第二章 プレイボーイはお断わり
通常通り勤務を終えた郁未は帰り支度をし、会社の地下駐車場へ向かった。
いつもならこの後、美しい恋人と楽しい一時を過ごすのに。最悪な事に、父親からは呼び出しの電話を受け、恋人とは別れる羽目に。しかも、業務では留美に振り回され、今日は厄日なのかと頭が痛い。
気は重いが、仕方なく車を実家へ走らせる。
そして、車を走らせること三十分あまり、父親が待つ実家へと到着する。
郁未がリビングルームへ入ると、父であり社長でもある澤田俊夫(さわだ としお)が、グラスを片手に微笑んでいる。
リビングの片隅にある、お気に入りのバーカウンターの椅子に腰掛けながらグラスを口元へ運ぶ。
「仕事の話なら社長室へ呼び出して下さい。早々に対処しますが」
実家にいても仕事モードの郁未。父親の俊夫は自宅に似合いのリラックスした格好をしているが、流石社長だけあって自宅に居ても威圧感たっぷりだ。
「まあ、そういきり立つな」
クリーム色のポロシャツを着た俊夫は、服装に似合わない葡萄酒を注いだグラスを郁未へ差し出す。
「今日は飲むつもりはありません。用がないのでしたら自分のマンションへ帰ります」
「そう言えば自宅マンションへ女を連れ込んではいないそうだな」
リビング中央にある応接セットの三人掛けソファへ腰掛けた郁未が、ソファにもたれ掛かるとネクタイを緩めシャツの襟を広げた。
「少しでも油断すると女は誤解する。その隙を作らないことくらい心がけていますよ」
当然の事のように言う郁未。
それには頷く俊夫だが厳しい目をする。
「これまで何人の女と寝た? お前のプレイボーイぶりは得意先でも随分と評判になっている」
私生活と得意先は無関係と考えている郁未には、毎回の事、鬱陶しい会話だ。しかし、将来を不安視した俊夫は、後継者の郁未には世間での評判を回復させる必要があると感じている。
「今のお前は後継者として後押しができないのだ」
郁未はこれまで仕事に私情を挟んだ事など一度もない。それなりに業績も上げている。なのに理不尽だと文句を言おうとすると、
「後継者になる為の条件がある。私が決めた女性と来春結婚式を挙げる事だ」
「は?」
突拍子もない話に郁未は顔面蒼白となる。
「ちょっと待って下さい。俺はまだ二十八だし、そんなに急いで結婚する歳でもない。それに結婚相手は自分で見つけます」
父親が決めた女など、きっと喜怒哀楽のない日本人形のような女だ。まさしく人生の墓場ではないか。絶対に、この縁談を承諾することは出来い。
「お前に任せていたら後十年は独身を続けるだろう。私の死後に結婚など言語道断だ。第一、未婚のお前では後継者にはできん。身を固め誠実な態度を示さなければお前の信用はないに等しい」
当然の事のように言う郁未。
それには頷く俊夫だが厳しい目をする。
「これまで何人の女と寝た? お前のプレイボーイぶりは得意先でも随分と評判になっている」
私生活と得意先は無関係と考えている郁未には、毎回の事、鬱陶しい会話だ。しかし、将来を不安視した俊夫は、後継者の郁未には世間での評判を回復させる必要があると感じている。
「今のお前は後継者として後押しができないのだ」
郁未はこれまで仕事に私情を挟んだ事など一度もない。それなりに業績も上げている。なのに理不尽だと文句を言おうとすると、
「後継者になる為の条件がある。私が決めた女性と来春結婚式を挙げる事だ」
「は?」
突拍子もない話に郁未は顔面蒼白となる。
「ちょっと待って下さい。俺はまだ二十八だし、そんなに急いで結婚する歳でもない。それに結婚相手は自分で見つけます」
父親が決めた女など、きっと喜怒哀楽のない日本人形のような女だ。まさしく人生の墓場ではないか。絶対に、この縁談を承諾することは出来い。
「お前に任せていたら後十年は独身を続けるだろう。私の死後に結婚など言語道断だ。第一、未婚のお前では後継者にはできん。身を固め誠実な態度を示さなければお前の信用はないに等しい」