名取事務所で上演された『追熟しない果実』を、吉祥寺シアターで観てきました。
【脚本】横山拓也
【演出】西本由香
【出演】竹下景子、松本紀保、枝元萌、西尾友樹、八頭司悠友、森尾舞、西山聖了
iakuの横山拓也さんの戯曲を、西本由香さんの演出で。名取事務所の森尾舞さん、劇団チョコレートケーキの西尾友樹さんも出演。
この組み合わせ、何気に好きなものが合体した感じで、楽しみにしていました。
横山さんの作品に、圧の強い西尾さんと森尾さんがどんなふうに息づくのか……。
舞台は、ニホンザルが生息する山あいの町にある食堂「つどい」。
1年前にマスターの嘉瀬原浩一が亡くなってから店は休業、浩一の妻嘉瀬原律子は、一人で暮らしている。
外来種との交雑によって生まれたサルを保護する施設が、財政難などから存続の危機にある。施設から逃げ出したサルによる農作物の食害も起きていて、保護するのか、駆除するのかという問題が生じている。
そこに、休業中の食堂「つどい」を再開しようと、大阪からの甥夫婦がやってくる。地元で暮らす人たちは、彼らをすんなり受け入れられない。
サルの保護と駆除、移住者への反感、災害からの復興、地域の衰退、そして無意識の差別。
さまざまな問題が幾重にも絡み合っているのですが、描かれるのは、あくまでも日常の延長にある人間関係です。
社会的な問題を扱いながらも、決して難しい話にしてしまわない。笑いが多く、人と人とのやりとりを通して、問題の根っこが少しずつ見えてくる。
見事な脚本だと思いました。
甥夫婦を演じたのは、西尾友樹さんと枝元萌さん。
最初の圧に驚きました。
これでは地元の人たちに受け入れられないよ、と思うだけでなく、私自身、最初はとまどいを覚えてしまうほど。
悪気はないのだけれど、笑いとツッコミで物事を丸めようとする。その感じはなんとも面白い。
そして、そんな2人を排除しようとする町議会議員の奈央(松本紀保さん)とのやりとり。
「つどい」が奈央にとって癒やしの場所になっていて、奈央は彼らを受け入れようとしない。面白さの中にも緊張感があって、そうだよなあ、この3人だもんなあ、とも思ったり。
奈央は、交雑種のサルを保護する活動をし、議員としては、町長によるハーフの子どもへの差別的な発言を非難している。
それなのに、よそから来た甥夫婦に対しては、最初から反感を持ち、受け入れようとしない。
差別はいけないと主張しながら、自分自身も相手を決めつけ、排除してしまう。
奈央の中にある矛盾が、はっきりと表現されていました。
森尾舞さんと西山聖了さんの名取事務所コンビが演じる、果樹園を営む姉弟は、よくできた人たち。甥夫婦にも好意的です。
ところが、弟の則夫は、芙羅武が箱罠を作り、誘い込むために使った梨に毒を入れてサルを衰弱死させたことを知ると、人が変わったように怒り出す。
芙羅武も、良かれと思ってやったことだったのでしょう。でも、その行動が決定的な軋轢を生んでしまう。
命を守ること、生活を守ること。どちらも簡単には割り切れない問題です。
日常会話の中に、迫力が立ち上がる。
強さと面白さが混ざり合っていました。
横山さん自身が演出したら、また違う雰囲気になったのかもしれません。でも、西本さんの演出で、この7人の役者さんたちが演じる舞台を観られたことは、とても刺激的でした。
そして、73歳の竹下景子さんが演じる律子。
優しいだけではない、この土地に根を下ろしてしっかりと生きてきた人の、しなやかさが感じられる素敵な女性でした。
さて、観終わって考えたのが、この題名。
『追熟しない果実』。
チラシのサブタイトルには「人は変われるのか」とあります。
頑固なところは変わらない奈央。相変わらずいい加減なところのある甥夫婦。
そして、則夫が芙羅武に言い過ぎたと謝ろうとしたときには、芙羅武たち一家はすでにいなくなっている。笑うしかない。
則夫の人の良さも、変わらない。
人は変わろうと思えば変われるし、実際に変わる人もいると思います。でも、そう簡単には変われない人もいる。
人間って、そういうものなのかもしれません。
災害からの復興を進めたい。移住者を受け入れ、地域を活性化させたい。多文化共生を目指したい。
変わらなければいけないことは、たくさんある。でも、現実はなかなかそう簡単にはいかない。
当日いただいたチラシに「多文化共生」という横山さんの言葉がありました。
それも含めて、社会や人間が変わっていくことの難しさが、この題名にも込められているのかな、と今になって思います。
果実は、時間がたてば熟していくもの。でも、いつまでも変わらないものもある。
人は変われるのか。
そして、変わることを待つだけでいいのか。
そんな問いが残る作品でした。
しかし面白かったなあ。
