「しあんは平原、くれーるはサラッとしてるだから、そんな野原ってとこかな。」
「しあんくれ~るchamp clair直訳すれば明るい空間、陽のよくあたる場所よ。京都の荒神口にあるJAZZ喫茶なの、知らないの。実際はとても薄暗いお店なんだけど、“二十歳の原点”で有名な高野悦子さんもよく通っていたらしいの。それからね、倉橋由美子さんの“暗い旅”でしょ、李良枝の“ナビ・タリョン”にも登場する魅力的な店。」
私は、高野悦子をまだ読んでいなかった。それぞれの高校時代を語りながら、その部分だけが妙に劣って感じられ、彼女に従うことはためらわれたが、「京都へ行こう」と誘ったのは私の方からだった。明美自身、ボーイフレンドに連れて行ってもらったので道は知らない。店の燐寸を持っているから、なんとか探してよ、と言う。