「まいったな……」
女の裸を見て興奮する男子高生とは違う。なのに、裸体に直接触れたわけでもなく服の上から抱きしめただけで信じられないほどに体が反応する。
ところが、携帯電話の着信音が鳴り響くと気分がそがれ郁未の興奮は冷めていく。それどころか、騒々しい着信音が聡からだと分かると不快感をつのらせる。渋々上着の内ポケットから電話を取り出し、不貞腐れたように通話ボタンを押した。
「やぁ、留美ちゃんとはその後どうなった?」
まるで父親の俊夫を思わせる軽口に郁未は眉を歪めては、ドサッとソファへ腰を下ろした。左手で電話を握り締めながら右手では首元のネクタイを緩め、ソファに寄りかかり大きく息を吐いてやっと聡の質問に答えた。
「その後も何もないさ」
「今、一緒にいるのだろ? そこはホテルか?」
肯定したいが、変に勘繰られたくない郁未は『いや』と短い返事をする。
「ホテルじゃなければマンションなのか? てことは、俺、邪魔したかな?」
「別に……」
郁未の少ない口数に、電話口から時折押し殺したような聡の笑い声が聞こえてくる。それが無性に腹立たしく感じる郁未は無言になる。
「もしかして留美ちゃんをベッドに待たせているのか?」
その質問は当たりなだけに言い返せない郁未はますます眉が歪む。そこまで予想がつくのなら早く電話を終えればいいのにと、執拗に質問攻めにする聡に苛立つ。
「なんだ、いよいよ既成事実作って親父さんとの賭けを終わらすのか。そうだよな、あの堅物留美ちゃんなら今夜一晩あればお前とのセックスに溺れさせるなんて簡単だろうし、女の扱いならお前は天下一品だ。天国へ導いてやれば良いだけの事さ」
次々と出てくる聡のセリフが郁未の胸に突き刺さる。
郁未の目の前に広がるディナー途中の主賓のいないテーブル、テーブルのセンターを華やかに飾る美しい花びら、瞳に映るすべての光景が留美の笑顔を思い起こさせ罪悪感にかられる。
「相手がどんな堅物でも女には変わりない。抱けば意のままに操れるってもんだろ?」
親友の言葉とはいえ流石に郁未は頭に血が上った。