郁未の予想以上に出来上がりが素晴らしく、つけいる隙を与えないそんな仕上がりが腹立たしくなる。
このままでは留美を賞賛しなければならなくなる。
(いや、何かあるはずだ。どこでもいい。この女に……)
そして、粗探しを初めて一時間あまり。
郁未は口元を緩め、満面の笑みを浮かべる。
これで留美をぎゃふんと言わせられると思うとその悦びに酔い痴れそうになる。
「佐伯君、ここの説明をして貰おうか」
パソコン画面を眺める郁未の顔はかなり悦びに満ちている。
そして、何度も留美に呼びかけるが、全く返事がない。ソファで待つ留美の方を見た郁未だが、ソファにもたれ掛かる留美の頭がユラユラと微かに揺れている。
イヤな予感がし急いで椅子から立ち上がった郁未がソファの前まで行くと、やはり思った通り留美は待つ間に眠っていた。
「……おい、仕事中に寝るなよ」
プログラム関係の仕事は相当に心身共に疲れを要すると人伝に聞いた事がある郁未は、すやすやと気持ちよさそうに眠る留美を見て思わず同情しそうになった。
よほど、疲れているのだろうかと、留美とは反対側のソファへ腰を下ろした郁未が留美の寝顔を眺めている。
しかし、よく考えてみれば今は勤務時間中だ。本当ならば持ってきたデータの使い方をレクチャーする時間なのだ。
ここは上司らしく留美を叱りつける絶好のチャンス。そう思って身構えると、丁度そこへ携帯電話の着信音が鳴り響く。その音は郁未の携帯電話の女性専用音楽だ。
「こんな時に誰だ?」
付き合う女性に合わせた艶めかしい着信音を女性専用音楽に鳴り分け設定していた。その音を聞くといつもなら心浮かれるところだが、今は目前の目障りな留美にとても浮かれ気分にはなれない。
誰からの電話なのかと着信画面を確認すると、郁未は眉を細め大きな溜め息を吐いた。
何故か鳴り分け設定とは違う名前がそこにあった。しかも、今、郁未が一番相手をしたくないダークなヤツだ。
郁未は思わず着信拒否しようかと思った。しかし、万が一、重要な知らせならばと、思い留まった郁未は渋々通話ボタンを押す。
「はい、郁未ですが」
「は~い、パパですよぉ」
思わず郁未は電話を床へ投げつけようとした。
しかし、なんとか理性を働かせ携帯電話を握りしめるだけに治めた。
毎度の事ながら、我が親にして会社社長という立場で、呆れてしまう郁未は電源ボタンをブチッと切ってしまった。
「勤務時間中にふざけた事するな!」
電話へ向かって怒鳴り声を上げた郁未はかなり息が上がり、怒りから目眩がしそうになる。
「なんて日なんだ……」
そこへ着信音が鳴り響き、再び社長から電話が入る。
暫く放置したが、しつこい呼び出し音に渋々通話ボタンを押す。
「何か用ですか?」
仕事モードで返事をすると、父親である社長もそれらしい声で答える。
「実はお前に大事な話があるのだが、今夜、時間は空いているか?」
今度は真面目な口調だ。しかし、突然に予定を組まれても、忙しい身の上の郁未は変更は難しい。