今日も難聴のピアノの生徒達について書きたいと思います。

 

私はバイオラ大学で30年ピアノを教えています。

 

 

今まで難聴の生徒を二人教えました。一人目のミシェルのお話しは前回のブログをご覧下さい。

こちらからどうぞ

 

二人目は東南アジアからの留学生、パトリシア。ピアノ演奏科コースで学びたいと私のところに来ました。

 

初めてのレッスンでいくつかの曲を弾いてもらったところ、なんだかペダルが良くないんです。濁っているし、タイミングが合っていない・・・

 

私「ペダルはどうやって決めているの?」

パトリシア「今までは先生が言った通り、書いた通りに踏んでいました。」

私「じゃあ自分で決めた事ないの?」

パトリシア「ないです・・・」

私「じゃあ今から二通りでペダルしてみるね。濁っているのと濁ってないのと・・・違いは聞こえる?」

パトリシア「???」

 

もしかしてと思い、耳鼻科で調べる様に言いました。

 

前回のブログに登場したミシェルが、自分のかかりつけの耳鼻科医に連れて行ってくれました。

 

(ミシェルは自分のハンディキャップがこんな風に人のために役に立ったことをびっくりしていました!)

 

結果、やはり難聴でした。

 

私「あなたはとても音楽的だし指も動くけど、補聴器をつけないとこれ以上は上手になれないと思う。もしピアノ演奏科に入りたいのなら、つけないわけにはいかないと思う。」

パトリシア「わかりました。両親に相談してみます。」

 

彼女は留学生なので米国からの補助はないし、自分の国では補聴器専門の医者がいるのか、難聴者用の補聴器があるのかも分からない、ましてや支援はないという事で、アメリカで買うのはかなりの出費になりましたが、どうしてもピアノを続けたいと言うので、ご両親が出費を決意して下さり、補聴器を付けることができました。

 

そしてなんと!初めて自分の足音を聞いたと言うのです。それから鳥のさえずりも!そして全ての聞こえる音に感動していました。

 

ところが、問題はそれからです。

 

全ての音がすごいボリュームで耳に入ってきて、うるさくて頭が痛くなる、もうはずしたい!と言い出したのです。

 

レッスン中も、彼女の横にいる私の話し声と、教室の外で話している人の声が同じボリュームで聞こえると言うのです。

 

耳鼻科医に聞いたところ、今まで脳が音の聞き分けの訓練をしてこなかったので、それができるまでしばらく時間がかかると言われました。私達は赤ちゃんの頃から、少しずつ音を聞き分け、お母さんの声や聴きたい音を他の音より聞こえるようになっていくのだそうです。パトリシアはその脳の訓練と成長を待たなければなりませんでした。

 

パトリシアには、他にも変えなければいけないことがありました。補聴器を付ける前は、授業中どこに座っても先生の声が良く聞こえないので、いつも一番後ろの席に座り、友達に横にいてもらって、先生から見えないように隠れながらノートを見せてもらっていたのです。補聴器を付けてもその癖を変えることが、なかなかできませんでした。私のクラスでもいつも後ろにいたので、クラス終了後に話を聞いたりしながら、「あなたはもう聞こえるのよ。自分の耳で聞く練習をしなさい。一番前に来れば先生の声は聞こえるはずだから、前に来てごらんなさい。」と促したりしました。

 

それからパトリシアは我慢強くこの移行期に堪え、彼女の脳も徐々に聞く事に慣れ、次第にピアノも上達し、4年生になる頃には自信もつき、そして立派に卒業演奏会を終えて卒業しました。卒業演奏会に来られたご両親が心から喜んで下さったのは何より嬉しかったです。

 

 

卒業式の後、パトリシア、ご家族とディナー

 

 

 

 

去年、おととしは東南アジア演奏旅行でパトリシアのご両親の教会で合同演奏会

 

 

 

 

次回はパトリシアのその後について書きたいと思います。

 

全ての人が音楽のすばらしさを体験できますように。