星座(6)
■「ケンタウロス」 ギリシャ神話に登場する、半人半馬の種族です。ケンタウロスの誕生は、イクシオンという名の人間の男が女神ヘラに恋した際、ゼウスが雲を女神の姿に似せて作り、イクシオンとこの雲の間に生まれたとも、2人の間の子供であるケンタウロスが、ペリオン山の近くで牝馬と交わり生んだとも言われています。ケンタウロスは、上半身は人間、下半身は4本足の馬の姿をしているのが一般的ですが、中には下半身が馬の後ろ足2本という姿も伝えられています。ケンタウロスはその姿から、草原を疾走する猛々しくも美しいイメージが強いですが、実際には山岳地帯を住処としています。彼等は主に弓矢や槍、棍棒等の武器を使用します。此は男性的な猛々しさ等を表す他に、「ケンタウロス」という言葉がラテン語で、槍や棍棒を表す由来として有名だからです。彼等は、乱暴・粗野・好色といった性格をしています。しかし、ケンタウロスの中には、ケイロン(Cheiron)のような、賢明で正しく、冷静で道徳心に溢れたモノも存在しました。
ギリシャ神話の中で、こうした乱暴な一面のみを表した彼等の逸話あります。テッサリアの地に住む人間、ラピタイ族とケンタウロス達の間には和睦の条約が結ばれていました。ある時、ラピタイ族の結婚式に呼ばれたケンタウロス達は、初めて飲んだ酒に酔ってしまい、花嫁を誘拐しようとしました。これに怒った、ラピタイ族と戦いになり、彼等はテッサリアから追い出されてしまいました。彼等の起源は紀元前6世紀頃の黒海とカスピ海の北東部に国家を建設していた遊牧民のスキタイ人と言われています。彼等がギリシャの北方地帯のテッサリア地方に大規模な騎兵隊で進入してきた際、この地に住む人々が彼等を見て、半人半馬の怪物が現れたと勘違いしたと言われています。しかし、この説は怪しいとする意見が多く、はっきりとした確証は無いようです。
■ケンタウロス座として描かれているフォロスは、半人半馬のケンタウロス族の青年でした。エリュマントス山の巨大猪を捕獲する最中、勇者ヘラクレスがフォロスの住む洞窟を訪れました。乱暴なケンタウロス族の中でも心優しいフォロスは、ヘラクレスを歓迎し、酒盛りを始めます。するとそこに、酒の香りを嗅ぎ付けた他のケンタウロス族の者達が襲いかかってきたのです。ヘラクレスは、持っていたヒドラの毒が塗ってある矢を放ち、ケンタウロスを射殺しました。フォロスは、他のケンタウロスを一撃で倒した矢の威力に驚き、その矢を手に取り眺めました。しかし彼は手を滑らせて自分の足の上に矢を落としてしまい、ヒドラの毒で死んでしまいました。いて座の馬人ケイロンも同じケンタウロス族でした。ケンタウロス座は、ケンタウロス族の中でも心優しいフォロスの姿だそうです。
■ギリシアの星座を語るとき、必ずといっても良いぐらい引き合いに出されるのが、ホメロスの叙事詩とヘシオドスの星座詩でしょう。しかし、この2人はケンタウロスという怪物を一行も書いていません。彼らより200年後に出た抒情詩人ピンダル(BC52?~ BC443)はケンタウロスを登場させていると言われています。彼は物語に変化を与えるために多くの登場者を詩の中に持ち込んだ人とされています。その頃、農耕文化の栄えたギリシアを脅かす北方民族が、実力をもって侵入を企て始めたのですが、その北方民族は、いち早く馬を運輸手段に取り入れていました。それは、まさに今日で言う騎馬軍団だったのです。彼らは機動性に富み、ギリシア人にとっては恐怖の的となりました。馬にまたがって走ることを知らなかった彼らは、騎兵を人間と馬とに分けず、まさに人馬一体の怪物と感じていたに違いありません。敗戦の言い訳、停戦の口実としても、この怪物を利用したのです。こうして、上半身が人間、下半身が馬というケンタウロスの姿がギリシア人の頭の中に作られたと思われます。ケンタウロス人が住んで居たといわれるギリシアの北方のテッサリア地方は岩の多い荒れ地でしたので、生活していくためには馬が必要だったに違いありません。星座のなかにケンタウロスは1人ではなく2人いるのも興味深いことです。もう1人のケンタウロスは現在射手座として表されています。ケンタウロスは元来粗暴な怪人と考えられていましたが、なかには知性のある者もいたのでしょう。その1人がケイロンでした。射手座のケンタウロスがこのケイロンなのです。
■ケンタウロスには他にも多くの種類があります。
龍と人間の半人半獣 ドラコ・ケンタウロス、牛と人間の半人半獣 プ・ケンタウロス、ロバと人間の半神半獣 オノ・ケンタウロス、獅子と人間の半人半獣 レオン・ケンタウロス、魚と人間の半人半獣 イクティオ・ケンタウロスなど多岐に及んでいます。これらと区別する為に、上で述べた馬と人間の半人半獣を ヒポ・ケンタウロスとも呼びます。
フィレンツェにある「ヘラクレスとケンタウロス」です。しかし、ケンタウロスは半人半馬ばかりだと思っていたら、半人半魚のケンタウロスもあったんですね。
画家コジモの「ケンタウロス族とラピタイ族の戦い」です。ケンタウロスとは個人ではなく、族なんですね。
画家モローの「死せる詩人を運ぶケンタウロス」です。
日本の偉大な芸術家・篠原有司男さんの「ケンタウロス・モーターサイクル」です。