行きつけの喫茶店のスタッフさんにすすめられて買った漫画。
若い頃に抱いていた閉塞感、生きることに対する切実さ、思いのほか身近にある〝悲劇〟を思い起こさせてくれる傑作だと思った。
主人公は若草ハルナという少女だが、彼女をとりまく登場人物はみな個性的で、読む人によって誰もが主人公となりうるほどの存在感を放つ。
平凡に見える学校生活の中で、着々と進んで行く悲劇への準備。河原のヤブに転がる白骨死体。物語は序盤から死の臭いを漂わせる。
あの頃、死はもっと身近にあった。その身近さは、若くて強い生命力の裏返しだったのかもしれない。その生命力が躍動することなく閉じ込められた、この世界。魂の牢獄。それを作者は「平坦な戦場」と表現する。
そこを〝無事に〟くぐり抜けた人間が大人になる。死は遠ざかる。だがその時、魂はまだ生きているだろうか。
「なんでこんなところにいるんだろう?」
物語のトリックスターである山田君は、水族館の水槽に閉じこめられた魚たちに、自分の姿を見る。
作者の魂が込められた作品に、外部の評価など何の意味も持たない。魂を水槽に閉じ込めることはできない。時間も空間も超えていく作品というのは、そういうもののことだろう。