哲学の冒険―生きることの意味を探して | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
哲学の冒険―生きることの意味を探して (平凡社ライブラリー (294))/内山 節

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学校の講義で習うような
いわゆる「哲学学」ではない。

ここで語られるのは、
現代を生きる僕たちひとりひとりが、
なにを問題にしなければ
ならないのかを明確に提示する、
まさに民衆の視点による哲学である。

 平易な語り口ではありながら、

「すべてを疑っている自分だけが
 確かに存在している、というデカルトの
 考えが正しいかどうかは、
 どうでもよいことだと思う。」

と過去の哲学の権威を
一刀両断する部分は爽快である。

そのうえで、

「僕が強く思うことは、
 この頃哲学者たちは、
 すべてを疑わなければならなく
 なっていたということだ。」

と述べ、あくまで
「その時代に生きる人間の精神」
を問題にしているところに
著者の哲学の神髄があるように思う。

「偶然の必然への転化を
 実現する力が、人間たちの力」

という言葉は、今回の震災からの
復興を目指す私たちへのエールのようにもみえる。
いま僕らが目指すのは、単純にこれまでの
延長線上にある経済復興ではなく、

「人間の自由とはなにか」
「人間の幸福とはなにか」

といった哲学をふまえた
「人間の復興」でなければならない。

【引用メモ】

ところが、ほんとうの自由とは何か、を考えることのできるような精神の自由を、誰もが失っているんだな。いまでは自分は不自由だと思える人の方が、精神は自由なんだと思うね。(p17)

自分さえ解放されれば他人などどうでもよいというのも誤りならば、他人を救うために自分が犠牲になるという考えも誤りだ。/この悩んでいる自分の姿こそ、すべての人たちの姿だと親鸞は考えている。自分を解放することと他人を解放すること、そのために社会を変革すること、この三つは同じことでなければならないと思う。だから哲学は、すべての人たちのものになることができるんだ。(p57)

僕はそこからルソーを読み直してみた。そうして、成功物語を追い求めた人々の精神こそ近代以降の戦争と悲惨の原因であったことを知った。(p115)

しかしこのような消耗し、頽廃のなかに身をおとしている人たちこそ、もっとも未来を求め、新しい哲学を探して苦悩しているのだ。そうしてその苦悩から生まれてくるのが存在論的社会主義とでもいうべき、近代革命の担い手たちの思想だった。/近代革命の担い手たちは自分の労働がいかに矛盾に満ちたものであるかを考えていた。(p148)

もしある哲学が絶対的な真理だということになったら、人間がその哲学に命令されるというおかしなことが発生してしまうではないか。(p160)

哲学は真理である必要もないし、理論体系である必要はますますないと思う。ただの人間学であるべきだ。(p160)

人間の理想を信じられない人ほど不幸な人はいない。それまでも理想を信じることのできない生き方をしてきたのだろうね。きっと彼らは子供の頃から、ちょっとだけ上をみながら生きてきた。そうなったのも、自分の生きてきた歴史に不満がありすぎたからだろうね。つまり不満を少しでも解消する方法ばかりに眼を奪われる、だから理想を信じられない、そのくらい不満だらけの人生を歩んできたのだろうね。(p179)

なあ、組織っていうのは人間がつくったものだろう。いまでは国家も組織のひとつだし、企業=会社も組織のひとつだ。組織が人間のつくったものであるとするなら、何か不都合なことがおきたときには、人間を犠牲にするのじゃなくて組織の方を変えていくべきだと思うだろう。ところが現実には逆のことがおこなわれる。組織を維持することが目的になって、そのために人間が犠牲にされるようになる。(p181)

僕は社会っていうのは仏像みたいなものだと思うな。仏像だって、それがあるだけならただの彫刻でしょう。ところが人間たちがその彫刻を拝みはじめる。そのことによってただの彫刻が仏様になっていく。つまり彫刻を仏様にしてしまったのは人間の精神でしょう。/お金だって、ただの金属か紙切れにすぎないものを本物のお金にしてしまったのは人間たちの精神でしょう。お金なんかたいして意味のないものだと人間たちが思っていたら、いまほどお金がすべてのことの中心になることはないよね。(p195)

人間の生は永遠の歴史のなかの一瞬にすぎず、しかしそれが絶対的なものだという人間の生の二面性と矛盾、哲学はこの矛盾を解決しようとしてはじまった「学問」ではないかといま僕は思っている。/だから哲学にもつねに二面性があるのだと思う。歴史がどんなに変わっても変わることのない人間の生き方を探しだそうとする面と、歴史の変化のなかで生きる一時代的な人間の問題を探るという二面性が。(p211)