ジジ・オラマ(40)
最後は・・・両面テープです。
■両面テープ
日常的な使い方の中で、粘着テープと接着剤との大きな違いはは、粘着テープが「貼る」「巻く」ための道具であるのに対して、接着剤が「貼り合わせる」道具だという点です。ところが、20世紀中頃のアメリカとドイツで、「貼り合わせる」機能を持った、まったく新しい粘着テープが発明されました。1943年に特許登録された両面粘着テープです。年代的には1930年に3MのR.G.ドルーにより発明されたセロハンテープの後になりますが、ビニル粘着テープなどと同じ頃で、現代の粘着テープの中では比較的早い時期から存在していたことになります。わが国では1965年頃から需要が急増し、量産されるようになりました。支持体の裏と表とに粘着剤を塗るという、単純なアイデアで生まれた粘着テープですが、この登場によって、粘着テープと接着剤の関係に微妙な変化が生じることになりました。
両面接着テープと呼ばれる場合があるように、粘着テープがシート状固形接着剤としての機能を持つようになったからです。一般的な両面粘着テープの構成は、支持体の両面に粘着剤を塗って、剥離ライナーをはさみこんでロール状にする、というものです。支持体には、紙や布、不織布がよく使われています。用途によってはプラスチックフィルムやゴムシート、発泡体なども使われます。また、支持体を用いずに粘着剤だけで構成された特殊なものもあります。粘着剤としては、天然ゴムや合成ゴム、あるいはこれらの混合物、アクリルポリマーやブロックポリマーなどが使われています。両面粘着テープに欠かせない剥離ライナーは、シリコーンを剥離剤として用いたものが一般的です。私たちが一番よく目にする両面粘着テープと言えば、事務や文具用です。封筒を封かんするための両面粘着テープは、剥離ライナーを剥がすだけできれいにつき、とても便利です。
住宅のカーペットやフロア材・人工芝の固定にも両面粘着テープが使われています。こうした広い面積を接着する場合には、接着剤を塗るより、作業が楽です。しかし、両面粘着テープは、「接着」の役割を果たすと、見えなくなってしまいます。まさに「縁の下の力持ち」なのです。家庭内でも、化粧板など装飾用建材の固定、木工家具のつき板の接着、鏡の固定、階段の滑り止めなど、見えない所で使われています。細かな部分や、形状が複雑な部分の接着も、両面粘着テープの得意分野です。たとえば、ICカードは複雑な形状のものを一定の厚さで精密に貼りあわせてできます。ここでは、厚さ制度にすぐれた両面粘着テープを、適した形状の金型で打ち抜いて用います。こうした薄葉部品の分野では、両面粘着テープ自身が部品の強度を支えている場合もあり、単なる補助材料ではなく構成材料だと言えます。液晶ディスプレイは、偏光板や位相差板などが貼り合わさってできています。光の透過が必須条件ですから、ゴミや気泡が入っていない両面粘着テープが用いられています。このように、均一で精密な接着もできるのが両面粘着テープの特長です。ユニークな例としては、発泡体を支持体に用いたものもあります。ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ビニルフォーム、スチレンフォームなどを使用しており、曲面や凹凸面での接着で威力を発揮しました。自動車や家電製品の銘板固定は、平らな面への固定ばかりではなく、むしろ曲面や凹凸面の方が多いのです。こうした場合、接着剤では面に密着した固定が難しく、接着強度も低下してしまいます。かといって、ネジやビスは作業が困難なうえ、ネジ穴などからサビが発生する原因にもなってしまいます。そこで、さかんに利用されるようになったのが、発泡体両面粘着テープです。発泡体はどんな面でも柔軟に接することができ、そのうえ、断熱や防音、防振、気密などの効果もありました。発泡体両面粘着テープは、住宅の窓際シール、内外装パネルの断熱・防音、冷暖房機などの断熱材など、数え切れないほどの分野で活躍しています。こうして見てみると、両面粘着テープは、単なる接着剤の代用品ではないことがわかってきます。粘着剤と接着剤との両方の機能を備えつつ、新たな価値も提供しているのが、両面粘着テープなのです。
・・・しかし、簡単な構成の粘着テープでもその価格はかなり高く、汎用両面粘着テープの場合、約500円/㎡であり、粘着剤の塗布量から換算すると約4,000円/kgとなり、一般の接着剤に比べてかなり高価です。粘着テープが高価であるにもかかわらず、広範囲に使用されているのは、通常の接着剤のような使用にあたっての態の変化(液体から固体)を必要とせず、貼合せると直ちに実用に耐える接着力を発揮する(感圧性タック)という使用上の簡便さや、使用に当たり溶剤や加熱を必要としない無公害、安全性、良好な作業性などを有しているからです。また、接着という機能を考えた場合、通常の液体の接着剤では、使用現場で均一な厚さに塗布するのは相当に困難ですが、両面粘着テープを使用すれば、標準偏差数μmという均一な接着剤層が容易に入手できます。この均一性や作業性のために、非常に高価であるにもかかわらず、電化製品の外装・装飾(アルミパネルの貼合わせ)や自動車の内装など広く用いられているのです。さらに近年は、両面粘着テープを打抜き加工し、複雑な2次元形状を持った接着シートとして、製造ラインで通常の接着剤が塗布できないような部分、例えば電卓キーボードの化粧パネルなどの接着加工に用いられています。
・・・ただ、少量にしか用いない、しかもそんなに複雑な接着を必要としない子どもの造形活動においては、例え便利であったとしても、高価な両面テープは敬遠されてしまいます。これだけ様々な素材(紙や木以外)があふれている今日、しかも環境問題やリサイクルが問われている現代において、活動の幅を広げるために「接着」の問題は深刻です。私自身は、ぜひとも安価な「両面テープ」の登場を切に願うものです。
■スティック糊
リップスティックタイプ糊とも呼ばれ、主として紙の接着のために用いられる固形の接着剤(固形糊)を、文房具として使用しやすいよう、細長い容器に入れ、すこしずつ繰り出して使えるようにしたものをいう。 なお、英語のスティック(Stick)には『棒状』の他に『くっつく』『貼り付ける』という意味があり、双方の意味を掛け合わせた呼び名となっている。1970年代に登場。日本ではトンボ鉛筆が初めて生産した。従来の澱粉のりや液体合成のりに比べて、手に付きにくい、紙にしわができにくい、すぐ乾くなどの利点があるが、紙の材質によっては、あるいは貼り付けてからの時間経過により、剥がれ易くなる場合がある。現在一般向けの糊としては最も普及している方式である。
・・・昔ながらの糊やテープ類をないがしろにするつもりはありませんが、なんでもかんでも訓練(忍耐)だとか経験(努力)だとか、そういうコツコツ積み上げていく(質より量)時代ではなさそうです。もっと未来志向の造形活動が求められています。当然、それに見合った材料や道具が必要です。そういう意味から「両面テープ」や「スティックのり」などがさらに安く質が高くなることを願って、ジジ・オラマのしめくくりとさせていただきます。