「もうこんな時間か……」

 対向車のライトは眩しく道路を神々しく照らす。すっかり外は暗くなってしまっていた。ダッシュボード横の時計に目をやると、液晶画面の数字は二十時を過ぎていた。

「ご飯は食べ終わっただろうか? それとも……」

 時間的に入浴中ではないかと浴室でシャワーを浴びる留美の裸体を思わず妄想してしまった。浴室に響き渡るシャワーの音、留美の肌を掻き消すように立ち込める湯気。まるでティーンエイジャーのように心が逸る。

(童貞じゃあるまいし……)

 留美に飢えた自分が情けなく感じると、いつの間にかアクセルを踏む右足から力が抜けて速度が落ちかけていた。
 運転に集中しようと気合いを入れた郁未は一瞬だけハンドルから手を離し、両手で頬を叩く。大きく息を吸うとゆっくりと息を吐き出しアクセルを深く踏み込み、周囲の流れに合わせて車を走らせる。だが、やはり留美のアパートへ向かうだけで心は既に新婚気分。
 逸る心を抑えるには郁未の肉体も心も若かった。
 留美のアパートに到着した郁未は、仕事疲れもなんのその、有り余る体力を持て余すと階段を二段三段と、留美の部屋まで駆け上がって行く。
 興奮した気分を払拭するつもりで、わざと階段を上がって行った郁未だが、留美の部屋までやって来ると逆に体に力が漲るようだ。留美のシャワー姿を想像するだけで気分は高揚する。

(俺は高校生か……)

 自分でも信じられないほどに頭の中は留美一色だ。
 そんな自分を曝け出すことに抵抗を感じた郁未は、周囲に誰もいないのに照れ臭そうにして咳払いしながら玄関ベルを押す。だが、中からの反応はなく郁未はもう一度ベルを押した。

「留美?」

 やはり時間的に入浴中だろうかと、左手にはめている腕時計を確認した。
 女性の一人暮らしの生活だ、仕事を終えて帰宅した後、食事を済ませたらきっと今頃は疲れた身体を温かい湯で癒やしている頃だろう。できれば、その滑らかな肌を自分の胸の中で癒やしてやりたいと、有り余る体力が妙な妄想に走らせる。