いきなり重くて長い話だけど、自分自身の気持ちを整理するために。
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去年の夏、僕がアラスカへ出発した1週間後に父は入院し胃のほとんどを手術で切り取った。父の病名は胃癌だった。
なにかと問題の多い職場はもちろん(父は高校の教師だ)、痴呆が進んで徘徊をくりかえす祖母や、祖父の突然の交通事故死とその後処理、そしていきなり会社を辞めて自転車で海外を旅するなんて言い出した僕が父の胃に負担を与えていたのかもしれない。
もともと責任感が強く真面目な父は、なにをするにしても真正面からぶつかってしまうので、溜め込むストレスが普通の人以上に多かったのだと思う。
僕が父の病名を知ったのはアラスカへ出発する2週間前ぐらいだった。父が僕に直接伝えた。頭の後ろに大きな穴が開いてシューシューと空気が抜け出していくような気分だった。祖母、祖父に続いて今度は父か…と思った。悪いことはドミノのように連鎖するものらしい。
僕は旅を延期するか、そのまま出発してしまうか決断しなければならなかった。
いや、ちがう。
そもそも旅の「延期」なんてありえなかった。7月以降にアラスカに出発した場合、おそらくカナダの半ばで冬になり、その時点で旅を中止せざるをえなくなる。出発は7月でも遅すぎるぐらいだった。つまり「旅の延期」は即、「旅の中止」を意味していた。僕は旅の「続行」か「中止」の選択を迫られていた。
僕が旅を中止していれば少なくとも父の抱えるストレスを減らし、それをリカバーする事だってできたかもしれない。でも、僕は旅を中止しなかった。予定通り2005年の7月7日にアラスカへ出発した。
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旅の続行は僕自身が一人で決めたことだった。誰にも相談はしなかった。旅を続行するにしても中止するにしても、自分自身で決めなければ後々必ず後悔するだろうと思っていた。
僕は日本で父と辛さを共有するよりも、日本を飛び出して僕自身が旅を楽しむことを選んだ。すこし引け目を感じたけれど、強がりの父のことなので自分が弱った姿を息子に見せたくはなかっただろうと思うし、旅を通じて僕が少しでも成長していればそのことを喜んでくれるだろうと思った。
結果的に僕が旅を中止しなかったことは正解だったと思う。ロサンゼルスで旅を一旦打ち切って帰国した時、広島空港で出迎えてくれた父はすこし痩せていたけれど僕が想像してていた以上に元気そうだった。最近では胃癌も致命的な病気ではなくなっているし、僕がシリアスに考えすぎていただけかもしれない。カラ元気を差し引いても元気そうな父の姿をみて安心した。轍を途切れさせてでも一時帰国して良かったと思った。
半年ぶりの我が家に帰って、僕はビールを父はオチョコ一杯の日本酒を飲みながら旅の話をした。
僕の旅の話を聞いて父はとても喜んでくれた。母の話によると父は僕が一人でアメリカとカナダを自転車で旅していることが自慢だったらしくて、いろいろな人にその話をしていたらしい。意外だったけれど嬉しかった。人の気持ちなんて聞いてみないと分からないものだと思う。
父は手術とその後のリハビリを武勇伝のように話した。内視鏡で手術するハズが途中で開腹手術に切り替えたので手術後の回復に時間がかかったことや、胃のあった部分に小腸をつなげているんだけど胃ほど膨張しないので食べ物を時々もどしてしまうことなどを聞いた。食べたくてもすこししか食べられないのが一番つらいらしい。
病人は自分の手術跡を他人に見せたくなるらしく、風呂上りに父はパンツ一枚の姿でお腹の傷を僕に見せた。お腹の真ん中に真っ直ぐ縦に走る15cmぐらいの手術跡自体は驚くほどのものでもなかったけれど、元々ガッチリした体格だった父の痩せ具合はショッキングだった。
骨の浮き出た背中やあばら。脂肪がなくなってダブダブに垂れ下がったお腹の皮膚。枯れ木のように細くなってしまった腕と腿。とても直視できるものではなかった。顔がそれほど痩せていなかったので安心していたけれど、父の体は僕が思っていた以上にダメージを負っていた。僕は、スリムになってよかったじゃん?とムリに笑うのがせいいっぱいだった。
父と母には3月の上旬ごろに旅を再開さたいことをまだ伝えていない。言うタイミングを逃してしまったこともあるけれど、この2人を日本に残して本当に旅を再開させていいのだろうかという迷いもある(母も父の看病で疲れているように見える)。日本に帰ってまだ2週間だけど旅への気持ちは膨らむばかりで、それに比例するように迷いも膨らんでいてとても複雑な気持ちが頭の中で渦巻いている。
ロスにいたときは日本に帰ったらあれもしてこれもして…って考えていたんだけど、イザ日本に帰ってみるとなんだかなにも手につかなくてこの2週間ほとんどなにもしていない。決断を先延ばしにしてもなにもいい事はないってのは分かっているんだけど、ぐだぐだと一日を過ごしている。
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かなりシリアスな話になっちゃったけど、どこかに自分の気持ちを思うままに吐き出さないと整理できなかったのでこのブログに書き出してみた。すこし…っていうか、かなりスッキリした。旅の話をブログにアップしようと思って写真を整理していると、次の旅への思いがグアッ!と膨らんできて、だけど迷いもグアッ!と膨らんで頭が混乱していたけど、この話を書いているうちにやっぱり僕は旅を再開したいんだってことが分かった。
焦ってもろくなことがないって事は分かっている。すこしづつ、あせらず、ココロとカラダの準備ができたら、できることから、なにかはじめようと思う。