手書きの文字というのは不思議だ。
みんな学校で、
同じ見本を見ながら、
同じ文字を修得したはずなのに、
みんな違う文字を書く。
いま、ある仕事で、
ものすごくたくさんの人の
手書きの文字を眺めている。
それがいちいち、それぞれ、違うのだ。
にもかかわらず、
その文字が読めてしまうのは、
考えてみれば不思議なことだ。
……いや、
たまに読めない文字もあるけれど(笑)。
「文字」という言葉は
「知性」の衣をまとっているけれど、
手書きの文字は明らかに
「身体性」が生み出している。
「お母さん」という文字の連なりは、
誰が書いたとしても「お母さん」を意味するように、
記号としての文字は普遍性を持っている。
でも手書きの文字としての「お母さん」は、
その書き手に固有の文字である。
「筆跡鑑定」によって
ほぼほぼ個人が特定されるという事実は、
そのことを端的に表している。
この「普遍性と固有性の併存」ということが、
「人間」と「社会」の関係を考える上で、
本当はとても大切なことなのだと思う。