パソコンで「文筆」という文字を打とうとしたら、
誤変換されて「分泌」という文字を打ってしまった。
ありゃま。
……しかし、待てよ。
文筆する……。
分泌する……。
よくよく考えてみれば、
「文筆すること」とは、結局のところ、
「分泌すること」なのではなかろうか?
試しに辞書で「分泌」を調べると、
「生体が細胞から特有の代謝産物を排出すること」
(『デジタル大辞泉』小学館)
と書かれている。
そして文章とはつまるところ、
「人間から排出される代謝産物」である。
特に誰にも頼まれてないのに
勝手に文章を書いているような人間は、
実際には自分の精神の健やかさのために
代謝行為を行っているにすぎないのではないか。
少なくとも僕はこのことを否定しない(笑)。
それは運動すると汗をかくような、
自然な代謝作用の一環なのではないか。
つまりこれを読んでいるあなたは、
僕の分泌物を読まされているわけだ。
……なんだかとても
申し訳ない気持ちになってくる。
ちなみに辞書の「分泌」の説明には、
次のような続きがある。
「ホルモンなどを体内に出す内分泌と、
汗などを体外に出す外分泌とがある」
これも無理やり
「文筆」とつなげてみましょう。
僕らが心に思うことというのは、
言わば「心の中への文筆(分泌)」であり、
体内に出す「内分泌」に呼応する。
それに対して文字や言葉として表出するものは、
言わば「体の外への文筆(分泌)」であり、
体外に出す「外分泌」に呼応する。
もはや疑う余地はない。
「文筆すること」は
「分泌すること」なのだ。
「文筆家」は実のところ、
「分泌家」と名乗らなければならなかった。
名刺にはこう書かれるだろう。
ーーーーーーー
分泌家
杉原 学
ーーーーーーー
……なんだかものすごくツラくなってきた。
やっぱり今日書いたことは全て忘れてほしい。
僕も忘れることにする。
今日のは実に余計な分泌物だった。