きひっ(87) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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Alison Lapper Pregnant(1)


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トラファルガー・スクエアで公開されたマーク・クイン(Marc Quinn)さん作品は、実在する身体障がい者の妊婦アリソン・ラッパーさんをモチーフにしたもので、この像を巡ってイギリス国内で賛否両論もありましたが、パラリンピックの開会式にも登場しました。


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マーク・クインさんと言えば、1997年の「センセーション展」で、自ら採血した冷凍血液で自分の頭像を作るというグロテスクな作品で、一躍その名が知られる所となったアーティストです。今回マーク・クインが制作したのは、友人であるひとりの障がい者をモデルにした巨大な彫刻で高さが3.6mもあり、ぬめりとした表面を持つ大理石でできた人物像です。その人物像を巡って、ロンドン中が大騒ぎになりました。理由は、その巨大な人物像には腕がなく、足は極端に短く、妊娠8ヶ月の女性の裸体だからです。先天的な障がいを持つ友人の名、「Alison Lapper Pregnant(妊娠8ヶ月のアリソン・ラッパー)」が作品タイトルになっています。


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古代ギリシャ彫刻などには、地中から発掘された時、すでに腕が折れてなくなっている作品は数知れず、美術館でそういった腕なし彫刻を見る機会は多分にあります。ましてや、学校などの美術室の石膏像は、トルソといって、腕なしは当たり前の美術常識。しかしそれらはどれも、腕なしを造形として作ったのではなく、結果的に腕が取れてしまったものです。ミロのビーナスも、サモトラケのニケも、もともとはちゃんと腕があった彫刻なのです。しかし、クインさんが作ったこの大理石の巨大彫刻は、腕のない人を作った訳ですから、全く制作意図が違うのです。つまり、美の定義を問い直させる、もしくは、美的プロポーションの常識をくつがえさせる作品と言えるのです。


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ある評論家は「非常に力強く、女性の、生命の、真の美しさを秘めている」と絶賛し、あるジャーナリストは「公然に醜いものを設置した」と酷評しました。そして当の本人は「今まで歴史の中で、障害者は常にアートにおいて不当な扱いを受けてきた。アリソンの像は、女性の強さを表す、新しいタイプのアートなのだ」とコメントしています。


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ラッパーさんは1965年、腕と足が奇形的に短い「アザラシ肢症」という障がいを持って生まれました。生後6週で親に捨てられ、保護施設で育つなど、不遇な幼年時代を過ごしました。17歳のとき、健常者たちと一緒に英国のバンステド大学で美術の勉強を始めました。22歳のときに結婚して幸せな新婚生活を送りもしましたが、夫の暴力に苦しみ、2年間の短い結婚生活を終えたのです。1999年姙娠したラッパーさんは、周囲の人々が「子どもも母親のような障がいを持って生まれるかもしれないし、たとえ子どもを生んだとしても、どのように育てるのか」と言って出産を止めさせようとしましたが、子どもを生むことを決心し、元気な男の子を出産。その後、遅まきながら自分の夢を実現するために美術の勉強を再度始め、ヘドルリ美術学校とブライトン大学を卒業し、手がなくて口で絵を描く画家兼写真作家の道を歩き始めました。写真機で光と影を利用し、自分の裸身をモデルとし、彫刻のような映像を作って高い評価を受けています。腕のない「ミロのヴィーナス」をもじって、自らを「現代のヴィーナス」と呼ぶラッパーさんは、身体の欠陷を乗り越えて肯定的な自分の発展を遂げ、世界の人々から尊敬を受けました。そして、英国の彫刻家マーク・クィーン氏が、臨月のラッパーさんをモデルにした巨大な彫刻作品を、ロンドンのトラファルガー広場に展示して、「モデル」としても有名になったのです。