なぜ大阪人は『探偵!ナイトスクープ』の司会が松本人志になったことに不安を感じるのか | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」

ちょっと話題に乗り遅れた感は否めないが、『探偵!ナイトスクープ』の司会が西田敏行から松本人志にバトンタッチされた。

 

この人事(?)には賛否両論あって、長年のナイトスクープファンは、おそらく不安と期待の両方が入り交じっている状態なのではないだろうか。

 

しかし、お笑いの世界で頂点を極めたように見える松本人志(以下「松っちゃん」)が司会なんて、願ってもないことではないか。しかも彼は長年のナイトスクープファンを公言している。にもかかわらず、僕たちを不安にさせているものは一体何なのか。そこには、お笑い番組の歴史を語る上で欠かせない「対立構図」が影響を与えているような気がする。

 

まず、僕らの世代(ロスジェネど真ん中です)が最初に見たお笑い番組と言えば、ドリフターズの『8時だョ!全員集合』だろう。そしてそれと双璧を成していた人気番組が『オレたちひょうきん族』である。ここからビートたけし、明石家さんま、島田紳介らのスターが羽ばたいていったのはご存知の通り。これらは互いに裏番組だったので、熾烈な視聴率合戦を繰り広げることになった。

 

当時僕は小学生だったけれど、友達の間でも「ドリフ派」と「ひょうきん族派」に分かれていた。確かにこの2つの番組のテイストは違っていて、どちらかというと「ドリフ」は家族みんなで楽しめる笑い(それにしても当時としては過激で「子どもに見せたくない番組NO.1」と評されていた気がする)で、「ひょうきん族」はエッジの利いた笑い、どこか暴力性(今で言うといじめ的な要素か)を孕んだ笑い、という印象があった(ちなみに僕はドリフ派でした)。

 

そしてこれと似た構図を再現していたのが、『探偵!ナイトスクープ』と『クイズ!紳助くん』である。これらは互いに裏番組ではなかったと思うけれど、明らかなライバル関係にあって、年末にはそれぞれの番組の傑作VTRで対決する合体特番が放送されていた。さきほどの構図と重ね合わせると、「ドリフ=ナイトスクープ」VS「ひょうきん族=紳介くん」である(ちなみにここでも僕はナイトスクープ派)。

 

「ナイトスクープ」は、素人の面白さを最大限に引き出す構成が大阪人に愛された。素人を生かすことが大事なので、番組の雰囲気全体がなんとなく「やさしい」のである。一方で「紳介くん」は、司会の島田紳介の芸風もあって、必然的に「イジリ」的な要素が前面に出て、僕はあまり好きではなかった。しかしそれがうまくハマると、抜群に面白いネタに昇華される爆発力があった。だから年末の傑作VTR対決では、たいてい「紳介くん」の圧勝となったわけである。

 

さて、話を元に戻そう。

 

なぜ「ナイトスクープ」の司会が松っちゃんになったことに不安を感じるのか。もうお分かりの通り、松っちゃんは「ひょうきん族」系のお笑いであり、「紳介くん」系の芸風だからである。それはある意味で「ドリフ」系や「ナイトスクープ」系のお笑いと対立する。そこにみんな不安を感じているのではないだろうか。

 

だが、松っちゃんは前述した通り「ナイトスクープ」を大リスペクトしているそうなので、おそらくその良さは消さないように務めるのだろう。それができなければ、既存のファンは離れるだろうし、松っちゃん的にも残念なことになるに違いない。しかし松っちゃんがただ淡々と司会をこなす姿など想像できるわけがない。

 

番組が変わるのか、松っちゃんが新境地を見出すのか。僕はぜひ後者を見てみたいものである。それが結果的に、番組を絶妙なマイナーチェンジに導くはずである。