ここで何とか留美の気を惹こうと頑張ってセリフを言ってみる。

「いや、あのタラコ唇って実に可愛いだろう? それに、会社では全く隙を見せない君がたるんだ……いや、リラックスしている格好なんて愛らしかったし。本当に胸キュンもので」

 こんな取って付けたようなセリフを留美が本気に取るとは思わないが、多少なりとも口説いて様子を見なければと行動に出た。
 ところが、自宅でリラックスしている自分が一番好きな留美としては、郁未のそのセリフは嬉し恥ずかし、くすぐったい気分だ。頬が薔薇色に染まると少し瞳が潤む。

「……あ、いや」

 芸の無い郁未のセリフに留美がこんな反応を見せるとは思わず、この感覚のズレに郁未の方が困惑してしまった。

(ジャージを褒めたのが良かったのか? まさかタラコ唇じゃないよな?)

 これまでの女達とのあまりにも違う反応に戸惑いを隠せない。
 それに、自分でもどこをどう褒めたのか理解していない。なのに、留美は言葉とは裏腹に態度はそう悪くない。いや、それどころか、意外にも恋する乙女のような瞳だ。

(これって恥じらってるし、俺を意識しているって事だよな?)

 褒める箇所は多少違えども本人が悦ぶ言葉さえ伝えれば、高慢で処女で男慣れしていない留美でも、他の女同様に口説く事は可能だと確信する。