他人行儀な礼に郁未が苛立つ。
 これまでどんな女も郁未が微笑めば、直ぐに腕に抱かれ思いのままだった。なのに、何度微笑んでも何度誘惑しても留美を意のままに動かせない。
 それどころか、唇を重ねれば重ねるほどに自分の方が留美を欲しがっていると気付く。こんな思いをさせた留美が憎くなる。
 平然とした顔でマンションから出て行こうとする留美がこの上ないほどに憎らしい。郁未は、父親の俊夫との約束など忘れ、この自分の意のままに動かせない女をどうしたら振り向かせることが出来るのか。そんな考えが頭の中を駆け巡る。
 そして、頭で考えるより先に手が動いて留美を抱きしめていた。

「やっ」
「留美、帰すものか」

 自分でそんなセリフを言ったのも気付かないほどに郁未は、留美をマンションから帰したくない想いが募り唇を重ねた。

「留美」

 甘く囁かれるセクシーな声。
 二人の体が融合してしまいそうな程に力強く抱きしめられる。留美はこれほど情熱的に唇を重ねられるとは思わず、胸のときめきは最高潮を迎える。渦巻く心臓の音が留美の心まで蕩かし体から力を吸い取る。
 郁未に身を預けるように体を寄せた留美もまた、熱い口付けに心惹かれ応えていた。もっと、甘くて情熱的なキスが欲しいと……

「せ……んむ……だめ」
「留美」

 深くキスされてますます香水の香りが留美の鼻腔を突く。するとさっきまでの熱い胸のときめきが一気に冷めていく。
 そして留美が気付いた時は両手で郁未の胸を突き飛ばしていた。