留美の携帯電話を壊した郁未はその代替え機となる電話を持って来ていた。携帯ショップのロゴ入り紙袋を茶の間のテーブルの上に置くと、ドカッと腰を下ろした郁未はテーブルに寄りかかる。
「……小腹が空いたな」
お腹の虫が泣きはじめた。しかし留美が戻るまでの辛抱だ。この後二人で美味しいレストランへ行けば良いのだ。――だが、どんなに待っても留美は帰って来ない。
「遅いなぁ。……充電でもしておいてやるか」
紙袋から携帯電話が入った小箱を取り出し、テーブルの上に箱の中身を出して並べる。充電用の電源ケーブルのコネクタを携帯電話に差し込み、もう片方を差し込もうと壁側のコンセントを探す。
すると、テレビ横のコンセント口を見つけ電源ケーブルを刺した。そして、そのすぐ隣に手編みで作ったようなカラフルなバケットが目に止まった。そこには一枚の紙が入っていて、クルクルと巻かれた少し大きめの用紙が気になった郁未がそれを手に取る。
「ホワイトウェディング……これは」
留美に贈った婚約指輪を購入した店に飾られていたポスターと同じもので、これを留美が気に入っていたのは気付いていた。雪が舞い散る冬の挙式。今冬に式を挙げる郁未としてはポスターに心動かされ、気分はすっかりホワイトウェディング。
「肝心な留美はどこへ行った? こんな生活が続くようなら一緒に暮らすべきだ。留美だって俺と離れていたくないはずさ」
結婚前の一番親密な時間を過ごしたい時に、離れ離れな生活を送ることに郁未はたいそう不満を感じ、不貞腐れてはその場に寝っ転がった。
少し横になるつもりが、部長との根詰めた仕事の後だけに疲労感が残っていたのか、郁未はいつの間にか畳の上で眠ってしまった。
郁未の気がついたのは次の日の朝。目を覚まして辺りを伺っても人の気配はない。念の為、寝室の襖を開けて留美の姿を探すが、やはりそこには留美の姿はなかった。
「汗掻いたな……」
連絡のつかない留美の帰りをジッと待っていても埒が明かない。しかたなくアパートを後にした郁未は一旦自宅マンションへ戻り、汗臭い身体をシャワーで洗い流した。