子育ては誰にとっても手探りである。それが「障がい児の子育て」ともなればなおさらだろう。
知らない場所を旅するときにはガイドブックが頼りになるように、「障がい児の子育て」という旅(冒険?)にも、ガイドブックがぜひ欲しい。せめて地図だけでも持って行けたら、いったいどれだけ心強いことか……(しかも、できるだけわかりやすいやつ!)。
そんな親御さんたちの切実な願いを、本書は見事に叶えてくれる。障がい児の子育てにおける最高のガイドブック、いや、「バイブル」ともなりそうな一冊である。
著者のひとりである竹之内幸子さんは、自身が「障がい児のママ」であり、障がいのある息子さんを立派に育て上げた経験を持つ。言わば「障がい児の子育て」の先達である。「そうそう、それが知りたかった!」と思わずひざを打つ内容は、彼女の実体験があってこそだろう。
子育ての悩みや不安を、「毎日やってくるアドベンチャーだ!」と笑いに変えてきたという竹之内さん。そんな彼女の明るさの秘訣が、本書にはぎっしり詰まっている。
そしてもう一人の著者である田中佑樹さんは、「障がい者就労支援のプロ」である。就労は、自分で生計を立てるための現実的な手段であり、一面においては「子育ての出口」とも言えるだけに、親御さんにとっては大きな関心事のひとつだろう。その点を、「企業のニーズを熟知し、障がい者一人ひとりの希望や個性とマッチングさせてきた現場のプロ」がしっかり押さえてくれている。このことが、本書の実用性をより高めている。
ちなみに、「就労支援のプロ」というと、「とにかく『就職させること』しか考えてないんじゃないか」と思われる方もいるかもしれない。だが田中さんのスタンスは全く異なる。彼は自身の考える「支援」について、次のように語っている。
「『本人の行きたい方向に行くために、ともに考えること』、これが支援です。支援者がここに連れて行ってあげたい、という場所に本人をお連れするという話ではありません」
このような「支援」の大切さは、なにも「障がい者」に限ったことではないだろう。そして本書を読んでいると、このように「あれ、これって障がいのあるなしに関係なく、めっちゃ大事やな……」ということが、とてもたくさん出てくるのである。たとえば、竹之内さんの次の言葉もそのひとつ。
「私はずっと、働くというのは『人に喜んでもらってナンボだよ』と教えてきました。どんな作業をするかより、喜ばれているかが大事」
会社で日々の業務を淡々とこなす中で、この言葉にハッとさせられる人も多いのではないだろうか。そして部下を持つ上司には、彼女のこの言葉も役に立つと思う。
「もちろん、子どもに任せると面倒なことも増えます。でも、一時的には面倒でも、ちょっとだけ先を見据えて、まずはやらせることが大事です。将来的に本人ができることは、ちゃんと習慣化できるように身につけてあげたいですからね」
子どもの育て方は、部下の育て方にも通じる。どちらも簡単なことではないが、いつもとちょっと違う視点を持つことで、案外スッと実践できるようになるかもしれない。
さらに本書は、人生論に通じる側面も持っている。
「どの選択をしたとしても、せっかく行ったからには『そこで何を得られるか』もお子さんと一緒に考えられるといいですね」(竹之内さん)
人生は選択の連続である。その中で「ああ、こっちじゃなかった!」と思うことだってあるだろう。けれどもそこで過去を悔やみ続けるのではなく、『そこで何を得られるか』を前向きに模索する。こうした考え方の大切さも、障がいのあるなしには全く関係がない。
あと、苦手なことが多い人や、得意なことを活かしたいという人には、田中さんのこの言葉も響くだろう。
「たとえ集中力が切れやすいという特性を持っていたとしても、絵描きになるという夢があれば、毎日、何時間も好きな絵を描き続けるかもしれません。つまり、私たちは夢や目的が明確で、それを叶えたいという思いが強ければ強いほど、弱点を克服するきっかけになるのです」
やりたいことを続ける過程で、苦手なことが克服されていく。この考え方は、僕にとって目からウロコだった。
正直な話、そのへんの自己啓発本を読むより、本書を手に取るほうがよっぽど実りがあるのではないか。「そんなわけないやろ」と思われるかもしれないが、そこにはもちろん理由がある。
というのも、人が生きる上で大切なことは、本来とてもシンプルなことのはずだ。そして本書は「障がい」というフィルターを通すことによって、結果的にその「本質」の部分だけが見事に抽出されているのだ。
そしてそれを可能にしたのは、「支援する側」と「支援される側」を分け隔てるのではなく、その共通点に目を向ける彼らの考え方だろう。障がい児の成長をサポートするためには、サポートする支援者も共に成長しなければならない。そして実はお互いの存在が、お互いの成長を支えている。そのことに本書は気づかせてくれる。
「『自分の人生をより良くしたい』という要求は、障がいのあるなしに関わらず、誰もが持っている健全な欲求です。その意味では、支援する側も、される側も共通した思いを持っているのです」(田中さん)
障がいや子育てとは関わりがないという人が読んでも、生き方のヒントを汲み取れるだけの深みがある。読み終わったあと、「すげー本やな」と思わずつぶやいてしまった。
だが何より本書の出版は、障がい児に関わる人たち、そして子育てに四苦八苦する全ての親たちにとって朗報と言える。わからないことだらけの子育ての中でも、「知ってしまえば全く心配いらない」ということはたくさんある。
「とりあえずこれを読んでおけば大丈夫」と言える一冊の価値は、個人にとっても社会にとっても計り知れない。自信を持っておすすめしたい、掛け値なしの良書である。
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