専務の好意を無視しランチを食べる留美は、ハーレム集団から冷たい視線を浴びている。特に、集団の中央にいる専務の視線は痛いほど冷ややかだ。
集団から留美の席まで、その視線の直線上で食事を取っていた男子社員までもが、この異様な雰囲気に恐れを成して、食事もそこそこに逃げ出して行く。
「なあに、あれ。男の癖に肝が据わってないわね」
女性集団の睨みが相当に怖いのか、留美の回りから男性社員が一人残らずいなくなる。
この状況に耐えられないと、田中が必死に留美に注意する。
「佐伯さん、女性社員に睨まれたら仕事がやり難くなるわよ」
かなり冷や汗をかきながら、なんとか留美を宥めようとする。しかし、ハーレム集団の中央で、まるで玉座に座っている様な、傲慢な態度の郁未が気に入らない留美は無視してご飯を食べ続ける。
田中は一身に浴びる、ハーレム集団の蔑む視線から逃れようと、俯いては身体を縮めていた。
ただでさえ情報処理課は他の社員から一目置かれる存在の為、男性社員との接触も少なく、女性社員からは敬遠されやすい。その上に、ここで騒動を起こしては、ますます社内で孤立してしまう。
「ねえ、佐伯さん。食べたら先に戻っていい?」
そう言って、田中が急いでランチを平らげようとする。
すると、ドスの利いた声で留美が答える。
「私一人を置いて行くつもりですか、先輩?」
「じゃあ、専務に睨まれる様な態度を取らないでよ、ね?」
やはり同じ課の社員同士。留美一人を置いて行くわけにもいかず、渋々留美に付き合って最後までランチを食べる田中だった。