※今回から試験的に神視点にしてみます!!
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剣を目の前に差し出され、郁里は戸惑うばかりだった。
郁里「どう、しろと・・・・・・」
宋江「剣を、手にとって」
ニコニコとしながら、剣の柄を握るように、と突き出す。
にこやかで物腰柔らかだけれど・・・宋江には有無を言わせないような空気があった。
郁里は仕方なしにおずおずと剣を取る。
宋江「史進(シシン)が相手をするから」
史進「・・・・・・」
郁里の正面に一人の男性が立つ。
史進「おい、抜け。・・・・・・戦えないだろう」
郁里「え・・・あ、は、はい・・・」
鞘から剣を抜け、という意味を理解するまで数秒かかる。
鋭い刃先が、太陽の光に反射した。
(剣って、こんなに重いんだ・・・・・・)
剣先が重さのせいでぐらぐらと揺れる。
史進「・・・・・・行くぞ」
史進が一歩踏み出したときだった。
呉用「お待ちください」
呉用の声が響き、郁里の前に立つ。
宋江「ほう・・・・・・なんだい」
呉用「この女は剣の握り方も知らない様子。史進と対峙するまでもありません。時間の無駄です」
呉用はそう言うと、郁里の手から剣を奪った。
宋江「ふふふ。立ち会いを止めるのは林冲あたりの役割だと思っていたが、あてが外れたよ」
呉用「・・・・・・」
宋江「郁里さん、貴女が剣すら持てないことは、今のでわかった。試すような真似をして済まなかったね」
郁里「い、いえ・・・」
宋江「今日は、部屋に戻ってのんびりしているといい」
そう言うと、宋江は林冲や史進たちと共にその場を去っていった。
郁里「・・・どういう、ことですか」
呉用「君が間者、もしくは宋江様の命を狙う者なら、この好機は逃さない。剣を握らされたら、後のことなど考えず宋江様を殺すことを試みるだろう」
(そんな・・・殺すだなんて・・・・・・)
呉用「しかし、君はどう見ても剣を握ったことはない。剣を持つ手もずっと震えていた」
(・・・見られていた・・・・・・)
呉用「全く・・・あの方も、無茶をなさる・・・。いや、それだけ皆を、信じていらっしゃった、というわけか。・・・・・・私には、それが足りぬ」
呉用がため息交じりにつぶやく。
どういう意味かを考える余裕すらなく、郁里はその場にペタリと座り込んでしまった。
呉用「・・・・・・大丈夫か」
郁里「こ・・・・・・怖かった・・・・・・」
呉用「・・・・・・・・」
呉用が少し、目を見開いた。
呉用「怖かった・・・・・・?」
郁里「剣を持ったのなんて、初めてで・・・刃物を向けられるなんて経験も無いから・・・・・・」
切れ味のよさそうな剣をつきつけられて、完全に足がすくんだのだった。
(震えが・・・・・・)
呉用「・・・・・・そうか」
呉用はそう言うと、郁里の隣に座った。
郁里「呉用さん・・・・・・?」
呉用「・・・刃物をそこまで怖がる者を、私は知らない」
郁里「え・・・・・・」
呉用「だから、君の恐怖も、理解しがたい」
郁里「・・・・・・」
呉用「だが、君に恐怖を与えたのは私の責任だ。だから、和らぐまでそばにいようと思う」
郁里「・・・・・はぁ」
(変な人・・・・・・でも・・・・・・不器用な気遣い・・・・・・)
冷たい表情の奥底に、呉用の本当の優しさが隠れていて、それがちょっと顔を出したのだろうか。
呉用と並んで座っていると、郁里は不思議と落ち着いてきた。
呉用「本当に間者ではないようだな」
郁里「間者、とか、命を狙うとか・・・何のことだか、さっぱり・・・」
呉用「その言葉に嘘がないこと、信じよう」
それから、郁里の顔を見つめる。
呉用「それにしても、なぜ、君はここに来たのか。目的は一体なんなのか」
郁里「・・・分かりません」
呉用「記憶を失った、という訳ではないのだな?」
郁里「はい、元いた世界のこともしっかりと覚えています」
呉用「きっと、君が来たことには理由がある」
(・・・・・・)
呉用「誰かの・・・・・・ため、かも知れぬ」
小さく、呟くように呉用は言った。
郁里の素性を本気で詮索しているようでもなく、彼女の気持ちが落ち着くのをゆっくり待っている、そんな感じだった。
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ーーどのぐらい、そうやって、座っていただろうか。
呉用は郁里の様子を見て、ゆっくりと立ち上がった。
呉用「そろそろ、戻ろうか」
郁里「・・・・・・はい」
先に呉用が立ち上がり、郁里もそれに続こうとしたそのとき。
・・・・・・おずおずと郁里の目の前に手が差し出された。
(え・・・・・・)
見ると、呉用の顔はわずかに赤くなっていた。
呉用「・・・・・・立ちづらいかと思ったんだが」
郁里「・・・・・・ありがとうございます」
そっと呉用の手を取り、立ち上がる。
すぐに手は離されたけれど・・・・・・郁里の心の中には何か温かいものが広がっていくようだった。
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二人が部屋に戻る道すがら。
やけに騒がしい屋敷の前を通り過ぎようとしていた。
阮小五「あっ、先生!」
阮小五が二人を見つけて走ってきた。
呉用「・・・・・・何があった」
阮小五「実は・・・間者を捕まえまして」
呉用「何だと?」
阮小五「宋江さまの部屋に忍び込んだところを、林冲さんと宋江さまに見つかったんです」
呉用「どこの間者だ?」
阮小五「それはまだこれから・・・」
呉用「分かった。私も後から向かおう」
阮小五が軽く頭を下げて、その場を去っていった。
呉用は小さく息をついて、再び歩き出す。
郁里「あの、間者って・・・?」
呉用「梁山泊の弱味を握ろうとしているものがいるということだ」
郁里「梁山泊は誰かに狙われている、ということですか?」
呉用「何をのんきな・・・君もその間者の一人と疑われていたのだ。梁山泊をつぶそうというものが数多くいることくらい、憶測できるだろう」
(言われてみればそうか・・・)
呉用「頭は使え。使わぬ頭は、ただの肉の塊だ」
(そこまで言わなくても!・・・でも、梁山泊って・・・・・・一体、どういう場所なの?)
郁里が疑問に思ったその時。
近くの部屋から、うめき声が聞こえた。
(今のは・・・・・・?)
なんとはなしに覗き込もうとした郁里を、呉用が後ろから抱きとめ、目をふさいだ。
郁里「んっ・・・あ・・・・・・・・・・っ!」
呉用「だまれ。耳もふさいでおけ」
郁里「え・・・・・・」
郁里はよくわからないまま、言われたとおり耳をふさぎ、その場を移動する。
少し離れたところまで来て、ようやく体が解放された。
郁里「一体、何を・・・・・・」
そう問いかけようとしたとき、遠くから身の毛がよだつような叫び声が聞こえてきた。
(今のって、私たちが来た方向から響いてきたよね・・・・・・)
呉用を見ると、複雑そうに表情を歪めている。
呉用「・・・間者が尋問を受けているんだ」
郁里「尋問・・・」
呉用「君が受けたような、生やさしいものではない」
絶命してしまいそうな叫び声が、断続的に続く。
郁里はそれで全てを察した。
呉用「・・・女が見るものではない」
(それで目をふさいでくれたの・・・・・・?)
<選択肢>
1:ありがとうございます
2:平気なのに
3:優しいんですね←5UP
郁里「優しいんですね、呉用さんって」
呉用「・・・き、君のためではない。”どんな理由があっても暴力はダメ”などと騒がれても面倒なだけだからな!」
郁里「それでも・・・優しいです」
呉用「・・・・・・ふん。女は扱いづらい・・・・・・」
口ではそっけなく言っているものの、呉用の頬はわずかに赤くなっているのだった・・・・・・
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呉用の部屋に戻ってきた二人。
郁里は早速、書物を手にとりながら尋ねる。
郁里「書物の整理の続きをすればいいですか?」
呉用「いや・・・・・・その前に」
呉用は郁里を座らせると、何かを探し始めた。
呉用「・・・・・・これだ」
そう言って呉用が差し出したのは、短剣だった。
郁里「これは・・・・・・」
呉用「護身用に常に身につけておくといい」
郁里「えっ・・・・・・」
呉用「梁山泊内は安全が確保されている・・・と言いたいところだが、間者が入り込んでいるような状態だ。いつ、危険にさらされるか分からない」
郁里「でも、使えるかどうか・・・」
呉用「何も考えるな。危険を感じたら鞘を払い、相手に向かって突き出せ」
郁里は短剣を受け取った。
(包丁くらいの大きさなのに、ずっしりとした、怖い重み・・・・・・)
短剣は、先ほどの剣ほどではないけれど、やはり人を刺すためのものだ。
(自分がこんなものを手にするなんて、思いもしなかった・・・)
呉用「どうした」
郁里「いえ・・・ありがとうございます」
呉用「・・・何か不安でもあるのか?」
郁里は、今の自分の気持ちをどうしたら呉用に理解してもらえるか考えた。
(そうだ、なら、彼の立場に立って、私のことを伝えてみよう)
郁里「ええとですね・・・・・・私は今まで、武器を持たなくていい社会にいました。だから、誰かを傷つけるかもしれないものを、こうして持つと、恵まれたところに住んでいたんだなって思って・・・」
呉用「・・・帰りたいか」
郁里「・・・もちろん」
呉用「・・・だろうな。だが、そのためにも君はここで生き延びねばならない。その剣は、帰るためのおまじないだとでも思っておけ」
郁里「おまじない、ですか。・・・・・・そうですね、そう思っておきます」
呉用「ああ」
郁里「・・・・・・本当は」
呉用「ん?」
郁里「この世界も、武器を持たなくて済む社会になると・・・住みやすいのにな」
呉用「・・・・・・」
郁里の言葉に、呉用が複雑そうな表情を浮かべた。
郁里「あ、ごめんなさい。変なことを言いました。忘れてください」
呉用「いや・・・・・・」
呉用はその後もずっと、複雑そうな顔をしていた。
その悩み多い青年の顔を横目に、郁里は書庫の整理を黙々と手伝い続けるのだった。
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あれから、数日が経とうとしていた。
一体ここが、どんな場所でどうして自分はここに来てしまったのか・・・
郁里には相変わらず分からない。
分かっていることといえば・・・
呉用「・・・どうかしたのか?」
郁里「え・・・・・・」
呉用「先ほどから、手が止まっている」
郁里「あっ・・・ごめんなさい!」
書きものをしていた呉用に注意されて、郁里は慌てて手を動かし始めた。
文机に向かったまま、呉用が尋ねてきた。
呉用「何か・・・気になることでも?」
(最近、はっきりと分かったこと。少し、呉用さんが優しくなったこと。そのせいか・・・彼の背中が・・・ちょっと気になる)
呉用「疲れたのだろう。茶を淹れようか」
郁里「あ、なら私が淹れます」
呉用「私がやる。座りなさい。菓子も用意しよう」
郁里「は・・・・・・はい」
そう言って呉用が奥の部屋に立つ。
(毎日、必ず一回はこうしてお茶の時間を作ってくれる。私・・・それが、少し楽しみになっている・・・・・・)
郁里「あの、お茶くらい私だってできます」
呉用「知っている」
奥の部屋から声だけがする。
郁里「なら・・・・・・」
呉用「やらせてくれ。私にとっても、いい気分転換になっているのだ」
(えっ・・・どういう意味・・・・・・?)
何気ない一言に、郁里はなぜか心臓がドキドキしてくる。
姿を見せない呉用に向かって、郁里は緊張を隠すように関係ない話を振ってみた。
郁里「呉用さん」
呉用「なんだ」
郁里「梁山泊って、何をする集団なんですか?」
呉用「・・・・・・・・」
郁里「ただの乱暴な人たちの集まり、ってわけでもなさそうですし、宋江さんを中心に、いくつもの部署が連携して上手に組織を運営しているようですし・・・・・・」
奥の部屋から、顔だけ見せる呉用。
呉用「そこまで気づいているなら、話してもいいだろう」
そう言って、お茶とお菓子をお盆に乗せて、机の前に座った。
呉用「・・・我々は今、国を正そうとしている」
郁里「国・・・?」
呉用「この宋という国は長年の膿を孕み、腐敗してしまった。それを正常な状態に戻したいと願ったものが、この山に集ったのだ」
(宋・・・・・・ここは・・・私の世界で言う、中国のこと?)
郁里「国を、武力で正すんですよね」
呉用「ああ」
郁里「ということは・・・革命ということですか?」
呉用「革命・・・そうだな、そう考えてもかまわない」
呉用は話を続ける。
呉用「新しく住みよい国をつくる。梁山泊はその足がかりだ」
郁里「呉用さんが良い国を作る、ということですか?」
呉用「私が・・・?いや、私は誰かの補佐でよい」
郁里「どうして?理想があるなら自分の手でって思うんじゃないかな」
呉用「・・・私には人望がない」
(人望?)
呉用「私などより素晴らしき人格者が指導者になればいいのだ。よき指導者がいれば、国は必ず良い方向へと向かう」
郁里「例えば、宋江さんとか、ですか」
呉用「あの方も、もちろん素晴らしい指導者だ」
そう話す呉用。でも、不意にその表情が苦しげなものにゆがんだ。
呉用「私は・・・一度、指導者となるであろう方を、殺してしまった」
郁里「え・・・・・・」
(殺した、って・・・・・・)
呉用は表情を殺していたが・・・・・・目は悲しげだった。
(この人は、何かを背負って生きているんだ・・・)
郁里は呉用から目が離せなかった。
不意に、呉用も郁里を見つめる。
視線が絡み合い・・・・・・
戴宗「・・・っと、英雄は好機に登場!ってな。相変わらずお熱いことで、お二人さん」
郁里「た、戴宗さん!?」
戴宗「よお、子猫ちゃん。この朴念仁に接吻くらいはさせてやったかい」
郁里「な、な、そんなわけ・・・・・・!」
呉用「・・・何用だ、戴宗」
呉用が冷静に返す。
戴宗「邪魔されたぐらいで機嫌を損ねるなよ。大人げないぜ」
呉用「・・・・・・無駄話をしに来たわけではないだろう」
戴宗「いやだねぇ、せっかちは」
呉用「お前が冗長なのだ」
戴宗「実は・・・まずい情報が入った。例の間者がどこの手の者か分かった」
呉用「・・・想像の範疇か?」
戴宗「おそらく、な」
呉用「ふむ・・・・・・」
呉用の真剣な表情を見て、郁里は無意識に短剣の位置を確認していた。
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やっぱ完レポのがラクかな(笑)
今回は、呉用さんがヒロインちゃんに短剣を渡すところで萌えました。
なんか、深いというか・・・現代に生きてると、「生き延びる」なんてシチュエーションに出会わないからね。呉用さんの一言一言が、なんだか心に残りました。
やっぱイイよ、このアプリ!!