留美を案じる郁未の落ち着きがなく、プレイボーイの代名詞的な男と同一人物とは思えず、聡は腹の中で笑う。
「俺はステーキを、彼女は特別なメニューを食べた」
「特別なメニューだと?」
意味深な発言の聡に食ってかかる郁未が、今にも襲いかかりそうな勢いだ。
「今、俺が運転中というのを忘れるなよ、郁未」
事故を起こしかねない郁未の勢いに聡が釘を刺す。
郁未が理性を失いかけていると感じた聡だが、当の郁未は事故など気にも留めていない様子で、『それがどうした』と聡に突っかかる。
このままでは事故になりかねないと、聡は正直に話し始めた。
「特別って言うのは胃に優しい食事のことだ。肉は一切食べていないよ」
「ステーキのレストランなのにか?!」
郁未には、ステーキレストランへ行って肉を一切口にしないことが想像できない。しかも長蛇の列が出来る程の有名店のステーキだ。信じられなくて郁未はまだ聡を疑う。
すると、聡が溜め息交じりで言う。
「留美ちゃんが胃の調子が悪いと言うから、店に頼んで特別に粥を作って貰ったんだよ。普通の客ならお断りだろうけど」
「お前の名前を利用して作らせたのか?」
自分の一族の名前を出していれば聡の説明にも頷ける。
もしそうならば留美の体の心配は必要ないと安堵する郁未だ。ホッと小さな溜め息を吐くと窓へ身をもたれかけた。
「そんなに彼女が気になるか、郁未?」
「……賭けの対象だからな」
父親と賭けをした相手に過ぎないと言葉では何度もそう説明するが、郁未の留美を心配するその様子はどう見ても恋人へ向けられるもの。聡は二人がお互いにお互いを気遣っていると、一番近くで見ている友人として二人が少し羨ましくなる。