かなり以前の動物写真雑誌に載っていた、
写真家・星野道夫さんの奥さんが書いた文章。
ちょっと長いが、とってもよいので、
ここに引用させてもらいたい。
~夫、星野道夫がくれた忘れられない言葉
「本当に好きなことだったら絶対に大丈夫だよ」~
文章=星野直子
私が夫と出会ったのは、1991年の暮れでした。
彼はアラスカの自然や動物について、
撮影のエピソードなどをいろいろ話してくれました。
私は初めて聞くアラスカの話にどんどん引きこまれ、
彼の活動や作品に興味を抱きました。
いまも忘れられないのは、
最初に出会ったときの彼の目です。
その目は少年のように澄んでいました。
私はしだいに純粋で温かな
人柄にも魅かれはじめました。
あるとき、「夢」について聞かれたことがありました。
当時、私は会社に入って2年目のOLでしたが、
本屋で偶然手にとったフラワーアレンジメントの
写真集を見たことをきっかけに、
花に関する仕事にあこがれを持っていました。
花々の美しさに心を動かされ、
フラワーアレンジメントの勉強をしたい、
そしていずれは花に関する仕事に就けたら
どんなに幸せだろうかという
漠然とした思いを募らせていたのです。
しかし、私は夢を実現するための
第一歩を踏み出せないでいました。
なぜなら、自分にはデザインの素質があるのか、
自信をもてなかったからです。
そんな私の夢を黙って聞き、
相談に乗ってくれたのが夫でした。
そして彼はさりげなくアドバイスを与えてくれました。
「本当に好きなことだったら絶対に大丈夫だよ」
私はそのひと言に勇気をもらい、
勤めていた会社を辞めて
フラワーデザインの学校に通うことになりました。
また、その頃にもらった手紙には
こんなことが書かれていました。
「自分の一生の中で何をやりたいのか。
そのことを見つけられるということは
とても幸せなことだと思います。
あとはその気持ちを育てていくことが大切です。
育てていくということは勉強していくことで、
本を読んだり、人と出会ったりして、
自分の好きなことをもっともっと
好きになることだと思います。
そんな気持ちの前では、
才能なんて小さな小さなことです。
長い時間の中ではさらにそうです。
ですから自信をもって進んでください」
いま、その手紙を読み返してみると、
それは私に向けられた助言であると同時に、
アラスカというテーマに取り組み続けた
彼の姿勢を言い表しています。
「はじめて会ったときから、
長年付き合ってたかのような親近感をおぼえた」
と、夫と出会ったたくさんの方が
おっしゃいます。私もそう感じていた1人です。
いつも飾らぬ自然体で、少年のような
純粋な気持ちをもった温かな人間性。
ユーモアがあり、よく人を笑わせて
楽しい気分にさせてくれた夫は、
どんな状況の中でも物事をネガティブにとらえず、
プラス思考で前向きに考えていく人でした。
だからこそ、夫はたくさんの人を愛し、
たくさんの人から愛されたのだと思います。