東京も急に涼しくなりました。
なんだか肌寒いくらいで、こんな時はやはりお燗ですねえ。
そう思って真菜板に行くと、この日も揖保川のアユが入ったそう
で、魚を見せてもらいましたが、その大きいこと!
25センチ近い長さもさることながら、パンパンにまるまると太って
ずっしり重いくらいです。
当然、じっくり塩焼きにしてもらいます。
焼きあがったアツアツを、箸を使うのももどかしいので、両手で
持って背のほうからガブリ。
薄くて張りのある皮を噛み切るとしっとり、ほろりとした身の感触。
あつあつの湯気とともに川の香りがふんわり満ちてきます。
ここで酉与右衛門の雄町をひとくち。うん、うまい。
ふた口目はもちろん、腹のほうからガブリ。
なんとも清々しい川の香りが口の中にあふれかえります。
そこにこれが楽しみな、なんとも言えないワタの苦み、うまみ。
さあ、こうなれば宗玄の純米八反錦をグーッとあおります。
うーん、深い。
この日はどういうわけかお客さまも少なくて、私たちのほかは
近所にお住いの常連Eさんだけ。
こういう日は、そう、いろいろわがままの言える日です。
「じゃあ涼しいし、アユの頭と中骨で骨酒にでもしましょうか?」
てなわけで、中骨をさらにこんがりあぶってもらいつつ、熱燗
をつけてもらいます。
「たまには骨酒もいいねえ。昔、達磨正宗の社長のところでは
骨酒ばかり飲んだねえ。これがほんとうに、美味しくてね。
その時教わったんだよ、骨酒の時はお燗は60℃以上って。」
と、店主もノリノリで2種類の燗をつけています。
まずはEさんリクエストの竹鶴。小笹屋竹鶴の2010年です。
塗の椀にこんがり焼きあげたアユの中骨と頭を入れて、その上
からたっぷりとアツアツの小笹屋竹鶴を注ぎます。
ものの2分もたつと、しっかり色も出てきました。
これをぐっといただきます。
うーん、香ばしいアユの香りと竹鶴の個性あふれる強い香りが
相まってなんとも形容しがたい芳醇さです。
アユのうまみと竹鶴のコクが一体になって、なんともゴージャス
な骨酒に仕上がりました。
もう一つは番頭のリクエストで、るみ子の酒。
おや、燗をするとこのお酒、少し竹鶴にも似た印象ですねえ。
意外に思いながらも、これまた中骨にたっぷり注ぎます。
さすがにこちらは香りも柔らかで、アユの風味が引き立ちます。
ずっと口に含めばあら不思議、アユと酒の持ち味がどちらも
いい方向に作用して、香り・うまみ・後味ともにバランス抜群。
いやあ、これはたいそう美味しいです。
竹鶴の骨酒はがっしりと飲みごたえのある、硬派な味わい。
るみ子の酒のは、バランスよくてつるつる飲めてしまう危険な
味わい。
どちらも甲乙つけがたいうまさですが、番頭はるみ子に1票!
いやあ、久々の骨酒で楽しかったですね。
それにしても、こんないい酒で骨酒はちょっと贅沢でしょうか。
揖保川のアユは今年まだまだ入荷するそうですので、機会が
あればぜひ試してみてくださいね。
一つだけご注意。
それは、骨酒が美味しすぎてついつい飲みすぎてしまうこと。
その点だけには気を付けて、どうぞお楽しみください。
