防災・危機管理アート(23)
「浮玉結び」は四角い物でもOKです。ドロップス缶・・・非常用として吊り下げておくとのもいいですね。
防災グッズを備えていても、部屋のすみっこに追いやられていたり、いざという時にはどこに置いていたかさえ忘れてしまっていたり、実際、取りに行く時間も災害時にはありません。そこで、デザイン的に美しい防災グッズであれば、インテリアとして防災グッズを常備しておけるのではないかと思います。「地震EXPO」が行われて、それらの作品の中から著名デザイナーの佐藤卓氏らデザインや防災の専門家が審査を行い、日常で使いたくなるような防災グッズが発表されました。楽しみながら学ぶ新しいカタチの防災訓練「イザ!カエルキャラバン」では、地震がおこったときは落ち着いて→ガス機器をとめて→復帰ボタンをおして→3分待ちましょう。という復旧方法の手順を、ドロップス缶にイラストで載せました。そんなオリジナル「東京ガス防災ドロップス」を作られました。
「これはイケる!」という予想は的中し、2007年8月に初回注文分が配布されて以来、評判が評判を呼び、これまでに13万個の防災ドロップスの注文が社内からありました。非売品の防災ドロップスは、東京ガスのイベントで、あるいは各部所が営業先などで配布しています。「いろいろな方に防災ドロップスを差し上げると、懐かしいからなのか、受け取った人の顔が明るくなるんです。また、若い人の場合は、寄藤さんのイラストに見覚えがあるらしく、そこに反応されますね。」(担当者)地域によって営業しているガス会社は異なりますが、ガスメーターの復帰方法はどこの会社でも同じ。この点に目を付けた担当者は、防災ドロップスの版権問題をクリアし、他のガス会社も同じ図柄を使える環境を整えました。その結果、東京ガス以外のガス会社でも、防災ドロップスを活用するところが出てきたそうです。
町のインフラを守るためには、社員が被災しないことが前提です。東京ガスの防災に対する取り組みは続きます。新潟県中越沖地震で企業の事業継続の大変さ、そして重要性が改めて認識されました。「地震の際、お客様の安全を守り、ガスのインフラを守るためにも、まずは自分や家族が無事であることが前提です。そこで、社員の家族を含めた被災軽減の取り組みを防災・供給部と広報部が協力して進めようとなりました」そして、密かに「Save Yourself」(まずは、あなた自身の身を守ろう)という社員向けの防災啓発事業に取り掛かったのです。取り組みのポイントの一つは、全社員・準社員約1万人に、毎日携帯できるうえ、防災グッズにもなるオリジナルの大判ハンカチを、9月1日の防災の日に配ることでした。3枚組みのハンカチのそれぞれには、「街のインフラを守ろう」「東京ガスのお客様の暮らしを守ろう」「家族を守ろう」というメッセージが。イラストは、防災ドロップスでおなじみの寄藤さんが、総合プロデュースは、プラス・アーツが担当しました。「実は、もう一点、キャンペーンと連動して、ハンカチの絵と同じポスターを8月の半ば頃から社内に掲示していました。あえて、ポスターの詳細な説明を行わなかったので、9月1日にハンカチとブックレットを受け取った社員は、このとき初めて、ポスターの意図が何であるか理解したはずです」さらに、9月1日発行のグループ内報では、大地震が発生したときに、社員が取るべき役割を紹介。社内の関係するセクションが連携して、防災キャンペーンに取り組みました。「同じハンカチや冊子を配るにしても、各部所に人数分配布し、担当者から配布してもらう方法ではインパクトがないと考え、手間はかかりましたが、社内便も社員・準社員の人数分、約1万通用意し、受け取った方、一人ひとりが興味を示してもらえる方法を考えました」9月1日から4日間、本社では初めて防災フェアを開催し、防災グッズの紹介や、震災体験者の講演会がグループ員向けに行われました。多くの方が参加したそうです。「ハンカチや防災ドロップスを手にした社員からは、会社のことがより好きになったとか、自分の仕事の重要さを再認識したという声が届いています」以前より社会の「しくみ」が人々を動かすと信じていたそうですが、プラスアーツの活動と出会い、アートには、人や社会を変える力があると痛感するようになったといいます。防災ドロップスやSave Yourselfの呼びかけに終わりはないともいいます。「ですから、ポスターにはキャンペーン期間の日付は一切入れていないのです。今後も語り継がれていくべきテーマですから」そう言われて、いただいた防災ドロップスの缶を見て気づくのは、捨てるのがもったいないほどカッコイイ装丁だということです。ドロップスを食べ終えた後の空缶は、ペン立てなどに活用されているそうです。もらった人が愛着を感じるようなグッズであるということは、PRの内容を一過性で終わらせない一つのポイントになると思います。
東京ガスオリジナル「防災ドロップ」は、人気イラストレーターの寄藤文平氏書き下ろしのイラストをドロップ缶にデザインしたもので、ガスメーターの安全機能(震度5程度以上の地震を感知すると自動的にガスを止める機能)と復帰方法をかわいいキャラクターが分かりやすく説明しています。本ドロップの保存期限は製造後3年となっており、非常食としてもご活用いただけます。これに加え、非常時において声を出すことが困難な場合、ドロップ缶を振り、音を出すことで周囲に自分の存在を知らせることも可能であるなど、多様な使い方ができる防災グッズです。
■寄藤文平さん
1973年生まれ。2000年、有限会社「文平銀座」設立。イラストレーションとグラフィックデザインを中心に、広告のアートディレクション、企業や番組のロゴ開発、アニメーション制作などで活躍中。
【主な作品】
・リクルート発行フリーペーパー「R25」表紙イラスト
・JT「大人たばこ養成講座」
・ビオフェルミン製薬 TVCMキャラクター
・『地震イツモノート-阪神・淡路大震災の被災者167人にきいたキモチの防災マニュアル』(木楽舎/2007年4月)