェルマータの後の左手にはスタッカートがある。
再現部の第1主題にアウフタクトの音がなく、1拍目から始まる。もしかしたら、ドを抜かした「ファラドファ…」が第1主題なのかも?
それと同様の音効果を作り出すために、提示部の第1主題もアウフタクトはスタッカートにしなかったのかも?
これらのスタッカートのあるなしは、ベートーベンが適当に書いたり書かなかったり、時々忘れたりした結果、なのか?
スタッカートのあるなしに、明らかにパターンがある。(つまり、意図的な表記だったのでは?)
参考までに、下の写真は初版の提示部と展開部です。どちらも、最初の音にスタッカートはありません。提示部のドの下に小さい点が見えますが、離れているので、他にもいくつかある汚れかシミと同じではないかと思います。
19世紀の「伝統」を引き継いでしまった多くの楽譜では、この2つの音にもスタッカートが付けられ、それに即した演奏が、CDや動画のほとんどを占めています。
しかし、先生が示された要素などを考えながら表記に従う時に、聞こえてくる効果があると思います。
『19世紀の「伝統」の問題』『ベートーベンが使用したピアノ』について先生がお話ししている記事は、こちらをお読み下さい。
次回も《アーティキュレーション、スタッカートの読み方》をご紹介します。