懐かしい香りに続いて、懐かしい思い出として団扇があります。寝つけない夏の暑い夜、枕元で母が団扇であおいでくれていたのを覚えています。ゆるやかな風と香りにつつまれて深い眠りについたものでした。さて黒田清輝さんの「湖畔」、そんな思い出がよみがえってくる作品です。黒田さんが神奈川県・芦ノ湖で「湖畔」を描いた場所は、観光船の乗り場や箱根駅伝のスタート地点のすぐ近くだったと、東京文化財研究所・黒田記念近代現代美術研究室長の田中淳さんによって、美術史的にも見過ごされがちだった意外な事実が確認されたそうです。